目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第177話 Side『ニューヤークの再会』

 

 深夜となったニューヤーク。

 

 ガルマは執務室で、いくつもの書類の束と格闘していた。

 

 機密性の問題から、ジオンは未だに重要な情報は紙というアナログな手段でもって保管をしていた。

 

 そんな中、極東より送られてきた資料に目を通して、ガルマはどっと身体が重くなるのを実感した。

 

 入口の扉を叩く音がする。

 

「ミシェ・クローデルです」

 

「入れ」

 

 黒髪の女が入ってくる。

 

「何用かな?」

 

 彼女の正体はアルテイシア・ソム・ダイクンである。ザビ家の御曹司であるガルマとて本来は邪険に扱うことはできない。仕事の手を休めて彼女を顔を見ると、ピントが合わずに視界がぼやけた。

 

「お疲れのようですね。無理はいけないわ」

 

 そう言って彼女は慣れた様子で、コーヒーを淹れ始める。

 

 淹れたコーヒーを、応接用テーブルの上へと置き、自らもソファに腰をおろす。

 

 手を休めろ、ということだ。

 

 無視をしてもよかったが、せっかくの厚意に対してそれは紳士的ではないな、とガルマは考え、従うことにする。

 

 彼女の対面に座ってカップに口をつけると、ミルク入りだった。

 

 ブラックの方が好みだが、疲労で胃も疲れている。それを慮ったのだと好意的にガルマは解釈した。

 

 一息ついてから、ミシェが口を開く。

 

「……ありがとうございました」

 

「うん? なんのことかな」

 

「ランバ・ラルです。彼は私の恩人ですから」

 

「ああ、気にしないでいいさ。任務に必要だから彼を呼んだ。ついでのようなものだ」

 

「慮ってくださったのでしょう」

 

「それは、お互い様だな。結局、大した情報は得られなかった」

 

 正直、ガルマがここまで過去の究明にこだわるのは、自身の家族が、幼子暗殺といった人道を外れる行為を行っていないという確証が欲しかっただけだ。捨てきれない自身の甘さというものである。

 

 聡い彼女のことだ。それくらいは理解もしているだろう。

 

お坊ちゃん(・・・・・)ですのね」

 

「君に言われると堪えるな」

 

 彼女の指摘をガルマは笑って流す。

 

「私のせいで、婚約者ともうまくいっていないのでしょう」

 

「あれは私の問題だ。君が気にすることではない」

 

 思わず硬い声が出た。

 

 それを恥じ、ごまかすようにガルマはコーヒーを飲み込む。

 

 先の連邦の強襲にあたって、元市長が敵に基地の情報を送っていたことが判明した。

 

 取り押さえる際に彼は発砲し、兵士一人が負傷している。

 

 逮捕後は監禁しているが、娘であるイセリナが連日嘆願書を出していた。

 

 利敵行為を働いた人間を無条件で釈放して自由を与えることなどできるわけもない。それがたとえ婚約者の父親――といっても、当人の間での口約束でしかない――だったとしてもだ。

 

 あまりに現実を見ないその有り様に、ガルマは正直辟易していた。

 

「……これほど遅くまで、どのようなお仕事が?」

 

 話題を変えられたことに、少しばかりほっとする。

 

 この席にまで持ってきていた資料を彼女に手渡した。

 

「よろしいの?」

 

「ああ。君が見ても、即座にどうこうというものでもない」

 

 無言で紙にプリントされたその書類を読み進めていく。

 

「……二酸化炭素から、酸素と有機化合物の分離、生成する技術、ですか」

 

「極東で見つけたものだ」

 

 ゼクス大佐たち特務遊撃隊が襲撃したマスドライバー施設。その地下に巨大なコンピューターが埋設されており、そこから引きずり出した知識であるという。

 

「旧世紀中頃に研究されていた技術のようだ」

 

 どのような経緯でこの技術が時代の中で埋もれたのかはわからないが、発見したオルド・フィンゴ中尉曰く、現代で十分再現可能な内容であるとのことだった。

 

「これが本当に実現可能なテクノロジーであるなら、すでに連邦との戦争は終えたと言ってもいいだろうな」

 

 戦争開始から10ヶ月あまり。膠着状態とはいえ、連邦を宇宙から締め出すことに成功した現状、勝利の天秤はジオン側に傾きつつある。

 

「有機化合物とは、つまり食料も?」

 

「そうだ、と書いてあるが……水と酸素についてはすぐさま実現可能なようだが。そちらのほうは、何とも言えん。私も科学者ではないしな」

 

 人口増大による資源の食いつぶし。特に水と空気、食料。

 

 宇宙棄民の最大の要因といえるこれらを、この技術が確立されることで解決することができる。

 

「連邦と膠着状態になってからだいぶ経つ。だが、この技術が本物ならば、時間は我らジオン、いや宇宙民にとって最大の利益となるだろうな。宇宙から連邦軍を締め出せている現在、地球を置いて、サイド間での経済発展が見込める」

 

 エネルギー資源の開拓は、ジオンでも独自にルートを得ており、木星と火星からの採掘が可能な段階まで来ている。

 

 この戦争に勝てば、宇宙民の出生統制を解除させるつもりだ。

 

 人口の増加はさらに加速し、その手はどこまでも伸びていくことだろう。

 

 ミノフスキー技術を開示し、小型核融合炉の生産が広がればエネルギーの問題も解決できる。

 

 果たして、宇宙に住むものなら誰もが一度は夢想したものを、技術で解決することができるのだろうか。

 

「もしその未来がやってくるとして、地球に住む人々はどうなります。搾取する側とされる側が成り代わるだけになるのでは」

 

「かもしれんな。あくまでたらればの話だ(・・・・・・・)。しかし我らの吐く息がそのまま資源として使えるというのであれば、人の存在そのものが第一資源と言っても良くなる。荒れた地球環境よりも、生活基盤の整ったコロニーでの生き方を選ぶ人間も出てくるはずだろう。そうした者たちを吸い上げ、残りたいと言う者たちは残せばいい。水と空気さえ宇宙で作り出せるのであれば、地球というものに、それほどの価値はなくなるのだから」

 

「……熱のない話ですね」

 

「だから、たらればだ、と言っているのさ。今はまだ、この報告すら現実的かどうか怪しいのだから」

 

 むしろこちらを悩ませているのは、彼女に見せることもできないもうひとつの報告のほうだ、とガルマは思った。

 

 この技術が封じられていたコンピューター()。それには、これまで人類が発見するも、なぜか失われた知識と技術が詰められている、とオルド中尉からの報告書があった。

 

 そんなものが長い間、連邦にも知られず、戦略的価値の低い土地に放棄されていたなど、謎が過ぎる。

 

「ミシェ、いや、アルテイシア嬢。君はどうする」

 

「どうする、とは?」

 

「君はこのままでいるというわけにもいくまい。戦争は終わらせる。そうしたら、君はどうするのだ?」

 

 

 





 二酸化炭素の話は、現実でも技術研究が進んでいるそうですね。
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