輝石の少女   作:まんま見いや

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投稿し始めて大体一年も経過してまだ日常パートをだらだらやってるらしいSSがあるらしいですよ


4話「捨てる国あれば捨てぬ者あり」

 この世界で私という個人が安穏に暮らしていくことがどれだけ厳しいかを心の底から理解したのは、幼い頃にガープおじさんに連れられて、この国の汚点を見に行ったときだと記憶している。

 私が住んでいるフーシャ村は、半ば忘れ去られているとは言え、“東の海”(イーストブルー)で最も美しい国と言われているゴア王国に属している。なるほど確かに街は綺麗だし、下町の方だってゴミの一つも落ちていない。海から見える範囲での島の風景も「自然豊かでのどかな島」以外の感想は浮かんでこないだろう。

 しかし、そんな世界規模で称賛されているこの国の美しさを保つために行われているのは、同じ人間が考えたとは思えないほどの徹底した隔離政策だ。

 

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 幼児がおもちゃをカーペットの下に突っ込んで片付けたと認識するのと同じ、非常にシンプルなそのやり方を国規模で行った結果が、人間の悪性の集大成とでも言うべきあの光景だ。

 ゴア王国とそれ以外を区切る高い壁の向こう側。そこに物も、人も、国が汚らしいゴミと断じたものが全て廃棄され、この国から存在そのものをなかったことにされる。

 日光による自然発火で煙は絶えず、数キロ離れたところからでも悪臭が漂ってくるあの場所は、いつしかその在り方から“不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)”と呼ばれるようになっていた。

 

 信じられなかった。

 海賊や山賊、悪政、隣にいるかもしれない犯罪者。世の中には不条理が満ち溢れていて、いつだって誰かが泣きを見る。だがそんな闇も意識しないと見えないほどに、世界は光で満ちている。人生は不幸だけで彩られているわけでもなければ、悪意のみで舗装されているわけでもないのだ。

 だが、それは誤りだったと。恥ずかしくなるほどの認識違いだったと、そう考えを改めざるをえないほどに、その光景はおぞましいものだった。

 この世界の闇は幸せの光から発生した影などではなく、どのような汚れよりも澱んだ膿から生まれ出でた、()()()()()()()()だった。

 一体誰が信じられようか。目の前のゴミ山が生まれた経緯が敵意や悪意によるものではなく、“そういうものだから”という上流階級の人間と、下層に隠れ潜むしかない人間によって生まれた当たり前の常識などと。

 そしてその常識は、海軍の英雄でさえ簡単には覆せないものなのだと。

 

「ガープおじさんは、セイギのミカタなんでしょ……?」

 

 幼いながらに目の当たりにした社会の現実。人が住むには劣悪すぎる環境で、ボロボロになりながらゴミを漁る当時の私と同じくらいの子どもを見て、私は縋るように「助けてあげて」とお願いした。

 おじさんは正義の味方ですごい人だから、私の時みたいに助けてあげられるでしょ、と。言外にそう投げかけたのだ。

 だが、そんな淡い期待は、あっさりと裏切られた。

 

「……よく見ておけ、クリス。そして知れ。この光景から学ぶんじゃ。お前の生きる道は、ともすれば革命や正義の道よりも厳しく、当てのないものじゃろう。()()()()()()()()()()()()()()──そのことをしっかりと胸に刻め」

「わからないよ。ガープおじさん。助けてあげてよ」

「いいや、それはできん。アレに触れるということは、つまり国の闇を暴くことに他ならん。それをした時、果たしてどうのような嵐が発生するか……この問題は既にワシ一人で責任を取れる段階にはない」

「でも、おじさんは英雄なんでしょ?」

 

 普段のおちゃらけた人のいい笑みもなく、ただ淡々と、何の熱もなく目の前の光景を静観するその姿は──当時は全く理解できず「これが大人か」と心底呆れたが──今にして思えば、アレこそが清濁併せ飲んだ歴戦の英雄の姿だったのだろう。

