目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第140話 挿話『在りし日の』

 

「キシリアよ、お前は夢を見たことはあるか?」

 

「夢、ですか?」

 

 夏の日。ザビ家本宅庭園。士官学校の休みに短い帰省をしていたキシリアは藪から棒にギレンに言葉を投げかけられた。

 

「私とて人ですよ。寝れば見ることもあります。理想という意味ならもちろん持っております」

 

「言葉が悪かったな。正夢、というやつだ」

 

「はぁ」

 

 長兄は優秀である。

 

 高い知力と知見、そして己の理想を実現するために行動する力をもった、ザビ家の傑物。

 

 若くして父デギンの秘書として政治を学びながらも、今では政策に積極的に関わり、着実に実力をつけてきていた。

 

 幼い頃は強い対抗意識を燃やしたものだ。自分とて優秀であると。女であっても、政治を引っ張るだけの器を持つと。

 

 今では兄はザビ家において自身の最大の理解者でもあった。

 

 女の身ながら軍に入ることを決意した自分を、力強く後押ししたのも兄である。

 

「繰り返し見る夢があってな」

 

 兄の顔には自嘲めいた笑みが浮かんでいる。自分自身、らしくない話だと捉えているのだろう。

 

「ジオン独立をうたい、連邦に宣戦布告を行った。数で勝る奴らを討つために、地球にコロニーを落とす」

 

「我らの大地を地球に……過激でありますね」

 

 夢の話だ。だが連邦と対峙するならばそれほどの非道を行わねば勝つことも叶わないかもしれない。

 

「だがそれでも連邦は屈せず、我らは死力を尽くし、総力を挙げるも敗北する。ザビ家も、ダイクン家も潰える。40億人という人の命を消し去ってな」

 

「悲観に暮れ過ぎですね。夢は夢です」

 

 兄らしくない話だ、とキシリアは思った。自身から見た兄は泰然としており、このような不安定な話をするような人物ではなかった。

 

「お疲れなのでしょう。しばし静養をなさっては?」

 

「それでも時代は続く」

 

 兄はこちらの言葉を無視して続ける。

 

「連邦はスペースノイドの弾圧と統制を強め、棄民政策をより増長させる。一人の特権階級を生かすために、数万人という人間を虐殺してな。そして、単に夢であると一笑するものでもあるまい。このまま連邦が世の政治を握っていれば、いずれ起こる未来と言えなくもない」

 

「考えたくもない未来ですね」

 

「為政者というのは、常に未来図を描かねばならない。人類は増えすぎた。いずれどこかで間引きをせねばならん。だが、その線引は誰がやるのか」

 

「兄上、まさか」

 

「これよりザビ家100年、宇宙世紀の中心に立つには誰かが礎とならねばならんだろう」

 

「……落とすおつもりですか?」

 

 もしもそうだ、と答えるなら、兄と自分はここで道を分かつだろう。そう確信した。

 

 大量殺戮者、そんな汚名でザビ家の正統を汚す訳にはいかない。なんとしても、止めなければ。

 

「いや。お前の言ったように夢でしかない。だが、その時が来たならば、正夢にもなろう。だからお前には、ザビ家を守るために将校となってもらい、私の跡を継いでもらいたい」 

 

 その言葉は、キシリアにとって何よりも重く全身にのしかかってきた。

 

 物理的な圧力さえ感じて、キシリア自身が細身の女であることを悔いた。

 

「私では……背負えますまい」

 

 自らの台詞に、悔しさが込み上げ、肩が震えた。

 

 兄は、自らを時代への生贄とするつもりなのだ。

 

「これは親父とも話し合ったことだ。その時が来たならば、お前は我らの屍を踏み越えていけ。公国の意志を、未来にまで繋げるのだ。できるな?」

 

「士官学校に入りたての、若造にする話ではありませんな」

 

「夢の話だ。夢の、な」

 

 そう言った兄は初めて笑った。

 

 家族でも滅多に見ることのない、本心からの笑み。

 

 それはどこか少年じみており、その屈託のなさが、キシリアの脳裏に鮮烈に焼きついたのだった。

 

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