貴方はもう……お目覚めになられてらっしゃる。
ペルソナ。
それは心の奥に潜むもうひとりの自分の姿。
適性ある者のみが、神や魔物の如き姿をもってそれを具現化させられる。そして自らの存在を脅かすもの、相容れぬものと戦うことができる力だ。
ペルソナとそれを使役する者は一心同体であり、コインの表と裏のような関係で完全なる分離は不可能だ。
よって、ペルソナは強い精神によって制御されているが、保有者が御するに足りる状態にないと、暴走したり、自らの意思を持つように行動することもある。
ペルソナが何故生まれたのか。人とペルソナの関係は一体なんなのか。なぜ人はペルソナに〝目覚める〟のか。科学的な側面から見ても精神体でもあるペルソナという存在は謎に包まれている。
富山県にある新興都市、綾凪市。
日本海の能登半島の根に位置するその街は、冬は豪雪地帯で有名であり、その期間の大半が雪で覆われている。街も市街地は新興都市らしくオフィス街や歓楽街があるが、少し離れると長閑な田園風景と長く続く道が広がっている。
この町には噂があった。
ひとつは、影抜きと呼ばれる遊びが若者たちの間で流行していること。
そしてもう一つは、特殊な力を持つ者が多く集まる町だと言うこと。
物語はこの街から始まる。
人とペルソナをめぐる、大いなる物語が。
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ペルソナ、トリニティソウル。
2008年にアニマックスやBSで放送されたこのアニメは、ゲーム「ペルソナ3」を原案とし、ゲームの世界から10年後を描いたオリジナルテレビアニメーションである。
物語はトリニティソウルの名の通り、3人の兄弟を主軸に話が進み、主人公である神郷 慎(かんざと しん)が弟である洵(じゅん)と共に兄、諒(りょう)が住む綾凪市へと帰郷することから始まる。
俺がペルソナシリーズに初めて触れたのが、異端かもしれないがこのアニメーションからであった。ペルソナの格好良さと、オカルトめいた世界観から一気に作品にハマり、過去のナンバリング作品から最新作までを網羅したわけだが……、作品に触れるきっかけとなったこのアニメは不遇であった。
とにかく物語が重いこと。そして放送されたのがアニマックスという通信放送がメインであったことだ。主人公の慎が物語序盤から終盤にかけてとにかく理不尽な目に遭うという鬱展開が多く、三人兄弟も仲が良いのか、悪いのか、それぞれの思いが一方通行で特に洵は過去の出来事から複雑な心理状態に陥っているため、物語も全体的に陰鬱になりやすいと言う負の連鎖があったのだ。
そんなわけで、ペルソナ初のアニメだと言うのに、今では公式から忘れられたように存在が薄いペルソナトリニティソウル。
大人になってから久々に見返したわけだが、大変奥が深い作品となっていて個人的には大満足のままベッドに入ったわけだが……。
「ようこそ、我がベルベットルームへ」
気がついたらユラユラと揺れる遊覧船の個室にいた。なぜここが遊覧船の個室だと分かるのかは、自分でもよくわからないが、確かにこの部屋は遊覧船の中にあると確信できる。
薄暗い部屋の明かりは壁にかかる蝋燭だけで、窓からは青白い月光が僅かに部屋へと差し込まれている。
そして、その部屋の奥には暗闇の中でもはっきりと分かる長い鼻と、ひょろりと伸びる手足が特徴的な人物が椅子に腰をかけていた。
「申し遅れましたな、客人。私の名はイゴール。この部屋……夢と現実 精神と物質の狭間の場所。”ベルベットルーム”の主を致しております」
ゲームの中で幾度と訪れたことがある部屋。だが、それが自分の夢の中……いや、夢というには遥かにリアリティがありすぎる世界。まさに夢と現実の狭間と言うべき感覚。そんな中で彼と対面するなど……夢にしてはでき過ぎている。
「貴方様は、数奇な運命に選ばれたお方。悪戯か、はたまた宿命が貴方様を呼び込むのかは定かではありません。ですが……」
一言も発することができない。まるで金縛りにあったかのように直立不動でベルベットルームの主人、イゴールを見つめていると、彼は傍にある三つ置かれた仮面を見つめ、さらに奥からもう一枚の仮面を取り出す。
「三位一体の魂。彼らは離れながらまた近しい存在であり、互いを思い合っていますが……多くのものが、それ以上の絆を見ようと夢と願いを貴方様に託されたのです。私はその水先案内でございます」
どうかこれを、とイゴールは仮面を手放すと、その仮面はゆっくりと空中を揺蕩い、そして何もできない俺の体の中へと溶けて、混ざり合った。
「貴方様は目覚めてらっしゃる。その運命と宿業を前にどういった選択をされるのか……楽しみにしております」
彼の掠れるような悪い声と共に真後ろにあった扉が勢いよく開くと、俺の体は凄まじい力で後ろへと引っ張られ、部屋から吹き飛ばされた。そのまま長い暗闇へと落下していき……気がつけば海の中にいた。
ごぼり、と口から泡が溢れる。息はできなかったが、苦しくはなかった。海水の中で彷徨い、泡のような何かが沈むように迫り上がってくる。
それは泡ではなかった。
真っ白な羽。
水の中とは思えないほど、吹けば空を飛べそうな羽が舞い上がってきて……その羽が溢れる多さで俺の体を上へ、上へと持ち上げてゆく。
水面にゆらめく陽の光。そして……赤い髪の少女が俺を水底へと引きずり込もうと手を取って掬い上げてゆき……そして、俺は……。
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「兄さん、そんな体勢で寝てると身体を痛めるわよ」
その言葉で意識が一気に現実へと呼び戻された。
目を開けた途端、フローリングが上で、部屋が下になっていた。いや、自分が逆さになってるだけか。どうやら昨日、仕事を終えてそのままソファで力尽きたらしい。制服は脇にあるダイニングチェアに引っ掛けていて、今はヨレヨレのシャツと何とか着替えたスウェット。そして防寒に毛布を被っていたが、それもずり落ちているのが見えた。
懐かしい夢を見たものだ。あれから15年も経っているというのに。
「最近、忙しいとは聞いていたけれど……少しは自分の身体を労ったらどう?若くもないんだし」
そう言ってくるのは、週一で実家に帰ってきている妹だった。
名は、二階堂 映子。
そう……ペルソナ、トリニティソウルの主要人物の一人である。
「じゃあ、私は大学に行くから。戸締まりはよろしくね」
そう言って実家を出ていく映子。両親はすでに他界していて、この家には自分と映子しか住んでいない。いや、映子は今〝同棲中〟で週一に様子を見に帰ってくるだけだから実質俺の一人暮らし状態だ。
今、英子は医学大学を卒業した後、同棲している相手と同じく准教授として大学で働いている。
俺は立ち上がって、バキバキと音を鳴らす背筋を伸ばして朝日を浴びる。外は冬景色。季節は真冬だが、部屋は空調が効いていて快適そのもの。
そのまま顔を洗い、俺はかけていた制服に袖を通した。
俺の名は、二階堂 蓮(れん)。
15年前に、この世界に転生したイレギュラーだ。
最近見直したから気ままに進めます。