目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
106号作戦は終了した。
ジオンは北アフリカより連邦陣地を壊滅させ、戦線の押し上げに成功。北西にあるダカールを陸路にて孤立させる。
だがすべてが順調ではなく、この戦果を得るために決して少なくない犠牲を払っていた。
連邦は通常砲台に似せたメガ粒子砲を各陣地内に用意しており、これにより突入したMS隊に被害が出ている。
特に本命部隊のMSを援護するために突貫したマゼラアタック中隊は、3分の1が撃破され、事実上の壊滅状態であった。
陽動を担った第2混成部隊にも被害は出ている。
マゼラアタック2両大破。兵員1名死亡。
初の戦死者に、部隊内の傭兵組を除いた志願兵、年若い者たちに強い動揺が走っていた。
特にノーラン・ミリガンの落ち込みようは深刻と言えた。
元連邦陣地、物資搬送用のヘリポート跡地でMSの整備を受けている最中、ノーランは部隊長に呼び出された。
「アタシが昇進?」
「そうだ。今回の作戦の成功に伴い、司令部はお前の活躍を高く評価したということだ」
ウッヒ・ミュラーの言葉に、ノーランは怒りを覚える。
「はっ! このアタシが? 仲間を死なせて、それなのに昇進? 冗談じゃないね!」
「戦死者が出たのは別段お前のせいじゃない」
「じゃあ誰のせいだっていうのさ!?」
戦死者1名。
ライル・コーンズ。
メガ粒子砲の直撃を受けて、彼の乗っていたマゼラアタックは爆発した。強暴な閃光は彼の体ごと機体を貫き、遺体すら残さなかった。
「アタシがもっと早くメガ粒子砲に気がついてたら、もっと上手くMSを動かせてたら、ライルは死なずに済んだかもしれない」
「お前のせいではない。連邦は通常の砲台に偽装していた。先行偵察でもわからなかった」
ミュラーは事実を口にしただけだ。それだけでは、ノーランの気持ちは救われなかった。
彼女自身そんなことはわかっているのだ。
自分がどんなに上手く動けたとしても、必ず犠牲が出ただろう。
仲間とともに従軍することを決めたとき、自身が死ぬかもしれないという覚悟はできているつもりだった。だが、親しかった仲間が、友が死ぬということを想像すらしていなかった自分がいた。
コロニーの独立。
そんな大言壮語な夢を抱いて参加した戦争は、理想とは程遠い、無味乾燥な現実だけでできていた。
結局それは覚悟などという固い意志ではなく、ただの英雄願望に支えられた衝動でしかなかったのだ、と打ちのめされる。
「気に病むな。お前はよくやっている」
涙こそ見せないが肩を震わせるノーランに、ミュラーはそれだけを伝えた。さらに口を開くが、結局何も語らずにその場を去っていく。
ノーランは未だ煙のくすぶる陣地の中を歩き始めた。
地下居住施設は比較的無傷であり、発電機類のいくつかは無事であったため、野外でありながら比較的快適に過ごすことができる。
戦いを終えた隊員は逃げていった連邦兵が残した食料や酒を戦利品として手に入れ愉しんでいた。
小隊員のドクなどはしこたま酒を飲み、顔を茹でたように真っ赤にしながら輪の中で上機嫌に踊っていた。
酒盛りに誘われたが、まだ勤務中だと虚言を吐いてその場を去る。
目的があるわけではない。ただ、どこに居ても胸が苦しかった。じっとしているだけで、この地球の重たい空気に押しつぶされてしまいそうだったのだ。
「ようノーラン」
「トニーか。なに?」
「ひでえ顔してるな。ブサイクだぞ、お前」
「うるさいね。生まれつきだよ。アンタだって大した顔してないじゃないさ」
その場を去ろうとするノーランの肩をつかんてトニーが呼び止める。
「お前、どうすんだよ?」
「どう?」
「いや、その、ライルが逝っちまっただろ。だから、軍辞めるんじゃないかと思ってな」
「アンタは辞めるの?」
トニーはバツが悪そうによそを向いた。
「ライルとお前を誘ったのは俺だ。そんな俺が一番にしっぽ巻いてってのも考えた。でもよ、このまま地球でやっていけるのかもわかんなくなっちまった。だからお前はどうすんのか、とな」
ノーランは意図を読んだ。つまり彼はこちらの口から辞める、とそうした言質をとりたいのだ。自分で決めることができないから他人に任せたいのだ、と意識が透けて見える。
軟弱な男だ。
「アンタが辞めたきゃ勝手にすりゃいいさ」
突き放す言い草にトニーは傷ついたような顔になった。
だが知らない。他人の気持ちに寄り添ってやれるほど自分は強くできていない。
「お前は残るのかよ? こんなひでえ場所に」
「
「居場所って……お前、確かサイド2で親父さんいたろ」
「蒸発した」
「は?」
地球に降りることが決まった時、サイド2に住む父にメールを送っておいた。だがそのメールは届かずに送り返されてしまった。
住んでいた家は既になく、父は失踪していた。
「帰る場所なんて、ないのよ」
恨んではいない。男手ひとつでハイスクールまで入れてくれたのだ。母が死んで以来会話らしい会話もなかったが、感謝はしている。
ただ、なんとも言えない虚無感が胸に広がっていた。
「アンタはアンタの好きにしな。きっかけはどうであれ、これはアタシがはじめたこと。アタシ自身が最後まで面倒みるもんよ」
かける言葉を失ったトニーをその場に置いて、ノーランは歩き去った。