目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第19話 Side『ザビ家の兄妹』

 

 その日、多忙の間隙を縫って本国との通信を繋いだキシリアは、モニターの向こうにギレンの姿を認めると、マスクを外した。

 

「壮健なようで何よりです。兄上」

 

「貴様もな、キシリア。第一次降下作戦の成功、まずは良くやった。それで? 定例の会議はまだ先のはずだが」

 

 兄であるギレンは修飾じみて長引く言葉の羅列を好まない。政治家として――自身をアジテーターと自嘲気味に揶揄しているが――敢えて大衆向けに使うことはあれど、日頃の会話では常に拙速で明瞭さを求める。

 

「はい。北米を中心にいくつかの陳情が成されまして、お耳に入れようかと」

 

「ああ、貴様が送った報告書は読んだ。ガルマだな?」

 

「はい。どうやらブレインがついたようです。それにしても、多岐にわたる要望ですね。物によっては作戦の見直しもせねばならないかと」

 

「なに、これらすべてを通せるとはあいつも思ってはおるまい。このうち1つでも叶うなら良し、といったところか。ここは度量を見せてやるものかもしれんな」

 

「難民の受け入れをお認めに?」

 

「サイド共栄経済圏の構想もある。この戦争に勝てばいずれ人を地球から立ち退かせるのだ。その試験運用と見ればよかろう。なにより連邦とは違うと各サイドに示さねばならんからな」

 

 ガルマは末弟であり、生まれると同時に母を亡くしたために父であるデギン・ソド・ザビが甘やかして育てた。

 

 性格に歪みなく育ったゆえに、戦争難民に同情しての陳情だろうとキシリアは考えていた。

 

「だとしても、我が国の持ち出しが大きすぎるのでは?」

 

「いや、そうでもあるまい。この案を考えた者は、そこも加味しているようだったな」

 

 難民を雇うことで増産されるオデッサからの鉱物資源と穀物の見込み供給量と、新コロニーの建築費用。そして国民が増えることでの経済効果の試算が資料として添付されていた。

 

「火星や木星に挑まずとも、豊富に手に入る水と空気を我らは手に入れた。これを各サイドに売りつけるだけでも十分潤う手筈だ。サイド4から食料の輸入も目処がついたしな。後は予定していた輸出用MSも完成した」

 

 中立を表明しているものの、実際はジオン寄りであるサイド2とサイド4向けに、WEMS-05を輸出することが決定している。他にもモビルワーカーの供与もあり、着々とサイド圏にてジオンはその地盤を固めていた。

 

「防諜を密にせねばなりませんな」

 

「貴様のところにはさらに負担をかけることになる」

 

 キシリアは苦笑した。

 

 世間では不仲と称されている兄妹仲だが、実は演技でしかない。

 

 ダイクンが倒れたあの日、政情不安を理由に連邦からの介入を跳ね除けるため、ザビ家は独裁者になるしかなかった。

 

 反発するものをことごとく粛清し、血にまみれながらも祖国をまとめ上げたのだ。そうしなければ、最悪連邦によって国家を解体されていたかもしれない。

 

 独裁者としての仮面を被ることを長兄は決意し、そして長女であるキシリアはその兄を支えるために敢えて反ギレンの意志を持つ連中を取りまとめ、密かに監視する役目を担ったのだ。

 

「戦争は始まってしまった。ここで諦めては、サスロに顔向けもできん」

 

 一瞬、ギレンは遠い目になる。

 

 常に合理的な判断を下し、冷血漢と呼ばれる男であるが、その実、家族には人一倍の情を持っている。

 

 ジオンがその存続を危ぶまれた時、急進的な反ギレン派閥による暗殺計画が持ち上がった。その身代わりとなって凶弾に倒れ、その身を持って暗殺者たちを引きずりだしたのが次兄である。

 

「せめてドズル兄上にも、もう少し政治を学んでもらいたいものです」

 

 思わずこぼすキシリアに、ギレンはわずかに口角を上げて笑った。家族など親しいものでなければ理解できないほどの微細な表情の変化だ。

 

「しかたあるまい。奴には奴の生き方があるのだ」

 

「男は気楽でいいですね。そう言えば我が通ると思っているのですから」

 

 妹からの皮肉に今度こそギレンは破顔した。

 

「お前の才は誰よりも信用している。ザビ家100年のためだ。ガルマについては、くれぐれも頼んだぞ」

 

「はい。承知しております」

 

 ザビ家100年。

 

 ギレンと父であるデギンが掲げた目的である。

 

 各サイドの独立を達成し、その中でジオンをサイド間の筆頭として立たせる。その中心にザビ家を据える。

 

 その頃の時代には、戦争という大量虐殺を行った者は不要となっているだろうとギレンは考えた。

 

 むしろ政治的にクリーンで、大勢の人間に愛される象徴のような存在こそ望ましい。

 

 その存在にギレンとデギンはガルマを推すつもりだった。つまり、この戦争で勝とうが敗北しようが、ギレンは戦火の責を取るつもりなのである。

 

「本当に、よろしいのですね?」

 

「是非もないことだ。この戦いに勝てば、遺産(・・)も手に入る」

 

 キシリアは目を細めた。

 

 兄は語る。

 

「あれは私のようなアジテーターが手にするものではない。先の時代の、若者によって開かれるべき箱だ」

 

 ダイクンが暗殺された時に、死の間際でデギンへと伝えたもの――宇宙世紀創世の遺産。

 

 箱であると言う以外、詳細はわからない。だが、ひとたび開けば連邦は崩壊するとまで言われるもの。それを手にする前に、ダイクンは何者かによってその生命を絶たれた。

 

 ギレンは何者かとの密約によって、その遺産を譲り受ける手筈を整えたようであった。そして、その条件は連邦を打倒し、各サイドを地球の呪縛から解放すること。

 

 すでに幕は切って落とされたのだ。

 

 ザビ家にとって、もはや引くことのできない戦いが始まってしまったのである。

 

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