目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第163話 Side『もうひとつの箱』

 

(ターンエー)」の文字について確認するため、キサラギ女史を呼び出したところで、基地内の施設を調査していた班から報告が入った。

 

 マスドライバー区画のさらに地下へと続くエレベーターを発見したとのこと。

 

 そしてその地下には不思議な建造物があり、金属製の扉があったが開けることができなかったそうだ。そしてその扉には「∀」の文字がプリントされている。

 

 女史に問うと、「この文字を知っているなら、貴方なら入れるかもしれない」と言われ、共にその区画へと向かうことになった。

 

「しかし古いエレベーターだね。これ、いつからあるものなのかな、キサラギ博士」

 

「カスミでいいわ、中尉さん」

 

 黒い長髪、私服らしいブラウスとタイトスカートに白衣を羽織った彼女は、自分の立場が捕虜だと自覚してないのか、周りを取り囲む銃を持った兵士にたじろぐ様子もない。

 

「このエレベーターは、連邦が成立する前に日本政府が作ったものらしいわ」

 

「となると、下手したら100年以上前のものってことかな。まだ動くようでなによりだね」

 

 赤錆の浮きまくった金属フレームで囲んだだけのエレベーターは、ゆっくりと斜め下へ降りてゆく。

 

「聞きたいんだけど、なぜ僕ならその区画に入れると?」

 

「ひとつは、『(ターンエー)』の文字の意味を知っていたこと。もうひとつは、貴方が私と同類だからよ」

 

「同類とは?」

 

「貴方、あの蒼い機体をどう思う?」

 

 質問に質問で返さないで頂きたい。

 

 まああの機体は、欠陥品だ。感受性の強い子供の脳を使って、敵意への過剰反応を強制的に起こし、リミッターを解除した機体で強襲する。

 

 自身が動けなくなるまで敵味方関係なく暴れまわるバーサーカー。

 

 しかもその仕様上――同士討ちしちゃうから――単騎で扱わなければならない。

 

「わざわざMSに搭載しないで、ミサイルにでも詰め込んだほうがよっぽど有意義じゃないかな」

 

 ミノフスキー粒子の影響を受けず、敵に向かって精確、かつ迎撃を避けながら飛翔するミサイルとか。つまりはファンネルミサイルである。

 

 そうつぶやくと、カスミ女史はにんまりと笑った。

 

「そう。だからアレは欠陥品。わざわざMSに搭載する意味がない。貴方も、人を使い捨ての資源としか見ていないタイプの人間てことよ」

 

 彼女は笑うと同時にエレベーターが停まった。

 

 そこはだだっぴろい空間で、僕の目の前には、銀色の巨大な壁が見える。

 

 壁の正面には「∀」の文字が、赤く明滅していた。

 

「この壁の材質は未知のもので、傷一つつかんのです」

 

 調査をしていた技師がそう答える。

 

 扉のようにも見えるが開け方がわからないので、強引に突破するために、爆薬を試みたが無駄で、レーザートーチすら歪められ弾かれたそうだ。

 

 Iフィールドバリアかな?

 

「相当古くからあるものだけど、経年劣化してる様子もないのよね」

 

 カスミ女史が首を捻る。

 

 材質が∀ガンダムと同じものなら、表面はナノスキンで覆われているかもしれない。

 

「カスミ女史、貴女は中に入ったのでしょう?」

 

「ええ。その文字が描かれている場所の正面に立って、手を触れたら入れたわ」

 

 言われた通りに立つ。そして触れる。

 

 触れた箇所から虹色の光がはもんのように広がって、冷えた金属の塊が熱を帯びていく。

 

 そして微かな振動とともに、壁は目の前で左右に分かれ、先へと続く通路が現れた。

 

 奥に進む際に、護衛の一人が犠牲になる。

 

 女史が止めたのだが、頑として譲らなかった軍曹が先頭を歩き、網の目に照射されたレーザーでサイコロ状に切り刻まれた。

 

 唯一の救いは、断面が見事に焼き切れていたため、あまり血が流れず、掃除しやすいことだろう。

 

 どうも認証された人間以外は排除するトラップがいくつも仕掛けられているようだ。

 

 渋る護衛を置き去りにして奥に進むと、そこはドーム状の広間だった。

 

 特になにかあるわけではない、銀色の壁に包まれたドーム。

 

 中央、これみよがしに台座があり、透明なプレートが載せられている。

 

「それに掌を乗せてみて」

 

 言われた通りにすると、プレートが光り、眼の前にいくつものウィンドウがARで展開された。

 

 そこに映し出された一文字。

 

「『BLACK CHRONICLE CODE』か……黒歴史(・・・)、ね」

 

 僕の生体情報をシステムが読み取ったのだろう。

 

 さらにドームの宙空に無数のウィンドウが開き、ある映像が表示された。

 

「これは……すごいわね! 私のときはこんな反応はなかった!」

 

 カスミ女史が背後で驚きに満ちた声を出す。

 

 ARウィンドウに映し出されたのは、アニメ、ガンダムシリーズの映像たちだ。

 

「これは、全部過去に起きたことなのかしら?」

 

 女史の呟き。

 

 でも、そうじゃない。

 

 理解してしまった。

 

 僕はずっと、ガンダム……宇宙世紀の世界に転生してしまったと思っていた。

 

 でも違ったようだ。

 

 この謎のシステム『∀』からあたまのなかに流れ込んでくる情報がそう告げている。

 

 ここは、この世界は『箱』なのだ。

 

 どこかの誰か――『箱』の外に存在するものが観測するために造った世界。

 

 いわば箱庭(ビオトープ)がこの世界の正体なのだ。

 

『箱』外の存在にとって、僕らはうようよする微生物、あるいはデータの羅列でしかないものであり、彼らを愉しませるためだけの玩具なのだろう。

 

「なるほど、ね」

 

 この僕の転生した、という記憶も外部から与えられた偽りの記憶なのかもしれない。

 

 そしてこの『∀』というシステムは、この箱庭に変化を与えるべきカンフル剤といったところか。

 

「私のときはここまでの情報は引き出せなかった。貴方なら、もっと深くまで探れるんじゃないかしら」

 

 女史の言葉にうなずく。

 

 底までさらえるぐらいだ。

 

 このシステムは個人に設定された生体認証キーのレベルに応じて知識を引き出せるらしい。

 

 カテゴライズされていても、未だに膨大なライブラリをざっくりと閲覧していく。

 

 単にガンダム作品の映像記憶があるだけではなく、この世界にて、人類が発見した科学技術がここには蓄えられている。

 

 ふと、ここに来る前、ガルマ准将が言っていた言葉を思い出す。

 

「この戦争を終わらせる鍵、か」

 

 准将、まじでニュータイプかな。たしかにこの『箱』は使い方によっては戦争――というより、今の人類社会を崩壊させかねない代物だ。

 

 そして、旧世紀の日本で研究されたある技術に当たる。

 

「あー准将、見つけてしまいましたよ」

 

 思わず遠くのガルマくんに向けてつぶやく。

 

 戦争を終わらせる鍵。それは間違いなく日本(ココ)にあった。

 

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