目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

191 / 260
第178話 Epilogue 『誰もが窓の外の雪に憧れる』

 

「君はどうする」

 

 身の振り方など、私自身が聞きたいものよ、とセイラは思った。

 

 地球に降りて、テアボロの養女となったことで、ダイクンの名は捨てた。

 

 あの日、兄とともに襲撃者の手から逃れた時に、復讐に滾る兄が……唯一の家族となってしまった兄が去ってから、アルテイシアという子供は死んだのだ。

 

 セイラにとって、アルテイシアという名はもはや過去の影でしかない。

 

 そんなもののために、いつまでも人生を縛られ続ける自分が苦しかった。

 

 しがらみから抜けて、自由になりたい。

 

 だが、それは叶わぬ願いなのだろう。

 

 語ろうとして口をつぐんだ彼女に、ガルマは続ける。

 

「このまま軍で過ごすことを薦めることはできない。ただ君が、自身の境遇を重荷と感じているのなら、できうる限りの援助をしたいと思っている」

 

(偽善ね)

 

 この坊やは、自身の正義に酔った部分がある。それは為政者としては頼りないが、一個人としては好ましいものだ、とセイラは感じていた。

 

 なにより、利用しやすい。だから兄は彼を標的に選んだのかもしれなかった。

 

 挫折を知らず、栄光を掴んだ一族として、約束されたエリートとして青春を謳歌した男。

 

(私も、兄を卑下することはできないのね)

 

「勘違いしないでほしい」

 

 ガルマの目がこちらを射すくめるように細く、鋭い光を帯びた。

 

「君を支援するのは、君がダイクン家の令嬢であり、我がザビ家はダイクンに大恩があるからだ。そして、君のこれまでの境遇に同情したからこそ、手を差し伸べたいと思ったのだ」

 

 一息ついてガルマは続ける。

 

「だが、もし君が――君が(シャア)と同じように復讐を考えているのなら、私は迷いなく君を処断する。ザビ家はもはや、ただの一貴族家ではない。これからのジオンを導く義務がある」

 

「……それが独裁の道だとしても、ですか」

 

 男の都合(・・・・)でしかない、とセイラは思った。彼らは()何時だって自身の感情を論理で虚飾する。

 

「そうだな。だからこそ、この戦争を起こした責任は取らなければならないと私は思っているよ。戦争に勝てば、我が国は武力で独立を勝ち取った国として、宇宙で存在感を増す。他のサイドも対抗するために力を求めるはずだ。国民はより強い指導者を求めるだろう。もしも敗北すれば、我ら一家は大量虐殺者として処断されねば、地球に住む者たちの感情も収まるまい」

 

 勝てば勝ったものとして、負ければ負けたものとして、世界に対して責任を取らねばならない。

 

 だから復讐は諦めろ、と説く。

 

 もっともだ、でも気に入らない。

 

 むろん、セイラとて今更ザビ家へ復讐したいとは本気で思ってはいない。これまでの話で、ザビ家がそもそも仇かどうかさえ曖昧になってきた。

 

 しかし、自身が負ったこの人生の傷の代価として、己を納得させるだけの生け贄(スケープゴート)は必要だ。

 

 人は誰しも、論理だけでは生きていけないのだ。

 

(しょせん私は、何者にもなれない女なのだわ)

 

 亡き父が説いたニュータイプ論。人類の革新、相互理解の象徴。そんなものとは程遠い、陳腐な個人でしかない。

 

 軽い絶望とともに、セイラは捨てたはずの名をもう一度掴むことを決意する。

 

 それが自身の――優しくなかった少女時代と、父や兄への、そして私から復讐という手段さえ奪った目の前の男に対する――復讐(・・)となるだろう。

 

 これからやってくる時代を、女として見届けるのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告