 幼い私は言ってることが全く理解できず、それでもまだ、目の前の現実を壊してくれと縋り続けた。

 今ならわかる。きっとあれは、拒絶反応だ。宝物を見つけたかのように満面の笑みで汚れたパンを貪る少女の姿が、“自分もああなっていたかも知れない”というあり得たかも知れない可能性のように思えて、その可能性から目を背けたかったのだろう。

 そんな心情も見抜いた上で、おじさんは続けた。幼かった私から拒絶されるのも覚悟で、しっかりと抱き上げ、網膜に生涯忘れることはない景色を焼きつかせながら。まるで幼い子どもに父親が思う“人生の教訓”を伝えるように、熱を帯びた言葉を紡ぎ続けた。

 まったく、ひどいスパルタ教育もあったものだ。さすがは、いずれ幼い孫をジャングルに叩き落とすと宣言するだけはある。

 

「さて、クリス!今日の勉強のまとめじゃ。お前は能力の関係もあって、あそこに住む人々よりも生きることが難しいじゃろう。こんな時代じゃからな。何が起こるかなど、未来でも見えん限りは分かりはせん」

「うん」

「では、()()()()?」

 

 ガープおじさんはまっすぐな人だ。自分が決めたことは私が知る限りじゃ曲げないし、やりたいことはそう思った瞬間に既に実行している。その行動力は他人に対してもそうで、おじさんが必要だと感じれば、やる気如何に関わらずやらせようとする。だから、今回のように選択肢を与えてくれることは極めて珍しい。

 何か意図があることはすぐにわかった。

 そしてその意図がどういうものかも、すぐにわかった。

 

「──つよくなる」

「……ほう」

 

 ガープおじさんは、私に選択肢を与えてくれたのだ。

 一つは、逃げる道。この地獄のような世界で、女であり、希少な能力を有している私は、富と繁栄をもたらす生きた宝だ。このフーシャ村に引きこもって生きたとしても、英雄ガープも人間だ。寄る年波には勝てない。彼が警備していると明言している島々も、いずれは海賊たちが襲い始めるだろう。

 そこで二つ目の道だ。戦い、立ち向かうという選択肢。不条理な悪意から、理不尽な不幸から、降りかかる火の粉を自分の手で払う道だ。もちろん、個人でできることなんてたかが知れている。仮にガープおじさんほど強くなれたとしても、それでも世界のしがらみは常に付き纏ってくるだろう。

 だが、それでも。

 

「自分のことは自分で守れるくらい、自分で自分のせきにんをとれるくらい、つよくなる。私のせいで、だれかを不幸にしたくない」

 

 もし、私のせいで小さなルフィに何かあったら?

 もし、私のせいでこの村が海賊たちに襲われたら?

 そんなのはまっぴらごめんだ。生まれてきたからってだけの理由で重荷を背負うなんて、納得できるわけがない。

 

「……よぉく言ったァ!!そうと決まれば、ワシがお前を鍛え上げてやる!!目指すは“英雄”クリス!!ルフィ、エースと共に次代の海軍を導くんじゃあ!!」

「エース……?よくわかんないけど、そこまではいい」

「ぶわっはっは!!そう謙遜するな、お前には素質がある!!極まれば大将……はよくないか。うむ、超強い中将になれる!!そうと決まれば特訓メニューを考えねばいかんのう!!」

「ジャングルはやだ」

「ぶわっはっはっは!!」

 

 

▶︎

 

 

「……それが、わざわざこんな辺鄙な場所まで来る理由かい?」

「はい、そうです。修行の一環です。まだ体が出来上がっていないので“軍艦バッグ”には早いですし、まずは体力作りと能力の精度向上に励もうかなと思いまして」

 

 コルボ山に潜む山賊、ダダン一家。その頭目であるカーリー・ダダンは、少し……いや、だいぶ引いた顔で、よく手土産を持ってアジトに足をのばす少女、クリスの話に耳を傾けていた。

