目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
黒髪の女が、ガルマよりも前に出る。
やや野暮ったさを感じるメガネを外すと、驚くほど秀麗な顔立ちであることに気づいた。
「お久しぶりですね、ランバ・ラル少佐」
「はて、どこかで――」
そう言いかけながら、ラルの頭の中で記憶のピースが組み上げられる。
以前どこかで聞いたことがあるような声。そして、輪郭に残る面影。
「まさか……」
「はい。本当に久しいですね、
ラルはまるで自分が殴られたような、天地が勝手に回ったような衝撃を受けた。
「アルテイシア様……だというのか?」
「そうだ。彼女はアルテイシア・ソム・ダイクン」
ガルマの言葉にラルは思わず膝をつき、最上の臣下の礼を取った。そこで失態に気づく。
ここにはザビ家の者がいるのだ。ジオンの最高指導者は今はザビ家であり、ダイクンではない。
だが、ガルマは鷹揚であった。
「ラル、忠誠心はよいがそのままでは話ができない。時間は取ってある。こっちに座ってくれ」
応接用のソファに促される。
「ミシェ、悪いがコーヒーを入れてくれ。いつもので良い」
ガルマの求めに、アルテイシアは滑らかに動く。
呆然としたままのラル。
再度着席を促され、ようやく腰を落とすと、対面にガルマが座った。
「彼女はここでは、私の私的な秘書として働いて貰っている。偽名でな。彼女の淹れるコーヒーは美味いんだ」
「ただのインスタントよ。誰が淹れても同じですわ」
そう言いながら、彼女は人数分のカップをテーブルに置いた後、ガルマの隣に座った。
そこには、それぞれの血族間に横たわる忌避感といったものは見受けられない。
ザビ家とダイクン家が再び相並ぶ光景。
ラルは思わず目頭を押さえた。
「どうした少佐?」
「いえ……申し訳ない。私も歳を取って、感慨深くなってしまったようでして」
情けない顔を見せるわけにはいかぬ、と強く目を指で抑えて堪え、顔を向ける。
「まさか、アルテイシア様とこうして生きて再会するだけでなく、ガルマ様と並んで居られる姿を見るとは思いませなんだ」
「……ラル、君がダイクン家にどれだけの献身をしてきたのかは、彼女から話を聞いて知っているよ」
ガルマの言葉を受けて、アルテイシアが頭を下げる。
「まずは貴方に感謝を。あの時、貴方がたが尽力してくれたから、私はこの場に居ることができるのです。ありがとう」
ダイクン暗殺後の荒れた情勢の中、あらゆる派閥が幼かったダイクンの遺児を求めた。それを防ぐために、ラルは奮闘し、彼女とその兄をサイド3から脱出させたのだ。
「恐縮であります。いや、我が家はダイクン家には多大な恩義がありました。ただそれをお返ししたに過ぎませぬ。アルテイシア様がここに居られる、それだけで自分は感無量であります。お綺麗になられましたな」
「ありがとう」
「いえ……ところで、兄君もご壮健でらっしゃるか?」
その言葉に、ガルマ、そしてアルテイシアの顔が固くなる。
「兄は……」
「生きてはいるのだろうな」
ガルマはコーヒーに口をつけ、苦いものを吐き出すように言った。
「ラル、君と旧交を交わすためだけにこの場を設けたのではない。これから話すことは他言無用のことだ。ザビ家とダイクン家のこれから……いや、ジオンのこれからにも関わってくる内容だからな」
告げたガルマの顔は冷たく引き締まっており、これからの話が嵐のようなものであることを強く物語っていた。