目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第176話 Side『ニューヤークの再会』

 

「アルテイシア様たちを脱出させる際、その手引をした女を覚えておりますかな?」

 

「ええ。名は確か……ハモン、と」

 

「はい。無事、お二方を脱出させた後、我々はアストライア様も脱出させようと計画しておりました。ですが、警備が厳重となり、ハモンもその身に近づくことすらできなくなってしまったのです」

 

「それは知っています。それが何か?」

 

「その時、ハモンが私に溢したことがあります。『前回が出来すぎていた』と」

 

 脱出計画決行当時、障害となったのは一部の連邦駐留軍ぐらいであり、蠢動していたはずのダイクン派もザビ派も動きがなかった。

 

 それどころか、地球行きの輸送船までの警備も杜撰であり、思った以上に苦労が少なかった。厳戒態勢下であるというのに、だ。

 

「後で知り得た情報なのでありますが、当時、ギレン閣下の親衛隊が何らかの作戦行動に従事していたようなのです」

 

 ハモンと情報部のタチ中尉による調べでそこまではわかった。だがその作戦行動がどんなものなのかはわからない。

 

「あくまで推測にしかならぬのですが」

 

「ギレン・ザビが、我々の計画を後押しした、と?」

 

 ラルは安易に肯定はしなかった。アルテイシアの口調には、ザビ家に対する糾弾の色が見えていたからだ。

 

 どうやら、気を許しているのはガルマのみのことらしい。

 

「当時の私はあり得ん、と一笑に付しましたが、先ほどガルマ様から聞いた事柄と合わせますと、もしやするかもしれませぬ」

 

 もしもそうなのだとしたら、ザビ家がダイクン家の血筋を保護しようとしたということだ。

 

 だというのに、数年後に襲撃するのは辻褄が合わない。

 

「私達の命を狙ったのがザビ家ではないというのなら、やはり連邦(・・・・・)なのでしょうか」

 

 アルテイシアの言葉は、ラルの知らない何かを知っているようだった。だが、それに確証がない。故に、ラルからの情報を求めているのだ。

 

「あるいは、ローゼルシア……」

 

 ガルマの呟きに、ラルは有り得ないことではない、と頷く。

 

 当時のダイクン正妻であるローゼルシア夫人は、その立場による強力な発言力を持っておきながら、ザビ家を批判するのみで、政治的な動きは一切見せなかった。

 

 病を患っていたということもあるだろうが、あの激流とも呼べる時代の中で、ただただ個人の感情優先で動いていた。

 

 そうでなければ、ダイクン派をひとつにまとめ上げ、今のジオンはまた違った姿であったことだろう。

 

「これもハモンが言っていたことでおりますが、かの御婦人は『女の執念』で動いていたようです」

 

 アルテイシアが反応する。

 

()、ですか?」

 

「は。夫人は子を設けることは叶いませんでした。故に、貴女の母君であられるアストライア様に、異様とも呼べるほどの嫉妬を抱き、幾度となく刺客を送っておりました。我らラル家はダイクン様より直々に、アストライア様の身辺を警護するよう仰せつかったのです」

 

 特にラルとは内縁の関係でもあるハモンは、アストライアと同じく女性で、歌手時代からの親友でもあったために何度となく、私的なものも含めて情報を得ていたようだ。

 

「我らザビ家が、シャアたちダイクンの遺児にこだわっていなかったのだとすれば、逆にこだわりを見せていたのはローゼルシアか」

 

「あの頃の夫人は、すでにジオンの行く末などどうでもよいかのようでした。ザビ家に次ぐ発言力を持っていながら表に出ることはなく、数多のダイクン派の接触も断っていたほどです。そして、アルテイシア様を地球にお送りして以降、一切の鳴りを潜めました」

 

 その後ほどなくローゼルシアは病死する。だが、それでもアストライアは解放されることはなく、数少ないその一派によって監禁され続けた。

 

「やはり何もわからない、か」

 

 疲れたようにガルマは天を仰ぎ、ソファに深く身を預けた。

 

「どれもそうかもしれない、といった話だ。時代の記憶(・・・・・)を覗けぬ以上、知る由もない、か」

 

 シャアやアルテイシアが襲撃を受けた頃は、すでにローゼルシアは他界していた。今更子供を襲う意味などない。そしてザビ家は数多の有力な反対勢力を粛清し終え、新政権として盤石な体制を敷いていた。そこにダイクンの遺児が現れようと、世論が迎えることはなかったであろう。

 

 それほどに当時、ジオンは極右に傾いていた。

 

「お力になれず、申し訳ない」

 

 ラルは深々と頭を下げた。

 

 彼にはどうしようもないことであったが、目の前の若者二人の力に成れなかったことが悔しくもあった。

 

「いいさ……わかったこともある。我らの知らないところで、いくつもの裏が動いていたのは確かなようだ」

 

 諦観にも似たガルマの言葉でこの場は締めくくられた。

 

 ラルが口にしたコーヒーは冷めきっており、まるで泥濘のように胸のうちにへばりつくのであった。

 

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