目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
トライデント&ジャベリン作戦。
ジオン地上軍の大規模な立体作戦である。
連邦の中東戦力を排除、制圧し、分断されているアフリカと旧ロシアの自軍勢力を繋げることを目的としたもので、アフリカ部隊の陸上戦力による進軍をジャベリン、海洋戦力を中心とした部隊による地中海からの侵攻をトライデント作戦とした。
第2混成部隊にも、マゼラアタック中隊の護衛兼予備兵力として出撃が命じられた。
ギャロップで北海岸へ移動し、そこで作戦開始時間を待つ。
「結局、帰らなかったのね」
ゲーツのコックピット内で、ノーランはトニーに声をかけた。
「ま、お前の言うとおり、ここで逃げたら格好がつかねぇからな。お前とライルを誘ったのは俺だ。言い出しっぺが逃げるわけにはいかねぇさ」
通信の向こうでトニーが戯けているのがわかる。だが、そんな彼も今日、もしかしたら死ぬのかもしれないと思うと、ノーランは肌が冷たいような熱いような不気味な感触に覆われていくのを感じるのだった。
「ドク、アンタは平気なのかい?」
気を紛らわすために、もうひとりの同僚へ声をかける。
「姉御ぉ、何のことですかぃ?」
「だから姉御ってなんだよ……アンタは、軍を抜けないのか、って話だよ」
「オレぁここが気に入ってるからなぁ」
「こんな埃まみれの場所を?」
「戦場がぁ好きだ。引き金を引いてぇ、相手を殺せば褒められる。簡単なぁ仕事さぁ」
「ヤク中のアンタに聞く話じゃなかったね」
昨日も個人的に持ち込んだドラッグを仲間に配り、夜通し騒いでいた。ドク曰く、常習性のないものだそうだが、違法には違いない。以前ノーランも渡されかけたが、断固として拒否した。
「そりゃないぜ姉御ぉ」
「うるさいね。次姉御って言ったらはっ倒すよ」
「ヒィィっ!?」
「アンタ、寝不足で照準が合わないとか抜かしたら、マジでぶっ殺すからね」
「ドク、今のうちに覚悟しといたほうがいいぜ。ノーランのヤツだいぶ気が立ってるからな」
「お、おお……だ、だいじょうぶだぁ。俺は、そんなヘマはしなぃ」
何が大丈夫なもんか!
吐き捨てたい気持ちを抑えて、ノーランはモニターに表示される作戦開始時間のカウントを睨む。
血が凍って沸騰する。
そんな表現がしっくりするような感覚だ。
部隊は今、アフリカ北部に僅かに残った丘陵地帯に展開待機している。
先行するMS部隊が戦線を押し上げ、後続としてマゼラアタック中隊を投入する手筈であった。
つまりすでに戦端は開かれている。
遠くから響いてくる榴弾砲の轟雷をセンサーが拾い、こちらの耳朶を不快に震わせる。
早く時間になればいいのに。狭いコックピット内は息がつまる。
昔から待つのは嫌いだった。
遊具の使用待ちや、母について回った買い物時の待機列など、気持ちだけがはやって目が回りそうになっていた頃もある。
そこから抜け出したくてすぐにどこかへ走り出そうとし、そのたびに母は顔をしかめ、父は苦笑していた。
10年ほど前の記憶だが、随分と遠い場所に来てしまったと思う。
故郷であったはずのコロニーはずっと遠い頭上の彼方であり、帰るべき家はもうない。
そんなノーランの物思いを掻き消すように、作戦開始を告げる電子音が響いた。
「行くぞ」
どこへ行こうというのか。答えはないまま、機械じかけの巨人は歩き出す。