目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
客観的に見ればこの戦いは、どちらがより不幸かということを決定するための、馬鹿げた決闘でしかなかった。
一方はすでに基地施設の破壊に成功しているのだから、前線から引いて友軍からの援護を受ければ良い。
そして一方はすでに防衛目標は失っているのだから、撤退して戦況を後続部隊に報告すればよかった。たった一機で大隊規模の機甲部隊を押し止めることなど不可能なのだから。
だがどちらも冷静な判断力を失っていた。
これまで戦場で失った、己の感情的何かを穴埋めすべく、その代価として自身の命を賭けてテーブルに上がり続けていた。
強引に間合いを詰めたグフがヒートソードを振るう。
G4は近接防御用の、腕部ガトリングガンで防戦した。
90mmケースレスの砲弾は至近距離において正しくその威力を発揮し、グフの胴部を貫いたが、致命傷には至らなかった。
構わず振るわれたヒートソードによって、G4の右腕がガトリングガンごと斬り落とされる。
ジムと異なりユニットブロック化されているG4は、自動で右前腕部をパージし誘爆を避けた。
追撃を避けるために高速で後退し、ガトリングキャノンを乱射する。
機体バランスが欠いた状態で撃たれた弾丸は標的を捉えこそしなかったが、距離を稼ぐことには成功した。
「貰うぞ!」
チェンジリングライフルよりビームが撃ち出される。だがその一撃を避け、グフは手にしていたヒートソードを投擲した。
むろんそんな単純な手にそうそう当たるものではない。
狙いを外した実剣はそのまま地面に転がるはずだった。
「逃がしゃしないんだよ!」
しかし急激に軌道を変えて、ヒートソードが横に薙ぎ払われる。
質量のある物体が勢いよく左側脚部――人体でいうなら
ノーランは避けられるのを承知で、ヒートソードの柄頭に、右腕部のヒートロッドを巻き付け、投擲したのだ。それを強引に振り回したのである。
エネルギーパイプと接続していたマニピュレーターを離れているため、赤熱こそしていないがそれでも残熱のあった刀身は下腿部の半ばまでめり込み、G4のホバーユニットエンジンを破壊した。
優秀なオートバランサーにより転倒こそしなかったが、ハルトのコンソールには、左脚部のホバー走行が不可能になった事実が表示された。
さらに悪いことに、脚部が損傷したことで自重を支えられなくなったため、その場に膝をつく。
立てないこともないが、アクチュエーターがほとんど死んでおり、ホバーも立体的な機動も絶望的であった。
だがノーラン側も追い詰められていた。
連邦の機甲部隊が周囲に姿を表し、こちらを包囲しようとしている。
味方のMSはお構い無しなのか、砲弾の雨は勢いを減じることもない。
置かれた状況から相手パイロットの立場が推察できた。
「互いに貧乏くじってわけだ」
「だが、それでも貴様だけは貰うぞ」
双方とも退く気はなかった。もとより居場所などない。
グフは素早くヒートロッドを巻取り、ソードを手にする。ガンダムの右側面から背後に回り込む。
ガンダムのバックウェポンは左右の射角は広いがさすがに背面まではカバーしていない。
このまま
だがハルトも足掻いていた。
ヒートソードが振り降ろされる直前、強引に機体を振り向かせる。
突き出した左腕のガトリング砲が切り裂かれ弾薬ごと爆発し、ヒートソードの剣先が折れ飛んだ。
そのまま振るわれた剣は機体の左胸部に食い込むが、破損した影響で出力が低下、敵の稼働停止まで至らなかった。
「残念だったな」
ハルトは呟き、トリガーを引く。
チェンジリングライフルに増設された、近距離防御用の散弾砲。
ルナチタニウムを弾芯にした散弾が至近距離でグフの胴部を貫き、致命的なダメージを機体とパイロットに与える。
鋼鉄の弾丸がグフの内部をズタズタに引き裂き、フレームさえも破断させた。
ノーランの視界が一瞬にして真っ赤に染まり、左半身が灼熱感に襲われる。
感覚のあるのは右腕だけだった。
血が流れて左目が見えないことを、ノーランは感謝する。自分の左側がどうなっているのか、見ないで済むからだ。
「一人じゃ逝かない……アンタも、連れて行く」
気を抜けば何もかも失ってしまいそうになる意識を繋ぎ止め、ノーランは笑う。
グフのヒートソードが再び赤熱化し、ガンダムの胸を切り裂く。コックピットの中で、ハルトは笑う。
「これで俺の戦争は終わり、か」
プラズマ熱は人の身体など一瞬で蒸発させる。
そこでグフも力尽きた。
両機体とも片膝をつき、まるで彫像のごとく戦場に鎮座していた。
雨は、いつの間にか止んでいた。