目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第232話 Side『マインド・エデュケーション』

 

 ザビ家専用保養区画を抜け、低重力の中を、リフトグリップ――アニメで見た、壁に生えてるあの可動する手摺り――を使い惑星の中心部へと向かっていく。

 

「貴様は夢を見たことはあるか?」

 

「はぁ……含意が広い質問ですね」

 

「寝ている時に見る夢だ」

 

「あいにく、自分は睡眠を必要としていませんので」

 

 ギレンが僕を振り返る。

 

 嘘じゃあない。

 

 僕が僕になってから(・・・・・・・)、ずっと一睡もしていない。

 

 寝ようと思えば寝れるのかもしれないけど、睡魔を感じたことは一度もないし、それで疲れたことも倒れたこともない。

 

 ジュニアハイスクールに通っていた頃からずっとだ。

 

 精密検査をしても、僕の身体は特に異常はない。ただ、14歳の頃のまま、肉体が停滞しているとしか言いようがなかった。さらに言うと、空腹感も感じたことがない。

 

「言い方を変えよう。貴様は生まれ変わりを信じるか」

 

 一瞬驚く。

 

 まるで僕の中身(・・)を知っているかのような発言だったから。

 

「仏教……宗教談義でしょうか?」

 

「そうではない。記憶の話だ」

 

 幼少時、繰り返し見る夢があったとギレンは語る。

 

 ニュータイプ論を語り国民を煽り、サイド虐殺を起こしてコロニーを地球に落とす。

 

 そして家族を見切った結果、裏切りにより戦地で命を落とす。

 

 原作通りのギレンの最期だ。

 

 夢は続き、地球圏はギレンが懸念した通りの結末を迎える。

 

 宇宙民の弾圧と虐殺。数多の宇宙紛争と連邦の技術封鎖による文化的逼塞。なにより増えすぎた人類による資源不足による飢餓。

 

「人というよりも、生き物の本質は己の遺伝子をどこまでも広げていくことだ。無知蒙昧な愚民共は本能的欲求に従い、害虫の群れのように文明を蝕んでいく。防ぐには叡智持つ者達が、その本能をコントロールしてやらねばならない。形骸化した連邦では不可能なことだ」

 

 まあ、彼らは組織を維持して生まれる利権だけを貪りたいだけだからね。すべての組織がそうとも言えるけど。

 

「人類は間引かれるべき。そう考えた?」

 

「そうだ。だが繰り返し見る夢、そして資源調査班がアクシズで見つけてきた『あるもの』が、私の夢を現実であると告げたわけだ」

 

 黒歴史だな。

 

「コロニー落としは悪手。歯がゆいな」

 

「殺すのではなく生かす。そのためには生存圏を広げていくしかない」

 

「その通りだ。それでもどこかで増殖を抑えねばならんだろうがな。お前が持ち込んだ技術が、どこまで効果を見せるか――」

 

 やがて僕らは深部にある空洞にたどり着く。

 

 通路から見下ろした中央部。 そこには、岩盤に埋もれた物体(・・)が鎮座していた。

 

「ターンX」

 

「名前を知っているのか」

 

 思わず呟いた僕の言葉に、ギレンが反応する。

 

 そこにあったのは、『∀』と対を成す、『ターンX』の頭部だ。

 

「胴体が見えませんが、他の部位は?」

 

「どういうことだ?」

 

「これ、MSの頭部なんですよ。人型してますから、胴と手足があります」

 

「見つけたのはこれだけだ。他の場所に類する物は一切埋もれていなかった」

 

 ――悪趣味だな。

 

 全てを察して、不快感にため息が漏れる。

 

 この世界(シミュレーター)を創った存在は、黒歴史を内包した遺物をバラバラに封印しているのだ。

 

「貴方は、これに触れることができる。触れて、歴史を知ったのですね」

 

「触れることのできる人間は限られている。貴様はどうだ」

 

 むむ。

 

 僕が見つけた『∀』のシステムは、対象者以外が触れることは許されず、ターミナルに接触する前にメガ粒子で蒸発させられるんだが。

 

 それを今試せと?

