目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
ジオンの独立宣言に起因した連邦とサイド3の戦争は、当初連邦陣営が思い描いていたものと異なり、ジオンが圧倒的物量差をMSという新型機動兵器と、コロニー経済圏構想による、他サイドとの同盟、さらに
連邦は大規模反攻作戦の布石として、宇宙軍が主導してMSを開発、戦線へ投入することを決定。
MS自体は開戦前から宇宙軍が研究開発を行っており、実践に耐えうる兵器はすでに用意可能であった。
しかし肝心の乗り手がいない。
宇宙軍は、MSを当初は無人で運用するつもりであったため、パイロットの育成が遅れていた。
なにより開戦初期のルウム戦役と、ジオンの地球降下による主要都市の電撃占領戦により、優秀な兵員を多く失っていたのも響いた。
陸軍には人員が残っていたが――原作と異なり、隕石落としによる被害が比較的少なかった――ルウムで減少した宇宙軍の艦隊再建の要たるビンソン計画によって、大幅な予算を取られたことと、反レビル勢力の台頭もあり、他部署からの人材の融通は上手く行ってはいなかった。
とはいえ、それでも宇宙軍は増員を急いでいた。そして、隕石落としからの復興事業に多くの予算を取られたことで、連邦軍全体での人材登用に偏りが生じた。
海賊や元脱走兵など、どこの軍隊にもいないはずの人間までが軍には志願するようになり、そんな人間でも使いものになるように教導隊からの教育が行われた……。
しかし、それでも今の宇宙軍は慢性的に士官・下士官が不足している状態にある。
これを解決するために、軍の士官年齢を引き下げ、まだ学徒であった一部の人材を正規の兵士として徴用した。
シロウ・イツアキ少尉。
極東沿岸部、連邦海軍軍港のある町で育った16歳の少年である。
連邦空母や海上艇を見て育った彼は、いつしか自分も連邦海軍に入隊し、艦艇の指揮を執ることが夢となっていた。
親の反対を振り切り、連邦軍の士官学校へと入った直後、連邦はジオンと開戦、隕石が地球に落ちた。
太平洋に落ちた破片により尋常ではない津波が発生し、彼の生まれ育った町は壊滅。父母も失った。
失意に飲まれる間もなく、彼に辞令が下る。
戦時特例として任官時期を早められた彼は、極東にて密かに進められているMS教練プログラムの研究、構築チームへの参画が決定した。
異例とも呼ぶべき年齢での早期起用は、彼がシミュレーターにて高いMSパイロット適性を示したからにほかならない。
極東北部。
僻地と呼ぶに相応しいその地に着いたとき、彼は驚愕する。
「げっ! カス姉!」
「誰がカスだ」
局長に赴任の挨拶に向かったシロウは、局長室のデスクの前で、白衣を着た女性と出会う。
カスミ・キサラギ。同郷の人間であり、幼い頃は自分の面倒――という名の、いびり――をしていた人物だ。
「え、なんでアンタが居んだ?」
「口のきき方には気をつけろと何度も言ったろう。ここに私が座っている理由は、私がここの局長であり、軍では中尉待遇のポジションにいるからだ」
「え、カスがそんな偉いのかよ」
口走った瞬間、殺気を感じて顔を横に滑らせる。
固い何かが先程まで頭のあった場所を通過していき、壁に突き刺さった。
ペーパーナイフだ。
「誰がカスだ」
(そういうところだ)
シロウ少尉は賢明にも言葉を口にしなかった。昔から彼女は、自分の目的のためなら平気で他人を傷つけることのできる人間であった。
高い知性の裏に隠された嗜虐性。
シロウ少尉は幼い頃、さんざんそれに巻き込まれた。
今でも憶えている。夏のある日、五歳のシロウ少年が庭に広げたビニールプールで遊んでいたとき、一緒だった彼女に向けて水鉄砲を浴びせた。それは幼稚な男の子のいたずらでしかなかったが、翌日、彼女は近所の玩具屋から大きなプラスティックのライフル銃をこっそりと持ちだし、こちらに狙いをつけたのだ。
バッテリーと空気の力でプラスティックの弾を撃ち出す玩具といえど、至近距離で直接肌に当たればとてつもなく痛い。しかもフルオートで放たれるそれは、容赦なく少年の体を襲った。
からくも逃げ出し、その日の夜に風呂に入ると、体のあちこちに青痣があった。
『シロウはダメね。何を感じているかわからないわ。貴方は、私の言う通りにしていればいいのよ』
翌日悪びれもせずにこやかにそう告げてくる彼女に、はじめて他人への恐怖を感じた。
「着いてきて。貴方を実験チームのメンバーに紹介するわ」
「実験って……俺はここで、新兵器のテスト用員だと聞いてきたんだが?」
「そう、
白衣のポケットに手を突っ込みながら、颯爽と歩いていく彼女に、足早になってついていく。まるで
「私が貴方を呼んだの。この私の造った兵器のテストパイロットになれるんだから、喜ぶことね」
「その性格いい加減に直せ」
「貴方も口を直しなさい。一応はここは軍施設よ」
「わかったよ……いや、わかりましたよ局長殿」
彼女は立ち止まって振り向いた。
「貴方は上官である私の言うことをきいていればいい。簡単なことでしょ? あの頃と変わらないわ」
感情の見えない、悪魔の笑みであった。