 

 正直、ダダンはクリスが苦手だった。

 嫌いではなく、苦手だ。ガキのくせに嫌に頭が回るし、やけに大人びているかと思えば、変なところで意固地でガキっぽい。それだけならまだしも、このクリスは金になる。捕まえて飼い殺しにすれば巨万の富どころか、価格の大暴落を引き起こせるほどの宝石を得られるというのに──そんなお宝の保護者は、あのガープときたものだ。触れただけで大爆発する生き物を足元で走らせているようなものである。

 当然、最初は戦々恐々としていた。もし預けられたら、エースのように放任主義で行こうとすら思わなかった。触っただけでも逮捕を超えて処刑を執行されるのが目に見えていたからだ。

 しかしエースと違ってクリスはフーシャ村に預けるとガープの口から聞いた時には、ホッとすると同時に、こいつにも少しは子どもを思いやる気持ちがあるのだと感心したものだ。流石に女の子を思いやる程度の気持ちはあるのかと、ダダン一家の食卓はガープが帰った後、大いに盛り上がった。

もう関わることはない、子守りは1人で十分だ。安心していつも通りの生活を送る──はずだった。

 

「私から言わせりゃ、あんたも十分に怪物じみてるさ。悪魔の実のことを言ってんじゃねェ。フーシャ村側からここまで来る道だって、ろくに舗装もされてなけりゃ、こっち側ほどじゃないにせよ凶暴な生き物だってわんさかいやがる!それを6歳のガキが1人で平然と来れてんだ。お前もエースと同じ怪物だよ」

「やだなあ。褒めるなら、もっと容姿とかを褒めてください」

「褒めたわけじゃねェよ!!ポジティブか!!大体“軍艦バッグ”ってなんだい!?人のすることじゃねェんだよ、そんなのは!!」

 

 初めて会ったあの日──エースの時と同様にまた世話を任されるのかと思ったが、そういうわけではなく、ただ2歳になった義理の娘を自慢しにきたと言われて膝から崩れそうになったあの日から、もう6年は経つ。

 その6年間毎日欠かさずに……というわけではないが、どうしてかクリスは、フーシャ村の住人にしてみれば随分な高頻度でコルボ山に足を運ぶようになっていた。

 ガープが「天使のお裾分けじゃ」なんて自慢をしにくるたび、「年齢を重ねればいずれは会うこともなくなるだろう」と寂しい思いすら抱いていたのだが──7歳になったクリスにどうしてここに来るのかと聞いてみれば、なぜかガープの『最強海軍育成計画』に賛同し、修行がてらコルボ山を登頂+エースと一緒に狩りをすることで体力の増強を図っていると言われ、盛大に顔を顰めることになった。

 

「ハァ……ハァ……もう、ここに来んのはやめな。いいかい?コルボ山は確かにあたしらのシマだ。ここらでバカな真似をする奴はそうそういやしねェ。だがな!それでもあたしら以外にも山賊はいるんだ。何かあったらあたしらが真っ先に疑われる!!わかるか!?お前が顔を出すだけで、こっちはいい迷惑だってんだよ!!」

「マキノさんのところからお酒とかタバコ持ってきてあげてますけど、私がいなくなったら調達がまた面倒になりますね」

「それは大ッ変お世話になっておりますっ!!」

「「「お世話になってまーす!!」」」

 

 部下ともども、反射的に頭を下げる。

 苦手だ、もうとても苦手だ。6歳の時は宝石で歪な鳥を作って飛ばすか、槍っぽい棒を作る程度の力しかなかったくせに、7歳になって半年ほどで急に造形物のクオリティが跳ね上がった。

 いつの間にか出せる宝石の種類も増えており、最近じゃ黒曜石で作った荷車に荷物を乗せて、同じく黒曜石製のワニ──体構造レベルでよく見てるから作りやすいらしい──にそれを引かせながら定期的にフーシャ村から物資を届けてくれる。

