プロローグ
──“
「ガープ中将!海賊から押収した宝の中身についてお話ししたいことがあると、ボガート少将が……」
「ん、わかった!こいつらの尋問が終わったら行くと伝えとけィ!!」
「はっ!では、失礼します!」
部下を下がらせ、ガープと呼ばれた白髪の目立つ大柄の男がつい先ほど捕らえた海賊たちに向き直る。
最後の島へ辿り着き“海賊王”と呼ばれた男、ゴール・D・ロジャーの処刑から、はや六年。彼が最期に放った一言に世界は揺り動かされ、最悪の海賊団と称されたロックスやロジャー海賊団が暴れ回っていた時代の喧騒が懐かしく思えるほどに、世界は混沌の渦中に叩き落とされた。
四つの海域のいずれかからリヴァース・マウンテンを超え“
しかし、ガープは長年ロジャーと戦ってきたからこそわかる。あの男は世間が言うような「海軍への最後の意趣返し」なんて理由で世間を巻き込むようなことをしたりはしない。何か、後続を作りその財宝とやらを探させる理由があったのだ。
……だが、結果として世界は恐怖の渦に飲まれる事となった。夢を追い求める海賊と、それに乗じて動き出した犯罪者たち。世界中で略奪が発生し、戦火が起こり、今こうしている間にもどこかで無辜の民が血を流し、涙を飲んでいる。
果たしてあのお祭好きが、どうして世界がこうなる事をわかっていて、なぜあんな事をしたのか。今となっては誰にもわからない。
「くそッ、くそッ!!ぶち殺すぞ時代遅れのクソジジイが!!テメェもロジャーやロックスと共にくたばりゃよかったんだ!!」
「あと一歩で巨万の富を手にできたってのに……だから俺ァ言ったんだ!最初っからあの街の住人を皆殺しにした方が良いってな!!テメェが欲をかいたせいで俺たちゃただの“大量殺人犯”だ!!」
「最悪だァ〜!?こんなバカな奴の言うことを信じるんじゃなかったァ〜!!」
「テメェらふざけんじゃねェぞ!!!お前らが使えねェクズばっかりだから、頭の回る俺が船長をやってやったんだろうが!!」
「……せめて、奴や“白ひげ”のような一本筋の通った海賊ばかりだったら幾分かマシじゃったが──現実は性根の腐った小物ばかり……!!あの時代の海賊こそがこいつらへの抑止力だったとはな……」
牢に叩き込まれながらも口々に反省の色が全く伺えない言葉を吐く海賊に、ガープは眉間を押さえ、深いため息をこぼす。
別に前時代の海賊の肩を持つわけではないが、こんなのがのさばるならまだ昔の方がマシだとふと思ってしまった。海軍は正義を翳しているが、それはあくまでも政府加盟国にだけ向けられる正義であり、たとえ世界政府に加盟していたとしても全ての脅威から民衆を守れるわけではない。それに、頭越しに権力をふるう天竜人の件もある。ガープが若い頃に抱いていた正義も今や薄れ、胸に抱いた平和の絶対値はいつしか「血さえ流れなければいい」と下がりきっていた。
それでも職務は職務。今は粛々と目の前の悪を打ち果たすのみ。
ガープは鼻をほじりながら、海賊たちが街を襲った理由を確かめる。
「それで?その巨万の富とはなんじゃい。言っちゃあなんじゃが、ここは“北の海”最北端の街……栄えているとは言っても“東の海”よりはというくらいじゃろう。そんな金になるような物があるとも思えんが……」
「……なに?オイオイ、ちょっと待て!じゃあなにか!?テメェらはアレを回収しにきたわけでもなく、ただ通報を受けて、偶然近くにいたから来ただけってか!?」
「? 当たり前じゃい。ワシらを神様か何かとでも思っとるのか?気づかにゃ来れんに決まっとる」
「ふ、フザっけんなァ!!!」
「!?」
あまりの海賊たちの剣幕に、思わず疑問が浮かぶ。
