目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第173話 Side『ニューヤークの再会』

 

「これが大地というものか」

 

 身体にまとわりつく埃と重力に、ランバ・ラルは首を動かし、肩を鳴らした。

 

 この土の上に立ったのはいつぶりか。

 

 連邦との共同作戦で、反連邦勢力掃討作戦に長々と従事した身であったが、それでも自身は宇宙民なのだと自覚する。久方ぶりの重力は身体に重い。

 

 キャリフォルニアにてHLVを降りると、そこからは輸送機でニューヤークだ。

 

 上官たるドズル・ザビからの命で、ニューヤーク基地司令であるガルマ准将のもとに行き、特殊作戦に参加する。

 

 機密度の高い作戦ということもあり、ドズル中将からも内容を説明されなかったが、わざわざ宇宙軍所属の自分を指名するということは、おそらくは潜入、ゲリラ任務であろうとラルは推測していた。

 

 ニューヤークの空港に降り立つと、下士官が迎え、車で司令所へと移動する。

 

 車窓に映る街は、占領地とは思えぬほどに穏やかに見えた。

 

 ニューヤークはその統治能力でもって、ガルマモデルと呼ばれ、占領地の理想的な統治方法として本国ではプロパガンダされている。

 

「あのガルマ様がな」

 

 思わず呟く。

 

 ザビ家の末子と会ったのは、20年近く前だ。

 

 まだその頃はダイクンも存生しており、かの坊やは父親であるデギンに連れられ、議会後の懇親会に顔を出したことがある。

 

 ラルも父ジンバの護衛として参加しており、そこで挨拶をした際、顔を怖がられたのを覚えている。

 

 あれから時が経った。

 

 ダイクンは暗殺され、ジンバの命で遺児であるキャスバルとアルテイシア兄妹を保護した結果、ザビ家が牛耳るジオン軍で自分は出世コースから外れた。

 

 そのことは良い。自ら決めて動いたことだ。後悔もない。だがそのせいで、自分を支えてくれたハモンが同じ日陰者と見做されるのが心苦しかった。

 

 だがこのザビ家からの特務(・・・・・・・・)をこなせば、彼女の献身に少しは報いることができるやもしれない。

 

 程なく目的の場所へと着いたラルは、現着の挨拶のためにガルマが待つであろう執務室へと向かう。

 

 入口の兵士に敬礼すると、彼は木製の扉を開けた。

 

「ドズル・ザビ麾下宇宙軍所属ランバ・ラル大尉。ただいま現着致しました」

 

 執務机にガルマは座っていた。隣には、秀麗な顔をした女性が立っている。事務官用士官服を着ており、秘書なのだろう。

 

 ガルマはラルの顔を見ると破顔し立ち上がり、わざわざ眼前まで歩み寄った。

 

「宇宙からご苦労、大尉。貴殿と会うのは、いつぶり以来だったか」

 

「20年ぶりぐらいかと。憶えておいででしたか?」

 

「ああ、今思い出したよ。父上に連れられ、懇親会に出たときだな。あの時は怯えて済まなかったな。子供であったせいで、本物の軍人というものを、間近で見たことがなかったのだよ」

 

 ずいぶんと下腰の姿勢だ。

 

 ガルマ・ザビといえば、地球方面軍の英雄として、本国では持ち上げられている。もちろんそれは軍広報部のプロパガンダであるのだが、異例とも呼べるほどの出世をしたのだ、もっと傲慢に構えたものが所作から覗いてもおかしくはない。

 

「昔話を語りたいところだが、その前に君を呼んだ理由を説明しよう。兄上からは何も説明されてないだろう?」

 

「はっ! 最大級の機密に属する作戦であるとしか」

 

 ガルマは頷くと、後方に立っていた秘書官に目配せした。

 

 黒髪をした彼女が近づき、手にしていた書類をこちらに渡してくる。その時の視線に何か違和感のようなものを感じたラルだったが、すぐに書類に書かれた作戦内容に目を移した。

 

「……ジャブローへの長期潜入任務、現地住民への接触と武装支援ですか」

 

「そうだ。そのためにゲリラ戦の得意な貴殿を寄越してもらった」

 