 

 まあ、別に死んでどうにかなるわけではない。というか、たぶん僕は人間じゃない。

 

 通路を跳んで、低重力の中を降りる。

 

 間違いない。ターンXの頭部。ギレン以外が触れないと言っていたが、そのせいか検査用の機器すら周囲に置かれていない。

 

 装甲面に触れる。瞬間、冷たかったナノスキンが熱を持ち、虹色の光が表面を幾条もの光になって走り抜けていく。装甲前面が持ち上がり頭部がハッチが開かれた。

 

 そこにあるシートとコンソール。

 

「コックピットだと……本当にMSだったか」

 

 ギレンの驚きの声。

 

 あの人、触れたけど起動はしなかったのか? どうやって黒歴史を知ったんだろ。

 

 ともかくシートに座ってコンソールレバーに触れる。

 

 虹色の光が辺りにオーロラのように広がり、そこに数多の映像が映し出された。

 

 地球で見つけたものと同じ反応だ。

 

「これほどとは――私の時にはなかったものだ!」

 

 興奮したのか、ギレンが通路を降りてきて叫ぶ。

 

「私の時は映像が自身の脳裏に浮かぶだけであった。貴様は選ばれたということだ」

 

 嬉しくないね。

 

「閣下、これで僕の試験(・・)はお終いですか?」

 

「これからどこまでの情報を引き出せる?」

 

 んー。

 

 目を閉じ、思考を巡らせる。

 

 どういうシステムなのか、それだけで膨大な情報が僕の脳裏に流れ込んでくる。地球のものと同じだ。だけど、『∀』と比べてその蔵書(・・)は少ないようだ。

 

 やはり頭部だけだからか?

 

 こいつはターンXの姿をしてるけど、黒歴史を内包したライブラリーだ。

 

 後はジャブロー攻略に使ったバンカー型ハイパーナパームの情報以外は、特に技術的なものは見つからなかった。

 

 まあ、カイラスギリーの製造法とか見つけたけど、別にいらんだろう。コロニーレーザーすらまだ開発されてないし。今の地球圏では不必要というか、開発する体力がジオンにはない。

 

「目新しい情報はありませんね。どれも地球で発見したものと同じかと。現状では、地球にある黒箱(ライブラリー)の縮小版でしかありません」

 

 映像はあっても、製造法がなかったりするからね。

 

「貴様の言う手足が揃えば、抜けは埋まるのか?」

 

「そうかも知れませんし、そうじゃないかも。さすがにこいつの仕様までは理解できません。そもそも、なぜ自分だけが深い情報にアクセスできるのかもわかってないんですから」

 

 コックピットから降りる。

 

 僕の意識が逸れたからか、宙に浮かぶ歴史映像は瞬時に姿を消した。

 

 本当になぜ自分なのか。

 

 このシミュレーターで、創造者は一体何をさせたいんだろうね。

 

「……いいだろう。オルド・フィンゴ、貴様をジオンの奏者として迎え入れたい」

 

「過分な評価ですね」

 

「私はこの世界がループしていると考えている。この黒歴史がそれを示した。私が持つ記憶もそうだ。それらの(くびき)を取り外し、人類を外宇宙へと繁栄させる。そしてその栄光の中心にザビ家を据える。貴様がこの私の理想を理解し、その一助になるというのなら、ザビ家は貴様に最大限の恩恵を与えよう」

 

 爬虫類のような顔をしたギレン・ザビ。

 

 なるほど、思っていたよりもこの男はロマンチストな人間だ。

 

 僕とは違って、この世界をシミュレーターとは思っておらず、黒歴史を前世のものと感じ取っている。

 

 まあでも、僕のしてみたいことと、彼の欲望はそう離れた位置にあるものではない。

 

「僕が世界を操り、ザビ家が人類を支配する。そういうことで?」

 

「そうだ。人類には終わらぬ繁栄と、その肥やしとなるべき闘争を与え続ける。そのための装置として、我らは存在する」

 

「いいでしょう。僕も黒歴史にない歴史(・・・・・・・・)を見てみたい。貴方達が面倒な政治を引き受けてくれるというなら、願ったりだ」

 

 手を差し出す。

 

「よろしく、閣下」

 

 骨ばった指が、強く僕の手を握った。

 

 シミュレーターの世界。

 

 異質な自分の存在。

 

 それを観覧しているであろう、創造者達。

 

 せいぜい愉しませてやろうじゃないか。どうせ与えられた永遠(じんせい)だ。惜しむことも嘆く必要もない。

 

 やりたいことを、ただやりたいように。

 

 お気に入りの玩具(プラモデル)を、好きなように弄くり回す子供のように。

 

 形も色も、その生い立ちさえもここでは僕の物だ。

 





 広げたもの畳みきれてませんが、後一話で終わりにします。
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