目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
少将直轄というのは伊達ではなかった。
先の作戦で消耗した以上の物資が補充されただけでなく、グラナダにて、新型のザンジバルⅡ級を受領した海兵隊は、慣熟航行を名目に作戦領域へと向かっていた。
旗艦リリー・マルレーン。
古巣であった艦と同じ名を引き継いだこの艦の艦橋にあって、シーマの心は晴れない。
キシリアはこちらの恫喝じみた態度に怯むこともなく、ただ冷たく任務遂行と、失敗時はこちらの首を切ると宣言した。
つまり、テロリストによってコロニーが大質量兵器として使用された場合、そのテロリストと共と同じく全員を消すということだ。
「せっかく新造艦まで貰って昇進したってのに、浮かない顔じゃねぇですかシーマ様」
「大佐と呼べデトローフ!」
自身の副官で艦長でもある男を一喝し、シーマは鼻を鳴らした。
コロニーを使ったのは海兵隊を含むテロリストたちの独断。
失敗すればそうなる。
だがそれをする必要はなんだ?
ずっと考えていた。
首を切る必要があるのならば、わざわざ直轄部隊に任じる必要はない。
今まで通り別の仲介役を置いて、ただ命令だけを下せばいい。いざというときはそいつ共々捨て去ればいいだけだ。
このテロリストの存在が明るみに出れば、そして自分たちが失敗してコロニー落としなど行われれば、
こちらを切り捨てるつもりなら、なぜわざわざ紐付けなどしたのか。
――少将は、ギレンと折り合いが悪いって聞いたことはあるが。見せかけだけか?
政治というやつはいつだって複雑だ。一介の兵士でしかないこちらには、何も伝わるものはない。
誰かの手のひらの上で踊らされているという事実が、シーマにとってはひどく不快だった。
艦橋のドアが開き、男が入ってきた。
「大佐殿、そろそろ宙域に着くと思われますが」
「まだ時間はある。おとなしく座ってな、大尉」
長い銀髪を後ろで結ったヘアースタイルの美丈夫だ。
精悍すぎる顔だちと身に纏う雰囲気が、年齢よりも老成した人物であるように周囲に見せている。
銀髪の男――アナベル・ガトー大尉は敬礼をすると、ゲスト用の席へと腰を落ち着けた。
――肝が座ってんじゃないか。
クルー全員の敵意を込めた視線が、ガトーに投げつけられる。中にはこれみよがしに舌打ちをこぼす者までいた。それらのすべてに気づいているだろうに、男は微動だにもせず、ブリッジの強化ガラスの向こうの宇宙を見つめていた。
シーマは視線だけで部下の軽はずみな行動を掣肘すると、自らも舌打ちしたい気分を追いやった。
この大尉は、急遽、宇宙攻撃軍から派遣されてきた人間だ。
ソロモンの第302哨戒中隊の隊長を務めていた男。
件のテロリスト軍には、この第302哨戒中隊のメンバーの大半が参加しているという。
中隊隊長であったアナベル・ガトーは部隊からの信頼も篤く、賊軍に誘われもしたが、その人物を粛清したのだそうだ。
つまり今回のテロリスト軍の動きは、このガトー大尉からもたらされたものであった。
そして、自らの身の潔白と、旧友ともいえる部隊員の説得を願い出てここにいる。
要は今回のお目付け役と言えた。
――ったく。諜報部は何やってんだい。
廃棄されたコロニーといえど、占拠されるまで気づかないなんてどうかしている。
それとも、諜報部にまでダイクン派が喰らいこんでいるのか。
――気に食わないね。ああ、まったく気に食わない。
自らが出すピリピリとした空気に、デトローフが肩を竦めるのを横目にして、シーマは前方の暗い深淵をにらみ続けるのだった。