目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第53話 Side『オルド・フィンゴⅡ』

 

 やられた!

 

 ゼクス少佐はレーダーを欺瞞するため、ホバー駆動も推進装置を使った機動も行わずにゆっくり近づいてきたのだろう。でなければ直前までソナーにすら反応がなかったのが説明できない。

 

 こちらがキリシマ嬢を待ち伏せすると読んで、隙を伺ってたんだな。

 

 僕のザクは背面のバックパックをぶち抜かれて爆散し落下だ。あーあ。

 

「これで1対1だぞ、ガルマ」

 

「ふん。望むところさ! 士官学校で貴様から受けた屈辱! ここで晴らさせてもらおう!」

 

 とりあえず暇なので、観戦モードに切り替えて二人の戦闘を見守る。

 

 仕掛けたのはガルマ大佐だ。

 

 マシンガンを乱射しながら接近。近接戦に持ち込みたいのだろう。

 

 一方、ゼクス少佐は一定の距離を保ちながらバズーカで砲撃を繰り返す。

 

 少佐の方は余裕が見えるな。なんだかんだで手加減はしているようだ。

 

 大佐が的を大きく外し、ビルに弾丸を命中させる。MMP-79はMS用小銃とされているが、120mmという口径を考えれば、これまでの重砲と変わらない。

 

 少佐の進行方向に瓦礫が降り注ぎその動きを阻害する。敢えて建造物を狙ったようだ。

 

 ドムの足が鈍ったところを大佐は狙う。

 

 さすがに避けきれないと思ったのだが、ゼクス少佐は機体を旋回させながら、瓦礫と弾丸を避けきり窮地を切り抜けた。

 

 数発が着弾していたが、肩のアーマーを吹き飛ばしただけで、残りは装甲に弾かれている。

 

 先にキリシマ嬢が見せた動きの真似だ。

 

 見様見真似で即座にモノにするとか、これだから天才は理解できん。

 

「やるじゃないかガルマ!」

 

「いったはずだ! 僕はザビ家の男だと! 貴様こそ、つまらない手加減なぞしては恥をかくことになるぞ!」

 

 しっかしガルマ大佐の動きが良すぎないか? ゼクス少佐が本気ではないとしても、とても搭乗時間が100時間も達していない新人の動きではない。

 

 シミュレーターには最新のモーションデータを再現させ、かつ歩行や走行時の加速Gがないとはいえども、順応性がとんでもない。

 

 もしかしたら、やはり覚醒持ち(ニュータイプ)の素質があるのではなかろうか。

 

「加減したことを謝罪しよう! 君との決闘、存分に楽しませてもらう!」

 

 ゼクス少佐は撃ち尽くしたバズーカを放り投げると、背中からヒートサーベルを引き抜いた。

 

「ようやくか! 僕の力を見せつけてやるぞ!」

 

 それを受けてガルマ大佐もマシンガンを放り捨て、ヒートサーベルの柄を両手で握る。

 

 水差すようだから言わないけど、実戦では武器投げ捨てるの止めてください。ひしゃげて使えなくなっちゃうから。整備兵一同のお願い。

 

 互いに斬りかかり、赤熱した刃と刃がぶつかり、プラズマ粒子の火花を散らす。

 

 ヒートサーベルは、高電力によって表面が灼熱化し、プラズマ粒子による刃が形成される。同時に電磁力による磁界が発生するので、ヒートサーベル同士がぶつかると互いの斥力で反発し合う。

 

 こうなると出力の弱いほうが徐々に押され、最終的には溶断されることになる。

 

 なので、連邦がこれから繰り出してくるであろうビームサーベルと鍔迫り合いした場合、ものの数秒でヒートサーベルは使い物にならなくなってしまうわけだ。

 

 今は先に武装を使用したガルマ大佐がやや不利だろう。

 

 大佐自身もそれを悟ったのか、何合か打ち合った後機体を大きく後方に下げた。

 

 距離が開いたところで睨み合い、急に走り出す。

 

 ゼクス少佐もそれに続いた。

 

 2体が一定の距離を保ち、建造物を間に挟みながら並走していく。

 

 やがて徐々に距離を詰め、ガルマ大佐が必殺の突きを繰り出した。

 

「甘いな」

 

 ゼクス少佐はその一撃を躱すと、振りかぶったサーベルで大佐のドムを袈裟に斬る。

 

 これで決着、のはずだった。

 

 だが大佐は斬られる寸前、腰部武装ラックに懸架していたヒートホークを左手に持ち、斬撃を繰り出してきた少佐に叩きつけた。

 

 互いのMSから爆発がおき、斬りあったまま両機は擱座する。

 

 判定は共にパイロット死亡。

 

「引き分け……か」

 

「そうなるな」

 

 ドロー。

 

 死力を尽くした二人の決闘は、これで幕引き。

 

 そして、僕とガルマ大佐の画面には『You Win!』の文字が。

 

「勝利だと!? なぜだ!」

 

 カメラが切り替わって、ビルとビルの間に不格好に不時着した僕のドダイSFSが映る。

 

「君のザクは撃破したはずだが?」

 

 ゼクス少佐の問い。

 

「あ、僕はドダイに乗ってまして。ザクは飾りです」

 

「なるほど……してやられたな」

 

 少佐の声には呆れた調子が含まれている。

 

 ドダイ側からでも搭乗しているMSを操縦できるようにしたんだけど、計算が結構難しくて、反応が悪いし操作しづらい。

 

 とどめにセンサーが安定しないので、敵機発見が後手に回りやすい。

 

 シミュレーターでこれだから、実機では無理かもしれん。

 

 筐体を降りると、不満そうな顔のガルマ大佐が僕を睨んでいた。

 

 なんで? 結構楽しんでたように思えたのに。

 

「最後のはいただけないな。勝負に水を差された気分だ」

 

「どういうことでしょう? 最初に説明した通り、先に相手チームを全滅させた方の勝利。僕が生き残っていたので、判定は勝利。何も問題はないように思えますが」

 

「そういうことではなく――」

 

「それより見てください、この観衆」

 

 いつの間にかシミュレーターの周りにはたくさんの人が集まっていた。

 

 我が隊の整備班だけでなく、他部隊のMSパイロットまで集まっている。

 

 みんな娯楽に飢えてるからな。よい見世物としてやってきたのだろう。 

 

 やがて人の輪から拍手が起こり始める。

 

 大佐と少佐の決闘を称える声。

 

 たしかになかなか見ものな戦闘だったもんね。

 

 パイロットたちは早速、先程の戦闘の分析をはじめ、自分ならこうするなどと持論を展開しているものまでいる。

 

 中には自分たちもシミュレーターを使えるのか? と聞いてくる者も。

 

 ガルマ大佐は戸惑いを浮かべつつも、自身の戦闘を褒められてまんざらでもなさそうだ。

 

「あ、ああ。いずれ正式に通達する。そうだな、小隊ごとに対戦できるように数は揃えたい。できるな中尉?」

 

「予算はかかりますが」

 

「そちらはどうにかする。任せたぞ」

 

「はっ! 了解しました!」

 

 いよっしゃ!!

 

 


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