目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第196話 Side『ストームブリンガー』

 

 ハルトは上官から告げられた事実を、小隊メンバーに告げた。

 

「孤立無援ってやつじゃないの」

 

 フィリップ少尉が天を仰ぐ。

 

「マプトが落ちたというのは、本当だったんですね」

 

 サマナ准尉も呆然とした言葉を発するのがやっとのようだ。

 

 連邦アフリカ方面軍は降伏する。それが上の決定。

 

「降伏ったって、ここはお優しい北米じゃないんだ、捕まった捕虜が南極条約どおりに扱われることなんてないぜ」

 

 フィリップの言う通りであり、捕虜の大半はオデッサに送られ、そこで危険な鉱山採掘作業をさせられていると噂だ。

 

「要塞群への撤退じゃだめなんですか? あそこならまだ戦力はあるでしょう」

 

 サマナに対して、ハルトは自身がホフマンに告げられた言葉を発した。

 

「ルナツーが落ちたのだそうだ」

 

 全員が絶句する。

 

「いや、冗談だろ」

 

「だといいのだがな」

 

 いまこの時全員の脳裏に浮かんだのは、開戦当時に行われたジオンの隕石落としだ。

 

 当初のように連邦宇宙軍は数がない。

 

 失った宇宙艦船を建造するビンソン計画も陸軍と海軍の横槍もあって思うように進んでおらず、第二の隕石落としを阻止するのは不可能に近かった。そもそも一回目を完全に阻止することはできなかったのだ。

 

 いっそ開戦時に地上軍が壊滅していれば違ったのかもしれない。そうすれば少ないリソースを宇宙軍に集中することで地球近海宙域の守備を強化することができたはずだ。

 

 各派閥が不毛な足の引っ張り合いをした結果、宇宙での戦争に敗北するハメになった。

 

 いまではジオンは、軌道上のあらゆる場所から部隊を降下させることができる。地上の主要都市はすべて喉元に刃を突きつけられた状態だ。

 

「どうもマプトで核が使われたらしい。政治屋どもがそれで震え上がり、ダカールと要塞群の武装解除を呑んだそうだ」

 

「馬鹿ばかりか上の連中はよ!」

 

「政治家を含めた上層部の人間など、上がってくる数値でしか現場の状況を判断しない。いまは身内の間に蔓延したレビル将軍の不祥事をかき消すことに躍起なのだろう」

 

 むろんそれだけではない。首相をはじめとした政権の中枢に居た人間のほとんどがダカールで捕まり、捕虜となっている。彼らの命を担保として、要塞群の武装解除をジオンは要求していた。

 

「じゃあ何かい? 俺たちゃ砂漠のど真ん中で立ち往生、行く手なしってわけかよ。ホフマンの野郎はどうするって?」

 

 ハルトはそれに答えなかった。ホフマンは自身の所在を明らかにしなかったが、おそらくはジャブローだ。頭上を抑えられたいま、隕石が落ちてきても助かる可能性があるのはジャブローしかない。

 

 ――つまるところ、俺達は見捨てられたのだ。

 

 いや、最初から捨て石にするつもりの部隊だったのだろう。今次大戦で最大規模の戦線といえるアフリカ。そこを放棄するのだ。

 

「各部隊長と会議をしてな、ジャブローに撤退する予定だ」

 

「撤退? どうやって? 輸送機もないのに海を渡る方法があんのか」

 

「西沿岸部ならまだ船があるはずだ」

 

 ハルトの言葉にサマナが合点を得たと目を開く。

 

「あ、ジオンの艦船ですか?」

 

 ジオン軍艦は、本を正せば連邦のものだ。緒戦の奇襲で奪い取ったに過ぎない。

 

「そうだ。賭けになるが、ジオン水軍拠点を襲撃し、船を奪取する。そしてマダガスカル経由でジャブローへ退くという腹積もりだ」

 

「マダガスカルの海軍とは連絡つかないんですか?」

 

 モーリンがもっともな疑問を投げかける。彼らが援助をしてくれればわざわざ敵地に挑む必要はない。

 

「今回の事態で引き篭もる気のようでな。ジオン海軍は数が少ないとはいえ、藪をつつく真似はしたくないそうだ」

 

 しかし、撤退してくる友軍を無視するわけにはいかないだろうと踏んでの強行策だ。

 

 フィリップが疑惑の視線を投げてくる。そううまく行くのか? という問いだ。

 

 ジオン領に深く侵攻することになる。当然、苛烈な反撃があるだろう。

 

「よって、本時刻をもって第07独立機械化混成部隊ブルーチームを解散とする」

 

「おいハルト、唐突すぎやしないか」

 

「これだけの人数だ。たとえジオンの艦船奪取に成功したとしても、全員がマダガスカルに行けるわけじゃない。そもそも大部隊では隠密行動ができない」

 

