目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
――どこで間違えたんだろうね。
最後のジムの胴体を袈裟斬りに裂き、ノーランはグフのコックピットで思った。
仲間がまた逝った。
トニー。
学生運動時代からの仲間。友人、と言っても良かったのかもしれない。
自分に気があるようだったが、受ける気はなかった。その気持ちも、ただ身近にいる女が自分だけだったからであり、惚れているわけでもなかったろう。
目立ち屋で自己陶酔型の男だ。女である自分が小隊長であることに少なくない不満があり、自身の優位性を示す機会は逃さない姑息なところのあるやつだった。
ただ、この戦いの前に彼が告げた申し出は、本心がどうあれ、この戦争が終わり、自分が本当に居場所がなくなったのならありがたい話ではあったのだな、と今更に思う。
無論、奴の女になるなど虫酸が走るが。
ドク・ダーム。
小隊の中でもよくわからない男だった。
小物であり、何かに怯えているようで、ギョロギョロと周囲を観察するクセがある奴だった。
その反動か、戦場では誰よりも好戦的に敵兵士を殺すことに享楽を見出していた。
女にコンプレックスでもあるのか、他部隊の女兵士に近づこうとはせず、話しかけられるとよくわからない奇声をあげて追っ払っていたぐらいだ。
自分は小隊の隊長ということもあり、技量の低い彼のMS操縦を教導することがあったためか、『姉御』とまで呼ばれるようになってしまったが。
そのくせ、コックピットには女物の財布を吊り下げていた。操縦の邪魔になるから片付けろと命令しても、かたくなに取り下げなかった。昔の女の形見だったのだろうか。
どちらも仲間、友人と呼ぶには少々気持ちに引っかかりのある男たちだった。
精神的にジュニアハイスクールを
だかこの1年、背中を預け、預けられて戦ってきた存在であった。
自分がもっと上手く動ければ、彼らを死なせずにすんだのかもしれない。
機甲師団の指揮官であるデメジエール・ソンネン中佐の言葉が思い出される。
――「人生で転ばねぇヤツはいねぇよ。大事なのは、そっからどうやって立ち上がるかってことだ。立ち上がるのが遅いやつ、早いやつ。どっちがいいってわけでもねぇと思う。結局は自分自身で、ひとつひとつ気持ちを消化していくしかねぇのさ。感傷的になるなとは言わん。だが、ここは戦場だ。その感傷が味方を殺すこともあると理解しておけ」
MS部隊の小隊長となり、一部でエース部隊なんて分不相応な
いらないお世話だ、とその時は思ったものだ。
自分の感情を他人に読まれることほど気持ちの悪いことはない。ましてやそれで上から助言という形で言葉を投げてくるなど不快でしかなかった。
だが、今この瞬間、少しだけわかる。
まだここは戦場だ。
前線部隊が壊滅したのか、砲撃がいくつも近くに届くようになった。
まだこちらの正確な位置を把握していないか、それとも弄んでいるのか、弾幕は薄く、よほど運が悪くなければ当たりはしないだろう。
とはいえ、ここに居れば数で圧殺されるのは確定だ。
感傷で足を止めていれば即座にやられる。
ジムの胴を撫で切ったヒートソードは、半ばから折れてしまった。
「チッ」
ヒートソードは、連邦が用いるビームサーベルとも斬り結べるほどの出力を持った武装だが、ドムが使うヒートサーベルと変わらず使い捨てなのだ。
折れた剣をその場に捨てて、シールド裏に収められていた予備を引き抜く。
撤退は認められていない。
援軍の要請は何度も告げているが、回線がそもそも繋がらないのだ。
「いよいよ潮時かね」
数多の仲間が自分の代わりに逝った。
ノーランはずっとそう感じていた。
そして敵の大軍を前に自分一人。ついに自分の番が来たのだ。
ふと、自分の右手の平を見る。
小刻みに震えていた。
それはここまでの戦闘で操縦桿を強く握り締めすぎていたせいであったが、ノーランは己の中に恐れがあると感じた。
「アタシ、怖いのかい。はは……自分の番だけ飛ばすなんてできゃしないのにさ」
モニターに動く機影が映る。
ジムではない。人型ながら滑るように動いているのがわかる。だが識別コードは
CG解析が進み、眼の前の機体が詳細に映し出される。
頭部にV字のアンテナと、人を模したツインアイ。背部にはキャノンパック。
敵は立ち止まり、まるでこちらを値踏みするようじっとしている。
――気に入らないね。まるで自分が
反骨心とともにノーランは操縦桿を再び握った。機体を振り向かせ、敵機と正面から相対する。
「こっちが待っててやったんだよ、死神ヤロウ」
こちらの思考に応えるように、その2つ目が赤く光った。