目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
作戦名は10面ダイス振って決めました。
北アフリカ連邦陣地攻略作戦『106号作戦』は開始された。
第2混成部隊は、ノーラン・ミリガンが指揮するMS小隊と、部隊長であるウッヒ・ミュラーが指揮するマゼラアタック中隊によって、北東部にある連邦陣地――11番陣地と名付けられた――を攻略することになっていた。
事前の偵察では近接防御火器に対空のための高射砲が設えてあるため、北米より提供されたガウによる輸送は困難として、ギャロップでポイントまで搬送し、そこから侵攻を開始する。
慣れ親しんだマゼラアタックの操縦席に座りながら、ウッヒ・ミュラーはその時を待つ。
第2混成部隊は、他サイド出身の人間だけで集められた特別部隊だ。
ミュラー自身もサイド1出身であり、過去には連邦のコロニー駐留軍に所属し、反連邦テロリストとの交戦を経験したこともある。
傭兵として各地を転戦した経歴を買われ指揮官とされたが、ミュラー自身は部隊を率いた経験などなかった。だというのに強引に中尉へと階級が定められ、隊長に任命された。
尉官として高い報酬が約束されたが、正直、割に合わないと思っている。
部隊は全員、傭兵含めた志願兵で構成されており、そのうち成人しているとはいえど学生が混じっていた。
彼らと接していると、部隊長というよりハイスクールで子守をする教師にでもなった気分になるのだ。
ミュラーがこの戦争に参加したのは、金のためであったが、それだけなら連邦に与したほうが賢かった。
彼自身はこの戦争にジオンは勝てないと読んでいたからだ。
MSというこれまで人類史に登場しなかった新兵器でもって、すさまじい勢いで戦線を拡大しているが、早晩限界が来るだろう。
そうなれば、地力で圧倒的に有利な連邦にジオンは勝つことはできない。
それでもジオンについたのは、部隊内のその他大勢と同じく、昨年の連邦艦と輸送船の衝突事故が理由だった。
ミュラーはこの事故で娘を失った。
サイド3で歩兵教導団のアグレッサー役として暮らしていたミュラーの元に、20年も前に離婚した元妻から連絡があった。
衝突事故に巻き込まれ、娘が死亡した、というものであった。
遺体は残らなかったそうだ。
再会した元妻は憔悴し、自分より幾分も老けているように見えた。
墓碑銘だけが刻まれた墓に献花し、どこか虚ろな気分でいる自分に気づいた。
親らしいことをひとつもせず、その顔さえ忘れきっていた娘を亡くしたというだけで、なぜか消失感を味わっている自分が滑稽でもあった。
今の夫である男に肩を抱かれながら、涙とともに震える元妻を見ながら、ミュラーはどこかぼんやりと考えていた。
消失感に追い立てられるように、ジオンの地球攻撃軍に志願した。
ミュラーは理性で感情を切り捨てることのできる男だったが、今回ばかりは戦う理由があるほうが、都合が良かった。
軍に参加することで支払われる報奨金の受け取り口座に、元妻のものを指定し、地球へと降りた。
隊長として就いた部隊は、傭兵であろうと、志願した学生であろうと、全員が家族や知人を、連邦の不手際によって失った過去のある者たちばかりで構成されていた。
復讐するは我にあり。
そこまで大層な意志をミュラーは持ち得ていなかったが、この過酷な環境では、そうした共有のモチベーションが必要なのかもそれない。
特にノーラン・ミリガンだ。
彼女にどこか危うさを感じていた。
一見すれば、全体を見て自身の成すべきこと、できることを冷静にこなしているように思える。
だが、ときおり見せる不安げな表情が強く印象に残った。
自分自身が立つ根っこがない、拠り所となる場所を探す子供のような雰囲気を感じるのだ。
――誰しも、自分が眠る天国を探している。
敢えてMS小隊長として任命したのは、彼女の能力と責任感、そうした優秀な素質を鑑みただけでなく、彼女に少しでも居場所と呼べるものを与えてやりたいと思ったからかもしれない。
彼女を含めた学生組はなんだかんだと口の悪いやり取りがあっても、やはり若者特有の明快さがある。一人、よくわからない男が混じっているが今のところは問題も起きていない。
この戦争が長引けば、彼女たちよりも若い少女、少年といった者たちすらも戦場に駆り出されるのかもしれない。
そう考えれば、少しでも何かを若者に与えてやりたいという気持ちが少なからずあった。
なぜ今更そんな感傷的なことを思うのか。
あるいはこれは、娘にしてやることができなかったことへの
今更ながらの贖罪のつもりなのか。
「今更、か」
らしくもない。思わず呟いた声が操縦席でやけに大きく響いた。
「隊長、なにか言った?」
ノーランが聞いてくる。
回線がオンラインのままであった。
「いや、何でもない。そちらの行動手順は覚えているな?」
「もちろん。シミュレーション通りに。先行して陣地を攻撃。撹乱する」
緊張しているのだろう、硬い声だ。
良い隊長ならば冗談でも上手く言って、新兵の気をまぎらわしてやるものなのかもしれないが、あいにく自分は口下手でいつの場面でも良い言い回しが出てくることはない。
「ホース1から各員へ。まもなくポイントに到着します。最終チェックどうぞ」
「了解した」
ギャロップのオペレーターの通信に短く応える。
やはりらしくない。
つくづく、隊を率いるのに向いてない男なのだ、とミュラーは自嘲していた。