目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第137話 Side『宇宙の虎』

 

 大戦前。

 

 ジオン興国の父、ジオン・ズム・ダイクンが何者かに暗殺された後、ザビ家が政治の実権を握った。

 

 それを良しとしない派閥や一部過激な大衆が、サイド3のとあるバンチにて、数万人単位の決起集会を行うという情報を得た軍部は、シーマたち海兵隊に残虐な司令を下した。

 

 バンチコロニーに鎮静用の催眠ガスを流し込み、暴徒を一気に鎮圧させる。

 

 催眠ガスといっても毒物だ。身体に合わなければ死者もでる。集会参加者だけでなく、そのバンチに住まうただの住民すら巻き込むものだ。

 

 それでもシーマたちはその任務を遂行した。

 

 拒否権はなかったし、断れば生命を奪われていたかもしれない。

 

 だが、実際は催眠ガスではなく、致死性の毒ガスであった。

 

 目の前で人形のように人が倒れ、死んでいく様は、今でもシーマの脳裏に焼き付いている。

 

「貴様は、以前ダイクン過激派の鎮圧作戦に従事したことがあるな」

 

「はい。それは――」

 

 何を言おうとしたのか、自身でもわからず、シーマは口を閉じた。うまく舌が回らない。

 

 冷たい汗が肌を滑っていく感覚がする。あの日の出来事が、目の前で再現されて行くような錯覚を、シーマは頭を振って追い出した。

 

「突撃機動軍の部隊統廃合が決定している。少なくない数の人員が地上に降りる手筈だ。今回のように、大規模でありながら表に出せない事情をこなせる部隊は、お前のとこしかないというわけだ」

 

そういうこと(・・・・・・)ですか」

 

 ――任務に失敗したら、アタシらに全部おっかぶせるつもりだね!

 

 シーマは軍を信用していない。

 

 自分の部隊にいるのは、札付きだらけだ。死刑を免れるために軍属となった者も多い。

 

 統率力を少しでも上げるため、全員の出身地がマハルコロニーでまとめられている。

 

 マハルはジオンでも屈指のスラムコロニーであり、ズムシティに暮らすようなことはできない貧乏人たちが集う場所だ。

 

 つまり、ザビ家の連中にとっていつ捨てても惜しくない石ころでしかないのだ。

 

「ふむ、貴様はアサクラの元でだいぶこき使われていたようだな」

 

 シーマは答えない。

 

 そうした命令を出していたのはアンタだろうに、と相手の顔を見た。

 

「そのアサクラだがな、こたびのテロリストどもに我が軍の情報を流した疑いがある」

 

「は?」

 

「既に捕縛されている頃だろうな。奴はすべてお前たちが勝手にやったことだとするつもりだったようだが」

 

「あの野郎!」

 

「こちらとしても、優秀な人員を失いたくはない。よって、先にお前たちを手許に寄せたというわけだ」

 

「ああ、もう!」

 

 シーマは腹立たしさに任せて髪をかきあげた。

 

「失礼な態度をとっているのは承知していますが、少将、はっきり言ってください。アタシらは軍人ってより海賊に近いもんだ。政治なんてもんはわかりません。そんな思わせぶりな言い方じゃあ、理解なんてできんのですよ」

 

「言葉に嘘はない。貴様たちにはこれから、ダイクン過激派との闘争に使わせてもらう。私が思った以上にヤツラは軍内部に入り込んでいてな。これまで直属であった精鋭部隊といえど信用できんのが実情だ」

 

「だからアタシたちだと。過去にダイクン派を虐殺した、アタシたちなら、敵に与しないと」

 

 ダイクン派の天敵。理想主義者の多い派閥だ。憎まれこそすれ、その息がかかることはないということだ。

 

「そうだ。そして、虎を躾けるには首枷がいるだろう」

 

 部隊内には、家族を人質に取られているものも多い。反抗すれば即座に伝わると、キシリアは言った。

 

「はっ! よっぽどわかりやすくなったね! 外道には外道をぶつけるってわけだ!」

 

「お前が、お前たちが軍をどう思っているかなど知らん。信賞必罰は軍の習いだ。功績を見せよ。さすればサビ家はそれに見合った報酬を約束してやる」

 

 キシリアからの挑むような言葉に、シーマは笑った。

 

 獰猛な、飼い主の首筋にすら噛みつかんとするような、虎の笑みだった。

 

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