目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

215 / 260
第197話 Side『ストームブリンガー』

 

 ジオン・キンバライド基地。

 

 MS格納庫に紅い機体が戻ってくる。

 

 グフ(ドライ)

 

 陸戦用の最新型MSであり、エース用のスペシャル――慣例として特機と呼ばれることもあった――だ。

 

 ハンガーに係留されたグフのコックピットハッチが開き、キャットウォークへとパイロットが降りてくる。

 

 ヘルメットを外すと、紫の髪が溢れた。

 

「お疲れ様です少尉」

 

 メカニックの男が敬礼してくる。パイロットの女――ノーランは面倒くさげに手を上げて答えた。

 

「さすがですね少尉。もうすっかり新型を乗りこなしてるようじゃないですか」

 

 あからさまなおべっかに、ノーランは鬱陶しさを感じた。

 

「反応は悪くないよ」

 

 肩をすくめそう答えるだけに留める。

 

 ここ連日の出撃で疲労が溜まっていた。昨年末に暴露された連邦内部の不祥事により、連邦は将兵の脱走と離反が相次いだ。その結果、統率の取れなくなった部隊がゲリラ化し暴れていた。

 

 今はまだ散発的なものでしかないが、これらの少数部隊が合流し軍閥化することをジオンアフリカ司令部では懸念しているようだ。

 

「グフはフレーム内蔵型ですからね、追従能力に優れてます。もっと量産してくれたらいいんですがね。連邦のMSも怖くないですよ」

 

 気楽に整備員が笑う。

 

 確かにグフの性能は悪くない。ドムよりもこちらの操縦に対する反応値が鋭く、3次元の機動力も圧倒的に優秀だ。だが、そのぶん各部のトルクが過敏であり、繊細な操縦を強いられる。一対多を想定した白兵戦用機体でもあるため、性能を十全に発揮するには的確な武装の切り替えが必要であり、疲労の蓄積は旧来機の比ではない。

 

 そういう意味で、正しくパイロットを選ぶ機体であり、故に個々のカスタムも正式に許された特機であった。

 

「関節部のモーターはよく確認しといてくれよ。特に右腕、妙にガタつく気がするんでね」

 

 注文をつけて去る。

 

 さっさとシャワーを浴びてベッドで休みたかった。

 

 キンバライドに配属となってから、ノーランはこれまでに敵装甲車両を67機、航空機を6機、MS8機単独で撃墜せしめている。

 

 パーソナルカラーとして機体の肩と胴を紅く塗っていたことと、その猛然として戦闘振りに、キンバライド周辺では『紅い淑女(クリムゾン・メイデン)』の二つ名で呼ばれるようになった。

 

 その戦績でもって特例で少尉へと昇進となり、新機体を受領するに至ったのだが、当人としては荷が勝ちすぎる話でもあった。

 

 士官として軍学校で正式な訓練を受けたわけでもないのに、いつの間にか尉官だ。本来必要な試験すら受けていない。

 

 ノーランの部隊は遊撃部隊だ。

 

 キンバライドを中心として、各防衛陣地の支援へと駆けつける高速展開部隊。

 

「おいノーラン!」

 

 自室に引きこもろうとした彼女を、後ろから追いすがってきた青年が呼び止めた。

 

 トニー・ジーン伍長だ。

 

「なに?」

 

 開戦時に義勇兵として参加してから、この砂漠で共に一年の時を過ごした。

 

 人間の適応力というのはすごいもので、当初こそその埃っぽさと寒暖差にしょっちゅう腹を崩し気味の男だったが、いまではそんなこともなく、グフと共に支給された新型のドムD5型に

 搭乗している。

 

「近々、連邦の大規模な反攻があるって噂があるの知ってっか?」

 

「またその話か」

 

 本来なら昨年末に行動するはずだった連邦のアフリカ奪還作戦は、ジオンの諜報活動により察知されており、事前に阻止された。

 

 しかしそのために集めた兵力の一部は健在である。連邦首相が人質となり、各部隊の武装解除を要求したが、それに従わずに独自の行動を取る面々も少なくなかった。

 

「ジャブローで連邦の副首相が臨時政権を立てたんだとよ」

 

 ノーランは知らないことだが、副首相は元陸軍の幕僚でもあった人間であり、陸軍限定ではあるが未だに強い影響力を有している。

 

 なんでも副首相派は徹底抗戦を主張し、各地の残存部隊にゲリラ活動を指示しているそうだ。

 

「迷惑な話だね。とっくに宇宙(そら)は落ちてるってのにさ」

 

 宇宙を完全に掌握し、軌道上を抑えたジオンは頃合いよしとして連邦政権との和平交渉を進めようとしている。だが、ジャブローに立て籠もった連中は頑迷に抵抗しているようだ。

 

「まあ、でもこの戦争はもう長くねぇだろうな。お前もそうは思わないか?」

 

 トニーの素人考えに、ノーランは賛同する気はなかった。だが否定はせずに視線だけで先を促す。

 

「いや、この戦争が終わったらよお、お前はどうするんだ?」

 

「どうするも……アタシは帰るところもないからね。このまま軍属さ」

 

 上もそのつもりで自分を尉官にしたのだろう。戦争がおわったとしても、まだ地上は荒れるはずだ。そう簡単にこの埃っぽさから抜け出すことはできない。

 

「あーそれなら、さ。もしお前がよければだが、俺の実家に来る気はないか?」

 

「はぁ? あんた、それ口説いてるつもり?」

 

「いや、お前家がないって言ってたろうが! 俺のとこの家は農業コロニーにあるからさ。仕事はあるし、食い扶持稼ぐには困らねぇから」

 

 まあ、俺はしみったれた土ぐらしが嫌で出てきたんどけどよ――とトニーは自嘲した。

 

「女誘う気ならもっとマシな文句でも考えなよ。アタシみたいな跳ねっ返り相手にしないでさ」

 

「あのなあ! 俺は本気で――」

 

 その時格納庫に盛大な音が響いた。

 

 振り向くと、ドムが肩を壁にめり込ませている。

 

 整備長が顔を真っ赤にして怒鳴っていた。パイロットの操縦ミスで衝突したのだ。

 

「またドクのやつか」

 

 呆れたため息をついてノーランは今度こそ自室に戻るために歩き出す。

 

「おい待てよ! 話はまだ――」

 

 ついてくんな、と手だけであしらう素振りを見せてノーランは振り向かなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告