目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
基地の南に広がる森林部。
普段は演習場として活用している場にて、シロウは地雷埋設の作業を行っていた。
「それで、カスミのやつが大人しくあのいけすかねぇ男の言うことを聞くのか?」
『肯定。軍内の階級は絶対であり、ジャド・アーティフ氏は中佐相当となります。なにより、ジャブロー本部よりジャド・アーティフ氏のルナツー脱出が正式に命令されました』
抑揚なく答えるのは、RGM-79[T]1/8に搭載された対話式AIである『
彼――音声は女性であるため、シロウは女と認識しているようだ――はシロウからは、『エミ』と呼ばれている。
「それならさっさと宇宙に出ちまえばいいだろう。なんで居座ってんだ」
小型のシャベルで地面を掘り、その穴に対MS用地雷を埋設していく。
ムラサメ研究所の部隊が撤退してきたため、本来なら隠匿されるはずのこの基地の存在もジオンに知られることとなってしまった。
ジャド・アーティフは新型コンピューターシステムを積んだ
『RX-80PR/AN』と、開発者である自身をルナツーに上げることを要請してきた。
『難題。当基地にあるマスドライバーは、中規模コンテナを撃ち出すためのものであり、有人を想定されておりません』
これまでルナツーへは、ミディアで運んできた資材をコンテナに移し替えてマスドライバーで射出していたのだ。
人間を含めて、精密機器を撃ち出せるようには作られておらず、無事に宇宙に出すには専用コンテナの準備が必要であった。
よって地下にあるCAD/CAMシステムは、フル稼働で新型のコンテナを計算している。
そうしているうちに、ジオンに発見される。
当基地の周辺には探知用無人哨戒機がいくつも設置されているが、そのいくつかが、所属不明の偵察ドローンの姿を捉えたのだ。
ジオンが先行偵察のために使っているドローンであり、当基地の所在が敵追撃部隊にばれたのだと判断される。
当然だ。
撤退してきた部隊は、あろうことか通常回線でこちらと連絡を取っていたし、滞在中も呑気にジャブローと通信を行っていたのだから。
地図上では簡素な森のはずが、そこで突然通信量が増大したのである。通信の内容が暗号化されたものだとしても、傍受されれば、そこに連邦施設があるということは敵に筒抜けだ。解読する必要すらない。
ジオンの襲撃に備え、基地は厳戒態勢へと移行したが、そもそも近接防御火器の一つもない場所だ。
旧世紀の日本が使っていた古臭い装軌車両がカビと埃とともに倉庫に眠っているが、現代では使い物にならない。
防衛設備と呼べるものは一切ないだけでなく、MSパイロットと数少ない警備と部隊を除けば全職員が、軍事訓練など受けたこともない非戦闘員である。
これにムラサメ研究所から退却してきた護衛のMS小隊だけだ。
『ジオン軍の傾向として、拠点攻撃は少数での強襲が多いです』
「その代わり精鋭ってんだろ。新型MSを追いかけてこんな僻地までわざわざ出向くぐらいだ。手練れだろうさ」
だから少しでも基地の防衛力をあげようと、地雷の埋設など行っているのだ。しかし、その絶対量は圧倒的に足りないし、歩兵やマゼラ・アタック程度ならまだしも、MS相手には火力が足りなさ過ぎる。
『ジャド・アーティフ博士と、新型機脱出までの時間を稼げればよく、その後は降伏を提案します』
「肝心のコンテナができてねぇだろうが」
地下のCAD/CAMは、あの連中がやって来てから調子を崩して稼働していない。まずその復旧に時間を費やしていた。
だが、とシロウは考える。
「都合が良すぎんだよな。カスミは本当にお前のデータを渡したのか?」
あのひと癖も二癖もある女が、いくら上官命令とはいえ、大人しく言う事をきくとは思えない。
特にこの基地に所属する研究者たちは全員自分の研究にのめり込んでいるという表現がただしいほどの変人どもで、わざわざ中央からカスミについてきた連中なのだ。
「肯定。ジャド・アーティフ博士には、私のバージョン3のデータを明け渡しています」
「は? 今のお前はバージョンいくつなんだよ?」
「37.5です。対話機能はバージョン21からの機能となります」
とんでもない開きがある、とシロウは呆れた。どうめくらましたのかは知らないが、開発初期のデータを渡して、現行の仕様は伏せているらしい。
あの女狐のやりそうなことだ、と思った。
「CAD/CAMの故障も意図したものか?」
『回答できません。質問を変えてください』
「おいポンコツ、次のバージョンで嘘をつく機能でもつけてもらえ。とびっきりの
『回答。ワタシの名は《オールマインド》であり、ポンコツではありません』
「うるせぇな。テメェなんざ、ポンコツで十分だろ」
シロウはため息交じりに鼻を鳴らすのだった。