目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第4章
第69話 Side『ジャブローにて』


 

 南米ジャブロー。

 

 広大な熱帯林の地下深くに、連邦軍の司令部を擁する本拠地がある。

 

 強固な地盤の地下に広大に広がる鍾乳洞を利用する形で各施設が建てられている。

 

 軍施設ではあるが、ジオンによる隕石落としの際に政府高官の疎開先となったために、今では地球連邦本部と呼んで差し支えなかった。

 

 そのジャブローの一室、ゴップ大将のオフィスにエルラン少将は呼ばれていた。

 

「わざわざ呼び立てしてすまないね、エルラン君。まあそう固くならずに楽にかけたまえ」

 

「はい。では失礼します」

 

 天然皮を使った高級ソファに腰を沈めながらも、エルランは気が休まらなかった。

 

 連邦軍も一枚岩ではない。

 

 宇宙軍と地上軍では慣例的とも言える確執があったし、同じ宇宙軍内でも、大小の派閥に分かれ、それぞれがそれぞれの陣営の足を引っ張りあって、互いに牽制しているほどだ。

 

 それはこの連邦がはじまって以来、未曾有の危機と言えるほどの戦火の渦中でも変わりない。

 

「何、久方ぶりに君との旧交を温めようと思ってね」

 

「はぁ、旧交、ですか?」

 

 エルラン自身はレビル派に属しており、中立派であるゴップ大将との関わりは薄い。旧交と呼べるほどの繋がりなど微塵も存在しなかった。

 

「私はあだ名の通り、ここからまったく出ていなくてねぇ。外の状況も直接聞きたいと思ってもいたんだよ。ところで、君、いける口だろう?」

 

 ジャブローのモグラという、不名誉なあだ名をもつゴップ大将はそう言って、手ずからグラスに琥珀色の液体を注ぐと、こちらに渡してきた。

 

「フレンチブランデーだよ。私はアルマニャックが好きでね。ほのかな甘みのある香りに、野性味に溢れた味とコクが気に入ってるんだ。君と飲むためにわざわざ取り寄せていたんだよ」

 

「きょ、恐縮です」

 

 ますますエルランは身を固くした。

 

 グラスを受け取りながら、手のひらにかいた汗を悟られるのでは、といらぬ心配をはじめる。

 

「味わってみてくれ。気に入ったのなら、後で瓶ごと差し上げようじゃないか。これの生産地は、ジオンの連中によって消し飛ばされてしまったからね。とても貴重なんだ」

 

 自らも注いだグラスの酒を嘗めながら、ゴップは一向に話を進める気配がない。

 

 エルランは緊張と猜疑心で、酒の味も香りも、まったくわからなくなってしまった。

 

「で、上はどうなってるかね? あいにく私のもとには書類にまとめられたデータしか届かなくてね。実際に見聞きした生の情報に飢えているんだ」

 

「は、はぁ。そういうことでしたら」

 

 嘘を並べても、このジャブローの怪物はすでに正確な戦況を把握していることだろう。なぜわざわざそれを自分に説明させたいのかわからないが、エルランは私見を交えずに、簡潔に語った。

 

「なるほどねぇ。やはり、MSというのは強力な兵器なのだね。開戦初頭に私がレビルの意見に反対したのは間違っていたというわけだ」

 

 エルランは驚いた。

 

 ゴップ大将は、レビル将軍が唱えたMS生産計画に異を唱えていた人物だからだ。

 

 ゴップが提案した既存兵力の再結集による交戦は、陸軍も強く推しており、中立派が守旧派に靡いたと思われる要因でもあった。

 

「人間は歳を取ると保守的になっていかん。軍も同じだ。その点から考えると、レビル君はあの歳で実に柔軟な思考の持ち主であったな」

 

 そう穏やかに語るゴップの目は笑っていない。じっとこちらを見つめている。

 

 怒っているのか、それとも何かを探っているのかわからない。

 

「さてエルラン君。旧友として、私のちょっとした話に付き合ってくれるか」

 

「はぁ、私なぞでよければ」

 

「なに、大したものじゃないよ。『たらればの話』さ。こう穴蔵に篭っているとね、くだらない与太話をぐるぐると頭の中で考えて暇をつぶすようになるもんさ。道楽らしい道楽もないしね」

 

 地上ではジオンの猛攻に、兵たちが文字通り鎬を削るほどの激戦を行っているのに気楽なものだ、とエルランは軽蔑した。

 

「私はね、エルラン君。コロニー社会が経済的に地球から自立するのは、どんなに早くても後10年はかかると思っていた。10年どころか、20年、30年かかるだろう、とね」

 

「それは……」

 

 ゴップの語り口調に、エルランの中で何か警鐘めいたものが響く。自身も伊達に少将の地位に登ったわけではない。政治をこなさねば、この場に立つことはかなわないのだ。

 

 その経験が、今から始まる話を聞いてはいけない、逃げ場がなくなると告げていた。

 

 だが、ここで背を向けることはすでにできなくなっていた。

 





 グエルくん、噛ませすぎて不憫だわぁ。いつか報われる日が来ますように。
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