目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第219話 Side『ZERO』

 

 僕はオーガスタ基地中央で、ジャブローの友軍から送られてくるはずのシグナルを『シウテクトリ』に乗って待っている。

 

「中尉! 来ました! 連邦秘密工廠の座標データです!」

 

 オペレーターが告げるのと同時に、こちらのモニターにその情報が送られるのを確認する。

 

 同時に、僕の目の前でAR(ポップアップ)ウインドウが開いた。

 

「ん。『Type.E』が起動したか。大佐は『W』を使ったわけだ」

 

 ミノフスキー粒子の妨害をものともせず確実な情報伝達を行なう手段として、連邦は感応波(サイコウェーブ)に着目した。

 

 ただ、結局技術と検証不足で、できたのはパイロットの感情を周囲に垂れ流すだけの欠陥品だったわけだけど、その点をキサラギ女史は見事に解決(クリア)したわけだ。『黒箱』の知識があったとはいえど、この短期間で末恐ろしい狂人(てんさい)ぶりである。

 

 さて、大佐からはどんな情報が送られてくるかな?

 

 ノーマルスーツのヘルメットに取り付けたコンピューターチップがシステムが受け取ったサイコウェーブを元に、僕の脳裏に擱座したノイン大尉のドム、そして遥か遠くの山の頂にある連邦の施設……ミサイル発射装置かな? そんなイメージを送ってくる。

 

 困ったな。思ったよりも鮮明に大佐の思考が入ってくる(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「おいオルド! なんだこれは!?」

 

 キリシマ嬢ががなり立てる。

 

 この人、キャルフォルニアで連日夜ば……絡んできたんだよね。

 

 なんか「わからせる」とか言ってたけど、毎回相手すんの面倒だから後半は部屋にロックかけて締め出しといた。

 

 で、オーガスタまでついて来てこの『シウテクトリ』の姿勢制御役として搭乗している。

 

 正直いらないんだけどね。戦場じゃないから格闘戦する予定はないし。

 

「なんだこの断片的なイメージ? なんで視えやがるんだ!?」

 

 おかしいなぁ。

 

『Z.E.R.O.』はレールキャノンの射撃管制に使っていて、本体とは独立している。機体担当のキリシマ嬢のヘルメットにはチップを導入していない。

 

 そこは腐っても本物(ニュータイプ)ってやつか。

 

 理屈ではないのだろう。正直このシステムは不完全で問題も多い。

 

『Z.E.R.O』は、『EXAM』の亜種である『H.A.D.E.S』のそのまた亜種。プロトタイプ・バイオ・センサーといっていいものだ。

 

 フィードバックされたサイコウェーブが、大佐の感情を送ってくる。

 

「オルド、お前はやっぱり――」

 

 いや、違うよ。

 

「キリシマ嬢。悪いけど僕は『オルド・フィンゴ(オールドタイプ)』なんだ。未来を視る気も作る気もないんだよ」

 

「バカいえ。そんなことお前が決められるわけないだろ。全部時間が決めているわ」

 

 ぬ。「人は流れに乗ればいい」ってやつかな?

 

「嫌いだな。その言葉は」

 

「わかってんのか? アンタ、最初から目覚めて(・・・・)ますのよ」

 

「……知ってるよ。でもそれを否定したい。僕は観測者であって、先駆者になどなりたくないんだ。君はなんで僕みたいな存在と繋がりたいんだ?」

 

 返答はなかった。

 

 やれやれ、と思う。本当にわからない。ニュータイプだったらわかるのだろうか。いや、わかったからといってそれがなんだというのだろう。

 

 僕の品性は客観的に見ると実に下劣だと思う。

 

 適度に場に干渉しながら影の奏者を気取り、ただただ愉悦を得たいという欲求。

 

 まるで、鯉の群れが泳ぐ池に石を投げ込み、慌てふためく魚と、水面を広がっていく波紋に全能感を覚える子供のようなものだ。

 

 そんな奴と縁を繋げてどうしようというのか。歴史をかき回すだけで、未来を生み出すことのない人間。

 

「オルド中尉、何かトラブルですか!? すでに作戦行動時間ですよ!」

 

 オリヴァー中尉の声で意識が現実に戻る。

 

 内向的になったのは『Type.E』にインストールした人格のせいだろうか。僕も大概、俗っぽい。

 

「ああはいはい。ただいま最終チェック中」

 

 データ的には送られてきた砲撃ポイントは2つ。

 

 ひとつはどこぞの潜入部隊が送ってきたもので連邦の地下秘密工廠のもの。

 

 もうひとつはゼクス大佐の思念を解析し、読み出された座標。

 

 さて、どちらに撃つべきか。

 

 飛んできたイメージは漠然としたもので、山頂にある施設がいったい何であるのかよくわからない。

 

 感じ取れたのは、大佐の焦りに似た懸念。

 

『Type.E』は受信特化で、戦術予測機能はない。ただ、インストールされた疑似人格はどちらを選ぶべきか瞬時に判断したようだ。

 

 問題は、そちらを選ぶと僕の立場がだいぶ危ういことになるとだ。

 

 このジャブロー攻略において、地下工廠破壊は専門の潜入部隊を数ヶ月の間現地に潜らせて位置を調べ上げた。

 

 いくら僕ら『特務遊撃部隊』がガルマ准将のもと、作戦行動の独自裁量権を持っているとしても、本部がたてた戦略を無視した行動を取れば心象は激烈に悪くなるだろう。

 

 それに今回のジャブロー破壊用弾道弾(X-001)は製造費もとんでもなく高コストで、一発しか存在しない。

 

 なにせ一発で最新型のドム7機分だ。

 

 さらに元連邦軍人が造ったシステム使って、作戦目標とは別の場所を撃ちました――なんてなれば、大佐もろとも軍法会議かもしれない。

 

「迷ってますの?」

 

 キリシマ嬢の声。

 

「そうだね。たぶん、ここが僕の分水嶺。人か、オルド・フィンゴ(ロクデナシ)として生きるか」

 

『前世の知識』、『黒歴史を詰めた箱』、『狂気を孕んだ技術的協力者』――。

 

 舞台装置は整えられている。

 

 望むなら、僕は僕の欲望を叶えることができるのだろう。誰かが創ったこの世界の管理者――いや、この箱庭の神殿を戯れに愉しむ神に仕える司祭として。

 

 心は決まった。

 

 諦観したとも言える。

 

 座標データをコンピューターに入力し、発射シーケンスに入る。

 

 カウントダウンが進み、そしてトリガーを引く。

 

 ソニックブームとともに超極速で撃ち出されたミサイルは、頭上の、埃にまみれて澱んだ雲を一瞬で吹き飛ばし、どこまでも青い空を覗かせる。

 

 そして待つことしばらく――。

 

『Z.E.R.O.』が目的地に着弾したことを知らせてきた。

 

 任務、完了。

 

 

 

 

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