目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第233話 Epilogue『オルド・フィンゴⅢ』

 

 ――AC1000年に草稿されたハルカ・シデン氏の、調査記事レポートより一部を編集して抜粋。

 

 (当レポートは公表されることなく、氏の個人端末の奥に、半世紀以上も仕舞われたままであった。推敲もされていないメモ書きに近いものである)

 

 近年、ジオン皇国が秘匿していた技術と旧人類史――俗に黒歴史と呼ばれるようになったものだ――の情報が一般に公開され、その真偽を世界中の識者たちが調べる中で、浮かび上がった人物がいる。

 

 オルド・フィンゴ。

 

「ジオンの奏者」

 

「ジオンの目」

 

「箱庭の管理者」

 

 宇宙開拓時代の基礎を築いたとされるジオン皇国が、前身である共和国ですらなく、まだ公国であった宇宙世紀の時代から彼の名は歴史の中に、上記した二つ名で度々記録されることになる。

 

 黒歴史の真偽を研究する学者の中には、彼は架空の人物であり、ジオン皇家の始祖とも言えるザビ家の面々が、己が都合よく黒歴史から得た知識と技術を振るうためにでっち上げた存在だと断言する者もいる。つまり、皇家の功罪――つまりは後ろ暗いこと全て――は、全て彼による独断によるものだとするスケープゴートの役割だ。

 

 事実、宇宙に散らばった黒歴史を掻き集め、それを利用し暗躍した人物とするには、あまりにも荒唐無稽な資料が各所に残されている。

 

 それらの資料によると、彼はジオン公国創建時にザビ家に助力したとされるフィンゴ家の長子として生まれ、軍人として士官となった後、旧地球連邦とのコロニー独立戦争(一年戦争とも呼ばれる)に参加。そこで頭角を現したとされる。

 

 戦後は特務部隊の一員として、主に連邦残党との戦闘に費やし、遊撃隊員として各地を転戦した。その頃に培ったコネクションを最大限に利用し、ジオン外での活動領域を広げる。

 

 その傍ら、地球にて発見した『黒い箱』より黒歴史に記された遺失技術のサルベージを行い、その成果物をギレン・ザビへと献上。それらはジオン独占技術となる。代表的なものは今でも広く使用されている『ジオ・カーボン』。これは宇宙世紀の代表的な建材として広まっている。

 

 他にも、小型核反応炉の基礎設計やミノフスキー・ドライブといった、今日の宇宙航行において欠かせない技術の数々を生み出した。

 

 それが本当なら、今人類の生息圏が広大な宇宙に広がっているのは、彼の尽力あってのことと言えるだろう。

 

 ギレンとザビ家の繁栄に助力するという盟約を結んだ後は、ザビ家の財力と権限を徹底的に利用し、ジオ・マッドが手に入れたヤシマ重工のグループを核とした、新興軍事兵器開発企業KISARAGI・インダストリーを興す。代表こそ、協力者であるカスミ・キサラギであったが、ザビ家とオルドの管理による技術開発試験のためのダミー企業であり、独自の開発施設を、ジオンが秘かに保有していた、削岩済みの資源衛星群によるアステロイドベルトに建てたとされる。

 

 UC0083年代には、技術開発省に所属。

 

 階級は技術中尉であったが、ザビ家より直々に特務中尉の階級を与えられており、特務においては佐官級の権限を持っていた。

 

 フットワークが軽く、地球圏のありとあらゆる現場にその身を運んでおり、後述する縁故もあって、『ザビ家の目』と呼ばれるようになる。

 

 一方で自身を含めたあらゆる生物の生命を軽んじており、目的のためならば冷酷な手段を取ることに一切の躊躇がない。また露悪的――本人は自身を悪とも思っていないし、誠実だと思ってもいないが――な言動が多かった。

 

 組織に所属する人間としてはこの上なく扱いづらい人物であったろう。さらに彼の背後にはドズル、ガルマ、キシリア、ギレンという今の人類史でも名の知られるザビ家の重鎮が控えており、独裁政権下のジオンでは彼を無下に扱える者はいなかった。

 

 手段を選ばない性格のため、ジオン内外に敵対する人間も多かったと推測される。

 

 宇宙世紀を終えた新時代にもジオンは存在しており、そこに彼と同姓同名――かつ階級も一緒――の人物が今も所属しているが、おそらくは血縁者がその名を継いだものだろうか。でなければ彼は不老不死ということになる。宇宙世紀から数えて1000年。人は未だに死を乗り越えてはいない。

