目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
第三部です。
第45話 Side『北米にて』
ルクレツィア・ノインは回顧する。
ジオンが独立を掲げ地球連邦政府に対し宣戦布告を行ってから、半年が経とうとしていた。
士官学校を卒業してから、ノインとゼクスは軍の新兵器であるMSの実働試験大隊に所属する。
彼と、北米方面軍指揮官であるガルマ・ザビ大佐とは士官学校にて切磋琢磨した仲であった。
実働試験大隊は、MSの運用方法を模索、訓練するために設立された隊であり、今の機動兵器教導大隊の前身である。
同じ大隊とはいえ、所属する部隊は異なったために、ゼクスとは常に顔を合わせていたわけではない。
試験大隊が解散した際、ゼクスはドズル・ザビ中将麾下である機動大隊に、ノインはMSの操縦技術を高く評価されて、そのまま新設された教導隊へと配属された。
もう会うこともないのだろう、と考えていた時に転機が訪れる。
地球攻撃軍北米方面軍への転入命令。
アフリカ方面の戦闘が激化している中、人員の整理調整が必要となり、結果、欠員を埋める形となった。
少佐となったゼクスの指揮下にある、第1機動小隊の隊長として地球に降りる。
彼女が一年と二十二日振りに出会ったゼクスは、士官学校の頃と変わらず、その姿に胸の奥が熱くなった。
旧交を温めつつも、ノインは自らが預かることとなった第1機動小隊の面子に頭を抱えることとなる。
*
「ルクレツィア・ノイン大尉。大佐のお呼びにより出頭いたしました」
ガルマ大佐の執務室。デスクにて書類の束を見つめながら、頭痛を抱えたかのように手でこめかみを抑えている大佐に向け、ノインは敬礼を行う。
「ノイン、これはどういうことだ?」
挨拶もなく、ガルマは疲れ切った口調でそう切り出した。
「はい、申し訳ありません。大佐、恐れながら、『これ』とはどのことでありましょうか。
問いに問いを返すという行為であるが、わからないことには答えられない。
大佐は叱る元気すらないのか、姿勢をそのまま変えることはなかった。
「中尉のことだ」
「ああ……」
短く告げられた言葉に、ノインも思わず渋面を作る。
およそ50名ほどいる小隊内の人員の中で、オルド・フィンゴ中尉ほど取り扱いに困る人間はいなかった。
前任の隊長であったエイブラム・M・ラムザット大尉からも、彼の言動や行動には注視しろ、と釘をさされている。
「今回、彼は何を?」
ガルマ大佐は手にしていた書類を、そのままデスクに放り投げる。拾って目を通すと、頭痛が走った気がした。
「請求書……しかしこの額面は」
「何かを作り出すのは構わん。CAD/CAMシステムの使用も許可しているしな。しかし事前に報告はさせろ! 今回のは一体何だ? 事後承諾では通らないほどの額じゃないか! 私はヤツから目を離すなといったはずだぞノイン!」
「申し訳ありません大佐」
かつての学友に頭を下げる。これだけではない、もう何度もオルド・フィンゴ絡みでこのやり取りが行われていた。
以前はニューヤークの民間治安維持部隊に支給する装甲車――鹵獲した連邦の61式をデチューンしたもの――に、特定の信号を打ち込むと機能停止するブラックボックスを勝手に搭載していたし、CAD/CAMシステムを使用して、新たな航空輸送機の設計を行い、試作機を開発している。
結果を見れば、我が軍の利になるものを用意したものであるが、他の部隊の整備班も巻き込んで勝手に資材を使用して作ったのが問題だ。
「あの男には、常識というものが欠けている」
ガルマはため息をつく。
大佐の指摘は正しくはない、とノインは思った。
あの子供のような容姿の男は、常識に欠けているのではなく、目的のためなら常識や慣例といった物事の規範を逸脱してよいと考えているのだ。
厄介なのは、彼の行動を掣肘しない方が、物事がうまく進むということだろう。
先月も、地球特有の気象である
さらにはゼクス少佐に進言して、酒保の飲食物と毛布などの寝具までも無償提供の準備を整えていた。
むろん、軍の設備を勝手に持ち出し使用したため、本来なら懲罰委員会に放り込むことになるはずが、ニューヤーク市長であるエッシェンバッハ氏がガルマ大佐の手を取って感謝をしたため、有耶無耶のままとなった。
この事をきっかけに、市民による軍への抗議行動が著しく沈静化を見せたのも大きかったろう。
元技術開発部出身で、整備班の人間の大半と顔見知りでありながら、小隊の実働パイロット。そしてムンゾでは数少ない地球環境経験者であり、実質、北米方面軍の幕僚として軍議において一定の発言権を持つ。そんな特異な経歴の部下を持つ身にもなってほしい。
もうひとりのパイロットといい、ここまで個性的だとどう扱っていいか検討もつかなかった。
「ノイン大尉、悪いが連帯責任だ。ともかく彼をここに呼んでくれ」
敬礼を返すと、頭痛が一段と酷くなった気がした。