襲われた街の名前はコーパ・レイと言い、漁業と交易、そして北極行きの探検家や調査隊の宿泊施設が主な収入源だ。巨人族が作った村だとか、ヴァイキングと呼ばれる海戦民族が作ったと言われている。確かにこの辺りの島の中では栄えている方だが、それでも一国と比べれば吹けば飛ぶような収益だろう。そもそもコーパ・レイは大海賊時代の煽りをモロに受け、近年では客足も減り、街は廃れる一方だった。
最北端の寂れつつある街という海軍もなかなか立ち寄れない立地を利用し、ここを隠れ蓑にしようと思う海賊はいるだろうが──巨万の富を狙って襲ったというのがわからない。
しかし反応や荒み方を見る限り嘘をついているようには思えない。何より、この反応は
「……ガープ中将、これは一体……」
「………。船長を出せ、あとはワシとボガートでやる。お前らは生存者の確認、救助を急げ」
「は、はっ!了解しました!」
長年の経験で培われた嗅覚が、ともすれば厄ネタになりうる何かの匂いを嗅ぎ取った。先のボガートからの話というのも、おそらくこの海賊たちの言う「巨万の富」に関連する何かだと確信してしまっている。
「こういう時の勘はよく当たる……!一体何を奪った!答える気がないなら体に聞くぞ!!」
「今更隠してどうすんだチクショウ!!」
鎖でぐるぐる巻きにした海賊を引きずりながら押収品の保管室へと急ぐ。痛いだなんだと喚くが、そんなことは知ったことではない。保管室の前まで着くとドアを蹴破る勢いで入り、海賊を壁に投げつける。
ボガートから「もっと威力を抑えて投げてくれ」と非難がましい視線を向けられるが、気にせずに続きを話せと椅子に座って海賊に目を向ける。
「あ、悪魔の実だよ、クゾッ!!ハァ……!! 俺たちはワンピースなんざどうでも良いんだ……!! 目の前にある利益で満足できる
「……なんじゃ、死にたいなら今すぐ沈めてやるぞ、若造」
「中将」
安い挑発だが、今はそれに耐えてやる気もしなかった。
──ディンダル海賊団。それがこの男の率いる海賊団の名前だ。構成員の多さとフットワークの軽さ、そして目的のためなら年単位で計画を練る狡猾さと、とある村の住民を「嘘の情報を教えたから」という理由で皆殺しにした事件から危険視され、船長の首には9200万もの額がついている。今回襲撃されたコーパ・レイも、おそらく生存者はいないだろう。
別にひとりくらい消えても誰も困らないと拳を握り立ちあがろうとしたところで、ボガートから静止の声が入る。
「だがよ……クソったれな事態になっちまったのさ!遠路はるばる“
「……その実というのはなんじゃ。おおかた
「
「……!!もういい!オイ!!こいつを牢に戻しておけ!!猿轡もさせろ!!」
頭を抱え、思わず外に待機していた兵を呼ぶ。もしも勘が当たっているとすれば、その悪魔の実はとんでもない代物だ。
一口かじるだけで超常をその身に宿すことができる海の秘宝、悪魔の実。その身を自然現象へと変化させる
曰く、永遠の富。
曰く、伝説の宝。
曰く、
その実を食した者には富と繁栄、そしてその能力が故に破滅がもたらされるとされている。多くの古代遺跡や古い宗教に度々その名を記された、分類不明のその悪魔の実の名前は──
「……ガープ中将、その実を食べたという人物に関してお話が……」
「あァ!? この船にいやがんのか!? だったら俺の前に連れてこい!! ぶち殺してやる!!
「……ジェムジェムの実を食べたのはシーガルズル・
「……なんということじゃ……」
海賊と入れ替わりで部屋に連れられたその子は、海兵の腕に抱かれ寝息を立てる、年端もいかない赤子だった。