目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
模擬戦を終え、整備と戦闘データの抽出の為にハンガーへと
戻ったシロウの背中をボルクが力強く叩く。
「おうシロウ! 熱くなりすぎたんじゃねぇか?」
彼は南アフリカの小部族をルーツにもち、熊のように大柄だ。彼はGM4のナンバーが割り振られたRGM79−〔EJ〕のテストパイロットである。
シロウを除けば部隊の中では若手であり、まるで兄貴分のように振る舞っていた。
「お前の大事な
「うるせぇな……どちらにせよ、あのままじゃ数で圧殺されてた」
どの道不公平に仕組まれた状況だったのだ、とシロウは不平を告げる。
1体1なら、部隊の誰よりも上手くやる自信はあった。
「ボルク! 先程の体たらくはなんだ? 戦闘中は常に気を張れと言っておいたはずだぞ!」
ハイ・バリトンのよく通る声が響く。
GM1――この極東試験部隊の隊長であるモーガン曹長である。
「貴様の機体は狙砲撃に調整された機体だ! 格闘戦には付き合うなと言っておいたはずだぞ? お前が足を止めたせいで、GM2の射線を塞いだ。カカシのようにぼんやり突っ立つなら畑だけにしろ! カラスを追い払えるだけまだ他人の役に立つ!」
モーガンはよどみない口調でボルクをこき下ろした後、シロウに目を向けた。
「だが、最悪なのは貴様だGM8! 数で包囲されるなと言ったはずだ! 算数はできるか? あの時の敵の数は何人だ?」
「チッ! いちいちうるせぇな」
部隊の階級としては、シロウが少尉であり、モーガンよりも高位である。しかしまだシロウは10代、連邦の早期兵員増強施策によって強引に正規兵へと醸成させられた学徒兵であり、部隊を率いた経験は皆無であった。
モーガンはすでに幾度も実戦を経験したベテランであり、この試験部隊の過半数が彼と戦闘を共にしたメンバーである。そのため、実績と実力から彼が部隊を率いることになっていた。
「貴様はあのまま引き撃ちを続けるべきだったな。機体の装甲厚と武装の射程の均衡差を使えば、勝てないまでも負けはしなかったはずだ」
距離を取って射撃戦。
それは
ゴム弾仕様とはいえ、ビームライフルと設定されたライフルの射程はモーガンたちのジムトライアルのライフルよりも長大であり、弾速の遅いショルダーマグナムにだけ気をつけ、撹乱するように動けば乱戦に持ち込める。
いくら相手が速度重視の軽量機とはいえ、ジム1/8は連邦が総力を上げて開発したRX78型をベースとした高性能機であり、機動力で相手を振り回すことは十分可能であった。
そうしてから各個撃破する作戦であった。
つまり、仕掛けるのが早すぎたのだ。
「あんなチンタラ遊んでられっかよ!」
「まだ無駄口を叩く余力があるようだな。キャンキャン吠えるだけなら、まだ野良犬の方が歯ごたえがあるぞ。次のミーティングまでに基地の外周を10周走ってこい!」
「はぁあっ!? なんでそんなことしなきゃならねぇんだ!」
小規模基地といえど、外周部は広い。まじめにやっていたら日が暮れてしまうだろう。
「ボルク! お前は監視役だ。夕飯までには終わらせろよ」
「イエッサー! であります曹長殿!」
「けっ! 偉そうに……クソジジイが」
「敬礼はいい! さっさと行ってその野良犬をしつけてこい! 外周を15周だ!」
「増えてんじゃねぇかクソが!!」
「終わったら腕立てを30回10セット!!」
「あーーっっくそっ!」
不貞腐れつつも言うことは聞くシロウ。
一度歯向かったが、肉体言語で徹底的にやり込められた。
「ぼやくなよイツアキ。あれで曹長はお前のこと心配してんのさ」
「はぁ? 単純にイビリだろ」
中年オヤジが意味もなく若手に嫌がらせするのは、どの組織でもあることだ。
「ちげぇよ。お前、さっき勝負を焦ったろ。あの人はお前の体力が足りないこと見抜いてんのさ」
にやり、とボルクが笑う。
図星をさされ、シロウは顔を嫌そうにしかめる。
MSの操縦はかなり体力を消耗する。
閉鎖された空間、ミノフスキー粒子によって光学系や他部隊との通信も信用できない。
機械の駆動音、着弾する爆発音、アラート、閃光、歩行するだけで揺れるコックピット。
有視界戦闘はパイロットの神経を信じられないほどの速度で削っていく。
そして、自身の操作ミスが即座に死に直結するのだ。
まだ少年期から抜けきれていないシロウにとって、それらは見えずとも鋭い鞭の一振りとなって、成長期の身体を酷使する。
本人には伝えられていないが、そうした肉体的、精神的負担を軽減するためにも、シロウには対話型AI搭載機が割り当てられていた。
「お前、さっきの模擬戦で疲労困憊だったろ。さっきMS降りたときも足腰ふらふらだったじゃねぇか。華奢すぎんだよ」
「チッ!」
わかっていたことではある。
士官学校に入ったばかりで、ろくな訓練もなしに適性だけで正規兵に引き上げられたのだ。
実力を述べる以前に、基礎となるべき
少尉という肩書きも有名無実でしかないことは自分でも理解していた。
「わかったらまじめに走っとけ。幸い、飯抜きってわけじゃねぇんだしな」
「……15周も走ったら、腹に飯なんて入らねぇよ」
ぼやきながらも、彼は大人しく自らに課せられた