目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
ドクの乗るドムD5は、中距離支援型だ。
支援と言っているが、実際はガトリング砲の弾幕を張って敵の動きを制限することぐらいしかできない。
両腕にグフⅢと同じ75mmガトリングシールドを装備。その重量と長砲身のために取り扱いにくい武装であった。
それでもラケーテン・バズなど大口径の砲撃はドクの腕前では扱いきれないため、中距離において砲撃ではなく弾幕によって攻撃力を維持することに重点が置かれていた。
「バラバラにぃしてやるよぅー!!」
高揚した笑いをコックピットで高らかに上げながら、ドクはひたすらにガトリング砲をぶっ放す。
敵のジムがマシンガンで反撃してくるが、ドクは避ける素振りすら見せなかった。
彼のドムは、前面に分厚い
しかし本来は彼の制圧射撃で敵の動きを止めて、隊長であるノーランが近接格闘で決着をつけるという運用であり、自身が複数のMSから的になることは想定していなかった。
「ぎゃひぃぃぃ! オレばっかり狙うなぁぁ!!」
ジムが撃ったロケット・ランチャーを寸でで避けることに成功したが、ドクは先程と打って変わって悲鳴を上げ続けた。
闇雲に撃った砲弾が、偶然にも先程ロケット・ランチャーを撃ってきたジムのコックピットを貫き沈黙させる。
「ギャハハハハハ! ざまぁみろってんだぁ!」
もはや狂ったかのように笑いながら、次の獲物に向けて銃身を向けた。
残る2体のジムは、互いに左右に散りながらマシンガンで応射してくる。
75mmのガトリング砲と、100mmマシンガンではその射程に格差がある。さらにはドクのドムは装甲が厚く、至近距離でなければ致命傷を負うこともなかった。
「そらそら踊れぇいぃ!」
ドクの狂気はピークに達していた。
左右から背後を取ろうと回り込む敵の意図に気づくこともなく足を止めたまま弾丸をばら撒く。
「ちょこまかすんなぁぁ!」
右回りの機体に照準を定めて乱射する。
凶悪な銃雨をジムはスラスターを吹かして強引に避けて距離を詰めようとしてきた。
しかしその動きにこれまで整備もなく酷使し続けてきた機体の膝関節が保たなかった。
右足のフレームが半ば破断したジムは姿勢を維持できず横倒しに転がった。
「このままおっ死んでちょーよぉ!」
ゲラゲラ笑いながらドクは倒れたジムに近づき、思い切り蹴り飛ばした。
僚機が援護するために銃撃をしてくるが、不運にも弾切れを起こした。
「ギャハハハハハ! やっぱり俺はついてるぜぇぇ!」
相手が弱いとなれば強気になる男、それがドクだ。
倒れたジムに砲身を向ける。
相手はなんとか応戦しようと銃を向けてくるが、ドクはそれを嘲笑い、たっぷりと弾丸を喰らわせて鉄の塊に変えてやる。
その時、ドムの背中が爆発した。
ドクは激しい揺れに吐き気を催おす。コックピットに赤い緊急ランプが灯り、計器の類が機体各所のダメージを煩く伝えてくる。
腰背部に懸架されていたプロペラントタンクを撃ち抜かれたのだ。たまたま推進剤に引火して爆発した。ここまでの道中で増槽内の殆どを使っていたために小規模の爆発で済んだが、でなければ誘爆でバックパックごと吹き飛んでいたかもしれない。
「ちっくしょぉがぁ〜!」
なんとか転倒を踏みとどまった機体を振り向かせると、ジムが立っている。
「次はオマエを、バラバラにしてやるぅー!」
雨の中でも各所から煙を上げる機体を酷使し、ガトリング砲を向ける。
放たれる砲弾が棒立ちのジムを粉砕した。その影から、もう一体が飛び出てくる。
すでにコックピットを撃ち抜かれてパイロットが即死した機体を盾としたのだ。動かなくなった味方の予備弾倉を使い射撃し、機体の背後でビームサーベルを抜いていた。
「ぶるぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ジムに向けて砲弾を浴びせる。
だが唐突に射撃が止まった。ガトリングシールドは、砲身保護のために発射時間5秒のリミッターが設けられているが、ここに来て限界を迎え、動作不良を起こした。不運にも両方ともだ。
弾幕が止まったことで、更にジムが距離を詰める。
「なぁぉぁぁ!?」
使えないガトリングをパージしようとするが、思考は動いても身体が動かない。
代わりに目に映ったのは、白い財布だ。
唐突に、首を絞めた女の顔が思い出される。
黒い長髪と、眼窩より飛び出た目。高い鼻。どこか不吉な猛禽系の鳥のような印象を持つ女。
それは、自分の母親だった。客に感染させられた病によって起きることもままならなくなり、寝台の上でやせ細って死んだ哀れな女。
むろんそんなはずはない。あの時、すでに母親は他界しており、ドクは天蓋孤独だった。
だがあの日、あの時、あの女の首を絞めた光景が脳裏に焼き付いて離れない。
迫ってくる
人生において情緒を育てるべき時期に深い傷を負った者は、世の中との関わり方が極端になるという。
あるものは緩やかになり、あるものは苛烈になる。
ドクは前者だった。
あり得ない、と受け入れられない事象を前に幻覚を見たのだ。
「――ごめんよぉ、母ちゃん」
胴に突き立てられたビームサーベル。視界が真っ白になる瞬間、ドクは呟いていた。
その呟きも、思い出の品も白い光の中に消える。
ドムがゆっくりと、まるで全てを受け止めようとでもいうかのようにジムを抱え込む。
そしてメガ粒子にジェネレーターを貫かれた結果、ドムは盛大に爆発した。