目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

239 / 260
第217話 Side『ZERO』

 

 そして現在――。

 

 モニターに表示されたコンソール。そこに浮かぶ『0』と描かれたのアイコンにゼクスは指を伸ばす。

 

「信じるぞ、友人(オルド)

 

 触れると同時に、コックピットの照明が落ち、モニターも漆黒に染まる。

 

 戦場で棒立ちとなったMS。

 

 銃撃の音と、衝撃音が届く。

 

 機体が揺れ、こちらが攻撃を受けたのがわかる。

 

 だがゼクスの中には不安はなかった。

 

 ノインであればこの8秒という時間を守り切ることができると信じていた。

 

 モニターが点灯し、画面中央に『Z.E.R.O.(ゼロ)System』と表示される。

 

 同時にゼクスの四肢が熱くなり、頭を締め付けられるような不快感が襲ってくる。

 

「これが『Z.E.R.O』か!」

 

 瞬間、ゼクスの視界が開け、機体外の風景がシステムを通してイメージ化され、脳裏にダイレクトに送られてくる。

 

 目を閉じるとまるで自分が宙に浮かぶシートに座っているような錯覚を覚える。360度、全てを視界におさめることが可能だった。

 

 ゼクスにとっては一瞬のことであったが、8秒という、高速戦闘において長すぎる時間だ。

 

 開けた視界には、両腕部を失い、膝をついているノインのドワッジが映った。

 

 8秒を稼ぐために奮闘したのだ。ゼクスの乗る機体には、致命打となる傷はひとつもないことから疑いようはない。

 

 同時に脳裏に流れ込んでくるシステムが提供する戦術の数々。

 

 膨大な情報が脳をかき回す。ケイ・ニムロッドが欠陥品と呼んだのも頷ける。

 

『Z.E.R.O.』がノインを盾に敵を殲滅する戦術を送ってくきた。

 

「なるほどこれはジャジャ馬(・・・・・)だ!」

 

 自身の勝利だけを追求したAIらしい判断であったが、ゼクスはそれを振り払う。

 

 ノイン機にトドメを刺そうとコンバットナイフを抜いたジムタイプに肉薄する。

 

 リミッターを解除したスラスターの瞬発力は殺人的で、高機動のGに慣れているはずのゼクスですら視界がレッドアウトしかける。

 

 飛び込んだところで、相手が素早く振り返りグレネードを構える。味方機救助を見越した罠だった。しかし相手にとって想定外だったのは、ゲルググの圧倒的な推力であり、『Z.E.R.O.システム』の戦術予測によって罠であることを見抜かれていたことだ。

 

 身構えきる前にゼクスが振るったビームナギナタがジムタイプの上半身を袈裟に切り裂く。

 

 さらに『Z.E.R.O』が送ってくる未来イメージは、背後からの急襲。

 

 ゼクスはそれに本能的に対応した。

 

 振り向きもせず、双刃(ビーム・ナギナタ)の反対側で急襲してきた相手のコックピットを差し貫く。

 

 そのまま横薙ぎに払い、手負いのツインタイプに標的を定める。

 

 すでにステルス機能は失われたらしく、その全容が詳細にモニターに表示されている。

 

 ビーム・ナギナタの刺突を横にかわしたツインタイプに、追い打ちの横薙ぎを叩き込む。

 

 だが相手は咄嗟に手持ちのサーベルで刃を上にかち上げた。

 

 冷静な反応。ゼクスの脳裏に、以前ニューヤークで戦った少年兵の動きが思い出される。

 

 オルドはかの少年兵を『ニュータイプ』と称したが、それに通じるような順応性と反応性を敵兵に感じた。

 

 しかしながら、あの時のような脅威も昂ぶりも目の前の相手からは感じられない。どこか人形を相手にしているような雰囲気である。

 

「だが斟酌してやるつもりはない!」

 

 スロットルを踏み込み、敵機の胴に体当たりをぶち当てる。

 

 武器を落とし吹き飛んだ相手は、それでも上手く機体を立て直し転倒を免れた。

 

 追撃を仕掛けようとしたとき、『Z.E.R.O.』が予測イメージを送ってくる。

 

 咄嗟に機体を横に滑らせ飛び去るのと、先程までの位置に撃ち込まれたグレネードが爆発するのは同時だった。

 

 残ったジムタイプがさらにグレネードを投げ込んでくる。それは爆発と同時に煙幕をたてた。

 

「スモークチャフか」

 

 敵センサーを欺瞞妨害するためのもので、光学、熱、音といったあらゆる探知(センス)を妨害する。ミノフスキー粒子戦が行われる以前に使われていたものだ。

 

 現在でも近距離においてごく僅かな数秒間は効果があり、たびたび使われる。

 

 動体センサーが、敵2機が急速にこの場を離れていくのを捉えていた。

 

『Z.E.R.O.』が追撃を提示してくる。相手のスモークチャフはすでにこちらの機器に影響を及ぼしていない。

 

 ゲルググJの推力ならば瞬時に追いつき、その背中に牙を突き立てることも可能であろう。

 

「黙れ『Z.E.R.O.』。(パイロット)は私だ」

 

 システムの干渉により好戦的となっているゼクスであったが、驚異的な自制心でもってAIの戦術を否定した。

 

「ノイン無事か?」

 

「……です。無事、です。ああっ! 脚部のアクチュエーターが逝っている! これでは弾除けの盾にもなれない」

 

「それだけの悪態をつけるなら安心だ」

 

「敵を逃しましたね。私が、不甲斐ないばかりに」

 

「いや、奴らは奴らで別の任務があったのだろう。どこか浮ついた雰囲気があった」

 

 高性能なステルス機で編成された部隊だ。ラル大尉の話では、麓のゲリラ集落を襲ったのは、20機以上の機械化部隊で編成された推定1個中隊。そこから離れた場所にいた少数部隊ともなれば、自分たちと同じく何かしらの特別任務を帯びていたと推測できる。

 

 

「なおさら逃がしては――」

 

「我々の目的は、レールキャノン発射阻止だ」

 

 きっぱりと言って、ゼクスは先に見える山に機体を向けた。

 

 この距離ではズームをしても、山頂部の詳細は見えない。

 

「ノイン。悪いが置いていく」

 

「……はい」

 

 悔しさのにじみ出た言葉が返ってくる。だが、意を汲んでやることはできない。

 

 動かぬMSなど抱えて動けるわけもなく、ましてやパイロットを保護して、これから激戦が想定される戦場に挑むことはできない。

 

 一人用のコックピットに収容することも不可能だ。そして、彼女ではこの機体の加速について来れないだろう。

 

 ノインとてそれはわかっている。敵地の中で孤立した兵士など、死が確定したようなものだ。

 

「大佐、せめて私のMMP(マシンガン)を持っていってください」

 

「受け取ろう」

 

 ドワッジが腰部に懸架していたMMP-80Sと予備弾倉を受け取る。

 

「大佐、武運を」

 

「ああ。さらばだ」

 

 努めて冷徹に答え、ゼクスは機体を目的地へ走らせた。

 

 そして、考えていた。

 

『Z.E.R.O.』は互いのシステム間で通信ができるという。

 

 作戦前に聞いた仕様だ。

 

 仕組みはわからないが、システムがパイロットの思考――サイコウェーブを増幅して解析し、それをさらに増大させて受信機へと送るのだという。

 

「信じるぞ、オルド」

 

 もう一度呟き、ゼクスは新たな戦場へと向かう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告