目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
タミヤのエナメル塗料……。
こぼしたせいでグフの肩が……(泣)
僕が前世を思い出した頃、サイド3を震撼させた血なまぐさい事件があった。
マルティクス・ピースクラフト邸襲撃、惨殺事件だ。
マルティクス・ピースクラフトはジオン公国建国の立役者の一人で、ダイクンとザビほどではないが、派閥内で高いカリスマを持つ存在だったらしい。親連邦派閥の旗頭だったが、それを疎んだザビ家派閥の過激集団によって一家もろとも惨殺された、と当時のニュースでは発表されていた。
だが最近になって、過激なダイクン派がザビ家に汚名を被せるために行ったことであるとされ、幾人もの人間が軍警に逮捕、粛清された。
毎日のように耳に聞こえたピースクラフトという名にどこか聞き覚えがあるな、と思っていたが、まさかガンダムWの登場人物だなんて思わないよ!
この世界は宇宙世紀じゃないのか? 年代を表すのは
「君は……どうかしたのか?」
いつまでも固まってたら、金髪碧眼が眉をひそめてしまう。
慌てて彼の襟元にある階級章を見ると、大尉だった。
「失礼しました大尉殿。自分はこれでも25になります」
「本当か? 私よりも年上なのだな、中尉」
若干引いたような雰囲気を醸し出す金髪大尉。
これ、ミリアルド・ピースクラフト当りだよね。声も子○さんそっくりだし。ここまで来て別人ですってことはないだろう。
「私と相対された方は皆さん面を喰らいますね」
「そうか。失礼した。それで補給はいつ終わるか? 急ぎ戦線に戻りたい。空きの機体でもいい」
「代わりの機体はありませんが、修理がなければ5分はかかりません」
給油と弾薬交換だけとはいえど、それなりに時間はかかるのだ。
「ふむ……あのザクは冷却中か?」
そう言って金髪さんは目ざとくハンガーに立つMSを見つける。
「冷却は終わってるんですがね。パイロットはいないんですよ」
言ってから、失敗した、と思った。
案の定、金髪さんは底面を蹴ってザクの方へと飛んでいく。必然、自分もあとを追いかける。
「見たところ、外損はなさそうだが?」
見た目はね。
このザクⅡR型は、うちの艦のMS部隊長のものだ。割とミーハーな人で、我が軍のエースパイロットとして有名なシャア・アズナブルのマネをして、頭部と肩の装甲を敢えて白く染めてある。赤じゃないのはオリジナリティを出したかったのかな。
「右腕の装甲がね、歪んでるんですよ」
少佐の視線を、見事にひしゃげた右肩のシールドへと指先で誘導する。
「被弾したのか。が、問題はなさそうだが?」
大ありだよ。
本機は意気揚々と出撃したのはいいが、連邦の航宙戦闘機であるセイバーフィッシュに突撃を食らってしまったのだ。
ジオンのシールドは、防御兵装というより武装懸下装置兼武装保護装甲といった扱いなので、相手がぶつかり爆発した瞬間、予備弾倉も誘爆してしまったというわけだ。
ザクは頑丈なのでそれでも装甲をふっとばす程度ですんだが、中のパイロットはそうもいかない。
埒外の衝撃に耐ショック防御を構えることもかなわずにさらされて、重度のむちうちと手首の捻挫、肩の脱臼と相成ってしまったわけだ。
這々の体で帰還して、パイロット本人は医務室送り、機体は一応冷却だけして放置の状態である。
「動きはしますけどね。フレームに歪みが出てるかもしれないんですよ。最悪右腕が断裂するかもしれません」
細かく見てないからね。パイロットが自力で戻ってきたので通常稼働に問題はないかもしれないが、戦闘となるとどうなるかわからない。
「動くなら問題ない。私はこれを借りていくぞ」
本気か金髪さん。言うと思ってたけど。
「あー推進剤が足りませんよ」
空っ欠というわけではないけど、一度戦闘起動を行っているのだ。加えて、MS-06R高機動型ザクⅡは推進剤をどか食いする。性能はたしかに高いのだが、操縦に慣れてない新兵ではあっという間にプロペラントが尽きてしまうので、ベテランやエースパイロット専用機体とされているのだ。
「教習は受けている。なんとかしよう」
なんとかってあなたね……せっかちだなぁ。
「思ったよりも我軍の消耗が激しいのだ。動かせるものを出し惜しみする余裕がない」
「あー」
史実における一年戦争略歴では、ルウム戦役でジオンは圧倒的勝利を飾ったと説明されるが、実際には激戦で多くのベテラン兵を失ったせいで、数合わせのために相当数の新兵が編入されて軍の質が激烈に悪化した。ジオンに兵なしとは、このことを言う。
「『後の世の兵士のために』ですか」
思わずガンダムWのセリフを引用してしまった。いかん、死亡フラグじゃないかこれ。
こちらの言葉に金髪大尉は驚くような、面白がるような不思議な笑みを浮かべる。美形って変顔しても様になるのな。
つい親しみを覚えてしまったせいか。それとも、ガンダム世界の――作品違いとはいえ―−名のあるキャラクターに出会ったせいで気分が高揚していたためか。
「シゲさん! ザクの一番機出します!」
金髪さんのゾッドに向けて補給機を操作していた曹長に叫ぶ。
「そのゾッドの補給はしなくていい。ザクの武装優先!」
シゲさんはこちらに向けて何事か罵倒の言葉を吐いていたが、指示通りに動き始めてくれる。
「良いのか?」
「上官命令には逆らえません」
戯けるように肩をすくめてみせる。本当なら上官侮辱でぶん殴られてもおかしくないと思うのだが、彼は寛容に笑った。
「恩に着る」
そう言って頭を下げてくるので驚いた。
「あー、乗るなら急いでシートに座ってください。機体チェックのやり方はわかりますね?」
肩関節の受け軸が、ボロボロになったので初めてパーツ注文しました。