目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
「まずは、なぜここに彼女がいるのか、その経緯を説明しよう」
そして語られた内容に、ラルはさらに驚愕する。
「シャアが……あのキャスバル坊だと?」
シャアとは大戦前の、MS教練演習で会っていた。同部隊というわけではないため直接の会話などなかったが、新兵の中で仮面をつけた伊達者がいる、という噂は耳にしており、すれ違う程度だが、間近で見かけたこともある。
「どうも私の目は節穴だったようですな」
「私も他人のことは言えんな。殺されかけるまで、彼を親友だと信じて疑わなかった」
「ザビ家への復讐を考えていたとは……ガルマ様、そしてアルテイシア様、申し訳ない」
ラルは頭を下げた。
「どうした急に?」
「キャスバル……兄君が復讐に走ったのは、おそらくは我が父、ジンバの入れ知恵によるものでしょう」
ジンバ・ラルは当初よりダイクンの暗殺をザビ家によるものと決めつけており、その主張を変えなかった。
実権を握ったザビ家と対立したが、息子であったランバの軍での功績と公国への忠誠心を惜しまれ、家督を強制的にランバへ譲るという形でお家取り潰しは免れた。
それでもジンバはザビ家への批判を止めるどころか、ますませ妄言めいた体をなし始めたために、ランバの判断で、キャスバルたちとともにサイド3を脱出させたのだった。
だが、それが仇となる。
ザビ家への妄執を募らせたジンバ・ラルが、独断でクーデターを計画。これが明るみになり、彼は特殊部隊の襲撃を受けて殺害される。
「ラル、顔を上げてください。私たちが知りたい情報はそこなのです」
「といいますと?」
ガルマが口を開く。
「ジンバ・ラルのクーデターを潰すために、彼女たちの保護者であったテアボロ家を、我が姉上の部隊が襲撃した。結果、ジンバが死に、彼女の養父となったテアボロ氏も重症を負った。だが同時に、彼女たち兄妹も特殊部隊に命を狙われたそうだ」
クーデターの首謀者を討つだけなら、わざわざ幼子まで殺害しようなどとするわけがない。とガルマは顔を歪める。
「それは――私は一介の兵士に過ぎません。父のクーデターも知り得てはおらず、すべてを知ったのはすでに事が終わった後でしたので」
「後の禍根を断つために、ジンバのクーデター阻止を隠れ蓑に、姉上が幼かったアルテイシア嬢たちを襲撃した……ない話ではないだろう。だが、違和感も残る」
アルテイシアが、ラルに改めて襲撃者たちのことを話す。
それを聞き、ラルは頷いた。
「たしかに妙ではあります。目的がアルテイシア様たちの抹殺ならば、あえて少人数で襲う意味がありませんな。それが必要ならば、屋敷ごと焼き払ってしまえばよいのですから。失敗後、即座に撤退しているのも違和感だらけだ」
「私は、ジンバ・ラルを討つ部隊とは別に、ダイクンの遺児を暗殺する任務を帯びた者がいたと考えている」
「それは、キシリア少将とは別の指揮系統に属する者たちということですか?」
「ああ。シャアに裏切られた後、私は姉上からの報告を聞いた。姉上は、シャアの正体について最初から把握していたと答えたよ」
「なんと!? 知りながら泳がせていたと? 何故です?」
「彼とは士官学校で同室でもあった。 シャアについては、ダイクン派閥の炙り出しのエサだったようでな。この私もそうした謀略に使われたようなのだが」
それだけでなく、父であるデギンの意向もあったそうだ。
ダイクンの遺児に、よほどのことがなければ干渉はしないと。つまり、姉は最初からシャアの暗殺を試みてはいなかったと言える。むろん、独断で行おうとして可能性はある。だが子供の頃に命を狙っておきながら、成人してからは監視に留めた。そんなことがあり得るのか?
「シャアは、そしてアルテイシアは私の父がダイクンを暗殺したと考えていた。だが、私はそうだと思えないのだ。父は私室に未だにダイクンの写真を持ち、彼を志しを共にした戦友だと溢すこともあったほどだ。今でも彼の墓に、私的な献花も捧げている」
「ラル、なんでもいいのです。誰が私たち兄妹の命を狙ったのか、そして、なぜ父は暗殺されねばならなかったのか。私たちはその謎を解きたい」
「ううむ……先ほども申し上げた通り、自分は一介の兵士に過ぎぬ身であり、政治の裏などわからぬ者です。ですが――」
そう言ってラルは、記憶の糸を手繰り寄せるように眉間にシワを寄せ語りだした。