目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
シーマ艦隊がテロリスト鎮圧のために『LA2080−17BP』に向かった日よりも数日前。宇宙世紀0079、10月。
その報はドズル中将よりグラナダにもたらされた。
「火急だぞキシリア!」
「突然ですな兄上。秘匿回線まで使っての緊急呼び出しなど」
マスクを下げ素顔を晒しながら、キシリアはモニター目いっぱいに映る次兄の顔にやや気圧された。
「報告は聞きましょう。まずは落ち着いて話していただきたい」
「そんな悠長なことをいっとる場合ではない!」
今度は机を叩くドズル。彼の隣りにあったジオン紀章の入ったマグカップが勢いで跳ねあがったのを見て、キシリアは思わず自身のデスクにある水差しを見てしまった。
「造反だ! ソロモン第302哨戒中隊が本要塞を離れて単独で行動しとる!」
「中隊が丸ごとですか?」
「いや、半数だ。だが、奴らは『真のジオン』を名乗って行動している。部隊長のガトー大尉が突き止めた」
『真のジオン』は諜報部でも追いかけている符牒だ。
ダイクン過激派を核とした、ニュータイプ信仰宗教に近い。軍内部にシンパが多く。その実態を把握しきれていなかった。
ザビ家が実権を握るに当たって、当時の過激派達に対しては、徹底的に粛清を行ったが、どのような網でもほつれはあるものだ。
そして
「隊長が突き止めたと言いましたな」
「アナベル・ガトー大尉だ。中隊長を務めていたが、『真のジオン』への合流を求められたそうだ。接触してきた部下を射殺し、さらにMSを奪取した賊を追ったが、逃げられた。やつら、12機ものゲルググを奪っていきおったのだ!」
「兄上、そちらで連絡の取れていない部隊はいかほどお有りですか?」
キシリアは考える。
ここへ来ての強引な離脱。
何か大きな動きを起こす前触れであろう。
存在は把握していたが、まさか大戦中に動くとは思いもしなかった。彼らとて連邦からの独立は、故ダイクンの悲願でもあるはずだ。
連邦との諜報戦で諜報部が疲弊している隙をつかれた。
「……わからん。ミノフスキーの影響で確認のできていない部隊は少なくない。現在だけで定時報告のないものは10に上る。もしそれらがすべて造反となれば、規模としては一個大隊に届くだろうな」
「まさかそこまでですか。そこまで大々的な動きが、我らの耳に入らないとは」
キシリアは唸った。
これは諜報部にもダイクン派が食らい込んでいると見たほうが良さそうだ。徹底した人員の粛清をキシリアは決意する。
「問題はそれだけではない。接触してきた人間からガトーが手に入れた情報によると、ヤツラの集束場所はここだ」
端末に送られた座標に、キシリア柳眉を歪めた。
モニター先のドズルも苦々しい顔を消そうともしない。
「……廃コロニー群。賊はコロニーを兵器として扱うつもりか」
「にぶい俺でもわかるぞ。一個大隊程度の戦力でクーデターなどできるわけがない。それに、ヤツラは『独裁者ザビ家に天誅を』と宣っていたそうだ」
「天誅……地球にコロニーを落とすつもりかもしれませぬな」
「大戦前に、作戦部がたてたプランXだな」
ギレン総帥の一声によって却下された作戦であるが、開戦前に作戦総本部が提示したもののなかで、もっとも過激なもの、それがプランXであった。
サイド5を含む各コロニーを電撃的に襲撃し占拠。コロニーそれそのものを大質量兵器として地球のジャブローに落とす。
この、行われていれば間違いなく人類史最大級の非道と誹られる作戦は、当時のジオンと各コロニーの経済関係と、ギレン
総帥が提唱した『コロニー経済圏構想』に反するものとして破棄された。
「今コロニーを兵器として使おうものなら、ここまで練り上げたコロニー間との関係が白紙に戻りかねません」
「狂気の沙汰だ。だからなんとしても止めねばならん! 俺はこれより討伐部隊を率いて出撃する! キシリア、貴様は兄上にこのことを報告してくれ!」
「お待ち下さい!」
素早く思考をめぐらし、キシリアはドズルの行動を制した。
「総帥への連絡はなりません。これは我らだけで抑えねばならない」
「バカを言うなキシリア! 保身のつもりか!?」
「まさか。奴らの目的がコロニー落としであるにせよ、そうではないにせよ、ここへきて軍の内乱など他国に知られるわけにはいきますまい。ジオンはザビ家により強固に統率されている。だからこそ、宇宙はまとまっているのです」
だが大規模な内乱となれば、不安定な戦況のなかで連邦へ日和るサイドも出てくるだろう。そうなれば天秤がどう傾くかしれたものではない。
「なにより、大規模な軍を動かすことはできますまい。連邦だけでなく、他サイドも刺激することになる」
ソロモンにもっとも近く、まとまった軍力をもっているのはサイド4のムーアだ。
特に現首長であるフレミングは連邦寄りだ。息子も連邦士官になっていたはず。隙を見せれば一気にソロモンを抜け、本国まで叩かれかねない。
「ソロモンの守りは必要です。ならば、少数精鋭で叩くしかないでしょう」
「ならばなおさら、兄貴に――」
「部隊は私の方で。もともと隠密に長けた人員を揃えております」
ドズルは押し黙り、じっとキシリアを睨みつけた。
「キシリア……妹よ、まさかお前――」
「ええ。万が一鎮圧に失敗すれば、すべて私が被りましょう。我らはまだ、兄上を失うわけにはいかない」
そう告げるキシリアの脳裏には、自身が士官学生であった頃
にギレンとかわした光景が思い出されていた――。