「そりゃあ――つまりジオン野郎の目を盗む囮がいるってわけだな」

 

「そうだ。沿岸部への陽動として、当初の予定通りジオンの防衛陣地を抜けてキンバライドへ向かう部隊を編成する。俺はそれに志願した」

 

 部隊を分ける以上数の利が薄くなるが、ジオンと一戦すら交えず降伏するのを良しとしない連中は多い。特に陸軍の人間は強気である。本作戦を提示したのも、陸軍の佐官である。

 

「待ってくださいよ! いくらなんでも無謀すぎます!」

 

「そうでもない。本来なら後方の守備隊も、降伏に反発して合流する予定だ。マプト周辺の残存部隊を結集して北上、キンバライドを目指す」

 

 まだ南アフリカは連邦陣地だ。無傷のままの部隊は数多くいる。過去にジオンが北アフリカで行った突破作戦を模倣し防衛陣地を抜け、キンバライドを抑えることに成功すれば、武器だけは豊富にある連邦だ。立て籠もって反抗することもできるはずであった。

 

「それのどこに意味があるっていうんですか。ルナツーが落ちたというのなら、この戦争は終わりです。僕たちは負けたんだ」

 

「まだ終わってなどいない!」

 

 思わず力こめた声に、サマナが身を引く。

 

 わかっている。これは個人の意地、いや私怨でしかない。それに仲間を巻き込むわけにはいかなかった。批判も反発も承知の上でのことであった。

 

「フィリップ、サマナ、モーリン。今までご苦労だった。君たちは離脱組としてマダガスカルに渡ってくれ。そこでまだ戦う気があるならジャブローに行けばいい」

 

 アフリカという地上最大の戦線と、宇宙を落としたジオンは、ここぞとばかりに軍の本部を叩きにくるはずだ。間違いなく次の激戦区は南米になる。

 

 そして、ジオンがこの地球全土を支配下におけるほどの兵力はない以上、ジャブローが落ちなければまだ連邦軍は反撃することができる。

 

「おっと、じゃあ俺もその囮ってやつに立候補するかな」

 

 今まで黙っていたフィリップが戯けた調子で告げた。

 

「いいのか?」

 

「突破戦術。ジオンの真似事ってのは気に入らねぇが、やるってなら機動力のある兵器が必要だろう」

 

 高機動な陸上兵器――つまりはMSだ。

 

 最前線を駆け抜けるMSの数は多ければ多いほどいい。MSで空けた穴に、後続の陸軍機甲戦車部隊をぶつける。

 

「開戦時とは違いますよ少尉! 陣地までには対MS用(AMS)地雷が敷き詰められてます。そんな地雷原を突っ切るなんて自殺志願者でもなければ――」

 

「わかってることだ。だが、悠長に歩いてる時間はないだろう。南後方に下がれない以上はな」

 

 陸軍は元々反レビル・反宇宙軍派閥の温床だ。そしてここに来てのスキャンダルで、宇宙軍憎しの感情は高まりきっている。その汚名を雪げとばかりに先鋒を押し付けられたようなものだ。

 

 彼らはまだ数の少ないMSという兵器の有用性に懐疑的である。自分たちがジオンのMSに苦しめられているというのに、だ。

 

 従来兵装よりも遥かに高額で、整備維持、操縦者育成コストも高いというのが毛嫌いする理由の大半だが、ハルトからすれば、とにかく憎いジオンと宇宙軍が用いている兵器であるという感情論が先立っているようにも見えるのだった。

 

 今作戦では、MSで強引に地雷原を突き抜け、後続の機甲部隊への道を作る。MS部隊は主力である陸軍のための捨て石でしかなかった。

 

「フィリップ、お前も義理は必要ないんだぞ」

 

「いや、うちらおじさんより、未来ある若者を助けたいじゃないの。それに船の奪取も確実性のある話じゃあないだろ。なら好きに大暴れできそうな方を選ぶさ」

 

「隊長……自分は」

 

「サマナ、気にするな。それにマダガスカルの方にもなんとか連絡は取ろうとしているんだ。うまく話がつけば、わざわざ敵を叩かずとも海は渡れる。サマナ、お前は沿岸部に向かうことを決めたうちの部隊員をうまくまとめてくれ」

 

「僕のことよりも、隊長ですよ。わざわざ死ににいくなんて」

 

「何と言われようと俺自身が決めたことだ。たとえ死ぬにしても、ジオン兵の一人でも道連れにして死ぬつもりだ」

 

「隊長……私は」

 

 モーリンが震える声をやっと絞り出す。

 

「優秀なオペレーターは今後の作戦でも必要だろう。それに君はまだ若い。君もサマナと一緒に海を渡れ」

 

 努めて事務的を装いハルトは告げた。

 

「本日本時刻を持って、第07独立機械化混成部隊ブルーチームを解散とする! 以降、各々の武運を祈る」

 

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