 

 技術のサルベージと再現が、ギレンより課された命題であった。しかし黒歴史に再現なくアクセスこそできるが、本人の技術開発者としての能力はさほど高いものではなく、再現の全ては『AIの母』カスミ・キサラギや、『新時代宇宙航行の祖』ギニアス・サハリン、など有名な他者の手を使っており、自身はそれら個性的な人物たちをまとめ、天才たちの理論を現実的なレベルに落とし込む役割を担っていた。

 

 私生活では、同僚であったフローレンス・キリシマと結婚。コロニー建設の下請け業者であったキリシマ工業を、わずか1年でジオン有数のジャンク社へと押し上げ、さらにそこから多数の企業を傘下に置く複合企業集団へと育てた。

 

 KISARAGI・インダストリも含め、キリシマグループは、宇宙開拓黎明期において、アナハイムと並ぶ大企業グループであった。

 

 現在でも、社の流れをくむ企業はいくつか存在していることからも、その影響力の大きさは計り知れない。

 

 本人は「自身の行動で歴史がどう変わるか観測したい」という、唯一とも言える欲求を満たせるゆえに嬉々としていたと、子孫は証言している。

 

「彼は常々、『この宇宙にある万物全ては、闘争するためにある』と言っていた。その論理から彼自身も逃れることはできず、箱庭の管理者である自身に倦みもした。だが失うことも、疲れて狂うことすらできない彼は、ただひたすらに果てのない未来を見続けるしかなかった。だからこそ、ニュータイプ論を否定し、ニュータイプに憧れた。彼はどこまでもオルド・フィンゴ(オールド・タイプ)だった」

 

 そう私に(注:ここでいう『私』は、著者であるシデン氏のことである)語ったのは、数多の資料を提示してくれた協力者であり、オルド・フィンゴの子孫と名乗る少年である。

 

 カトル・ラバーバ・ウィナーを名乗る金髪の少年。

 

 おそらく偽名であり、容姿も偽装だろう。ナノマシンにより人の姿など自由に変えられるのだから。

 

 ただ、件のオルド・フィンゴ氏も、子供のような容姿をしていたという。

 

 まさかな、と一瞬考えたがありえない話だ。

 

 ジオンは先に、黒歴史ですら死を超える技術を持たないと宣言している。

 

 しかしながら、黒歴史の全てを閲覧できたのは、これまでで彼だけであったとカトル氏は述べており、もしかすればその中に人間が本来進むべき進化の過程を記したコードが埋もれていたりしないのだろうか?

 

 そう問うた私に、カトル氏は皮肉めいて笑った。まるで既に自分がそれを見てきたかのように。

 

「そんなものはありません。あれは人が争うために生み出した技術と歴史の記憶にすぎない。誰もが未来に永遠を望むけど、ないんですよそんなもの。少なくともこの宇宙には。黒歴史には未来があるのではなく、唾棄された過去(データ)だけ。そんなものにすがっている以上、僕らの歴史もいずれ廃れることになるのでしょうね」

 

 だが、なぜ宇宙世紀から1000年の節目に、ジオンは自分たちが独占していた黒歴史の情報を公開したのか。

 

「さあ? でも、自由への渇望かもしれませんね。ギレンは盟約でオルドを縛ったつもりだった。でも時が過ぎて、ジオン皇家は黒歴史を保持することに倦んでしまった。知っていますか? 詐欺師は普段あまり嘘はつかないんですよ。秘密を持ち続けるのはエネルギーがいりますし、どこかで矛盾が生まれた時にあっという間にバレて身の破滅を迎えますから。だから重たい盟約を捨て、全てをオルド・フィンゴに任せ(オールド・ワン)て、逃げるのでしょう。あとは、自分たちがまだ人類に影響力を持っていると誇示したいのかと。皇家は地球を所有してるけど、その求心力はもはや見る影もない。かつては宇宙民の始祖とまで嘯いていたのに、今では『人類は地球に回帰すべきだ』なんて宗教の宣教者のようにまくしたてる始末ですもんね。あんな塩水だらけの石ころ、今では誰も見向きもしないというのに」

 

 そう語るカトル氏の目と口は痛烈な皮肉とともに、心の底から笑っていた。

 

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