 ジャブローの密林には、ごく少数だが連邦に反対する人間が不法に集落を作り潜伏している。旧世紀から密林で原始的な暮らしを守ってきた部族の末裔だ。

 

 彼らは連邦が先祖伝来の土地を汚しているとして、反旗を上げているものの、頼みの武装は旧世紀の骨董品しかなく、機械化された部隊も持たない。

 

 連邦自身、大した痛痒すら与えられぬ数百人程度の集団などまともに鎮圧するのすら馬鹿らしいものであるため、その存在は放置されていた。

 

「ゲリラ戦ならば経験はありますが……あいにく長期の潜入任務は経験がありませんな」

 

「ああ。そちらは技能に長けた人間を部下につける」

 

 ガルマの言葉に、もう一度書類に目を落とす。

 

 参加名簿には、簡潔ではあるが隊員の略歴が載っている。

 

「元サイクロプス隊に海兵隊からも何人か引き抜いていますな。他にはフェンリル隊? ほとんどが突撃機動軍で特殊作戦に従事していた者たちだ」

 

 技能集団と呼べば聞こえは良い。だが悪く言えば単なる寄り合いでしかない。そこに宇宙軍から来た人間が統率者となると、軋轢による支障が少なくないのでは、と懸念した。

 

「知っていると思うが、機動軍の特殊部隊群はその役目をほとんど終えている。そこで統廃合を行うことになったんだ。そこから選りすぐったメンバーを集めている。貴殿には悪いが、3日で隊を掌握してもらう。その後、ジャブローへ移動だ」

 

 ジャブローへは、連邦が定期便(・・・)などと揶揄しているガウの空爆に紛れ、潜水艇での上陸を行う。

 

 先般、奪取に成功したオーガスタ基地の潜水艇用ドックと、大型水上艇用港湾施設の修繕がほぼ完了した。これによりジオンは海峡での潜水艇活動を活発化さており、南米大陸上陸のための啓開も滞りなく行われる。

 

 また、この特殊任務のために、先日開発された最新のステルス搭載型水陸両用MSアッガイEが配備されることが決定されていた。

 

 このアッガイE型は、ハイゴッグよりも2まわりは小さいながら、ハイゴッグと同じく小型の潜水艇としての機能を有する。

 

 専用のモジュールを装備することで、搭乗者は、長期間の深海での活動が可能であった。

 

 だが――とラルは考える。

 

 上陸後、密林の中でどこにいるかすらわからないゲリラを探して接触。交渉によりジャブロー地表面の防衛設備の情報を入手し、可能ならば地下都市への潜入を試みる。しかも、機種転換訓練はなし。

 

 無茶な作戦であった。

 

「やれと言われればやりましょう。しかし、言わせてもらえるならば、いささか無謀な挑戦ではありますな」

 

 腹芸はできぬ。

 

 自身が死ぬだけならば構わないが、祖国に必要な優秀な人材が無駄に失われるのだけは避けたい。

 

「潜入するというのならば、隊の人間は今の半分でよいでしょうな」

 

 隠密行動に大軍はいらない。見つかりやすくなるだけだ。

 

「長期になるやもしれんからな。本部との連絡員も含むんだ。実際に上陸する人間は貴殿に任せる。やり方もな。必要なのは結果だ」

 

 加えてガルマは、本日づけでランバ・ラルを少佐に昇任することを告げる。

 

 自分が佐官になるという事実に、ラルは目を見開いた。

 

「貴殿のこれまでの尽力を思えば、むしろ物足りんぐらいだろう」

 

「いいえ! 過分な評価、ありがとうございます! このランバ・ラル、准将の信に必ずや応えてみせましょう」

 

「ふっ、固い話はここまでにしよう。作戦内容については、後で資料に目を通しておいてくれ」

 

 そう言いながら、ガルマは自身の後方に立っている秘書官に目配せした。

 

「今日、お前を呼んだのはもうひとつの要件があったからだ。いや、むしろこちらが本題とも言えるかもしれない」

 

 先ほどとは打って変わって、急速にガルマの言葉は歯切れが悪くなる。

 

 ラルは訝しみながら、黒髪の女を見やった。

 

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