目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
エフェメラ・ハントはあまりの不快さに頭痛を覚えていた。
酸素欠乏症か? と疑いたくなるほどの倦怠感もある。
理知と感情は別物であるという強い証左だ。
とにかく面倒くさい任務を寄越しやがった、と上官を恨む。
「よろしいんで? シーマ様」
「ニードル、次その名前を口にしたら、膾に刻んで真空の海に放り出すよ」
「ギャヒ……す、すいやせん」
海兵隊再編成にあたって、シーマ・ガラハウという悪名高い人間の名は抹消された。
代わりに新たな名と戸籍が与えられ、表向きは正規軍として、実態はキシリア直属の諜報・粛清部隊として働くこととなった。
「ところであのガキ、ネオ・ジオンとは関係ねぇんですかね」
ネオ・ジオン。
真なるジオンを掲げた、
それがエフェメラの役目だった。
「……ニードル、『合理的』って言葉知ってるかい」
「ゲヒ? いきなり何で?」
「あたしゃそれが嫌いでね。
「はぁ?」
「合理的なんて言葉に込められた主義主張は、結局それを口にした者の主観で決められたものでしかないってこった。そんなものは、最善でも最適でもないんだよ」
この宇宙には確固とした物理法則が定義されているが、それすらも捉える者それぞれの主観で変わってしまうのだ。
ある者は白を黒と断じ、ある者の1秒とある者の1秒は同じ体感時間に存在しない。
真理への
合理性なんてものは、それを唱えた人間の利しか考えられていないものだ。
人の世の争いは、そんな曖昧な合理と合理、主観と主観の理不尽なぶつかり合いともいえる。
「あの坊やは、『合理的かどうか』でしか判断してないようだからね。つまりはこっち側さ」
それは間違いないだろう。
ダイクンが定義したニュー・タイプ論は、そうした誤解や遅延といったものなく、人の意識が相互に理解し合うことを説いたものであり、あの少年のような見た目をした中尉の言動や、立ち居振る舞いからは程遠い。
ならば、ニュータイプ主義ともいえるネオ・ジオンとは相容れないだろう。
「騙してるだけってやつでは?」
「どちらにしろ煙に巻かれた。今回は時間もないんだ。上からもアイツには慎重にあたるように厳命されてる」
「キシリア様ですかい」
「いや、もっと上だよ」
ニードルが首を捻る。
海兵隊は突撃機動軍所属。その最高指揮官はキシリア・ザビ少将だ。
その上となればもちろん――。
「まさか、ザビ家の
「らしいね」
オルド・フィンゴの監視と尋問。ただし肉体的、精神的負荷の高い手段を用いてはならない。それがギレン・ザビの出した命令。
だからこうして、学生を職員室に呼び出すがごとく事情聴取となったわけだが、思った以上に扱いづらい人物だ。
「正直、かかわり合いになりたくない手合いだねアイツは。自分も他人の命も、そこに流れる感情すらもどうでもいいと思ってるタイプだ」
目的のためなら自分も含めて何人が犠牲になろうと気にしない。そんなやつだ。
だからきっと、今回の作戦の副次目的である『核融合炉の崩壊事故』もやり遂げるだろう。たとえ自分が死んだとしても。
「あいつの言葉に、どこまで真実があるのかわからんがな」
しかし、信用できないと切り捨てるには、軍に対してあまりにもメリットを生み出し過ぎている。
わざわざ顔を見せて、「お前を疑っているぞ」と圧をかける程度のことしかできなかった。その圧すら効果的ですらない。
「気に入らないね。本当に気に入らない」
気づけばそう呟いていた。
――まったく、
信用できないやつらが多すぎる。