 本人曰く「ワニ狩りのついで」らしいが、それでも正直助かっていることには違いない。何より、クリスがいるとガープが無茶振りをふっかけてこないので、色んな意味で頭が上がらなくなってきている。なので今いなくなられると困るのが現実だ。

 

 ため息を一つ吐くと、ダダンは干していた布団を取り込みながら、ありし日の光景に思いを馳せる。

 

「昔はかわいかったのにねェ……どうしてこんな風に育っちまったんだか」

「まーまーお頭、今も可愛いじゃないですか」

「そうっすよ。来ティくれた日にゃ、ここのお(ティ)伝いもしてくれるじゃニーっすか」

「バカ言え!!思い出してみなよ、抱っこをせがんできたり、あたしの膝の上ですやすや寝てたあの頃を!!」

 

 枕カバーをつけながら思い返すのはクリスが3歳の頃の思い出だ。いうことを聞かず誰に似たのかもわからない行動力でダダン一家の肝を冷やし続けたエースと違い、時折ガープと共にやってくるクリスは赤ん坊の頃から実におとなしかった。ダメだと言ったことはしなかったし、1人で歩く練習中に転けても、こっちが応援してやればグッと涙を堪えて歩くのを再開した。

 そんな子が3歳になり、誰の補助も受けずにでんぐり返しができたあの日の感動は今でも忘れられない。ガープへの恐怖心も忘れ、肩を組んで喜んだものだ。

 ダダン以外の面々も「俺のときは背中によじ登ってきたりしたなあ」「俺が怪我したときはずっと頭撫でてくれたっけ……」と思い出に浸り、ダダンの横でせっせと野牛の肉を仕分けているクリスを見ながら笑みを浮かべる。

 

「あ、そうそう、ダダンさん。今日はワニ罠にめちゃくちゃデカいワニがかかってたんですよ。エースと2人で袋にしてやりました」

「………」

 

 それが今となっては……学のない自分たちだが、それでも7歳児よりは経験も学もある。そんな自負を粉々に打ち砕くほどの聡明さに加えて、エースの怪物的な狩りにも易々とついていける、とんでもない成長を遂げてしまった。

 もはやでんぐり返りとかそういう次元ではないのである。

 このままいけば女ガープの誕生もあり得ない話ではない。あの意思を持つ嵐のような男を思い出し、今度は一家全員で背筋をブルリと震わせた。

 

「まったく……!おとなしい子だと油断した!!あのガープが拾ってきたガキって時点で、こうなることなんて予測できたってのに」

「でも、私は大人しくて可愛いらしいですよ」

「なにィ〜……!?ワニ狩りについていけるような奴に、誰がそんな……」

 

 眉間に皺を寄せながら「そりゃあかわいいかも知れないが、おとなしいはないだろう!」と言いかけたが、しかしすぐに察した。

 ガープはそういうことは言わない。フーシャ村の連中は甘いが、塩を砂糖と言うほどバカでもない。となると、候補は自ずと絞られてくる。すでに捨てたと思っていた女の勘というやつが敏感に面白そうな話のたねを察知し、これまでの山賊人生でも類を見ないほどに澄んだ思考が、瞬く間にゴールに辿り着いた。

 

「──もしかして、エースか?クックック!あのクソガキ、もう一丁前に色気付いてやがんのかい」

「ええ〜!!エースがそんなことを!?」

「あいつ、惚れ込んだらいいとこしか見えなくなるタイプだったのか」

「意外だ……」

「あの暴言の語彙だけ豊富な唾吐きマシーンが言葉で言うわけないじゃないですか。態度とかでそう言ってるって話です」

「「「ああ〜……」」」

 

 女の勘は、当たってはいたらしい。が、嬉しがっているわけでも喜んでいるわけでもなく、極めて平坦にエースの淡い想いを汲み取ってはぶちまけるクリスに、今度は一家全員でなんとも言えない声を漏らした。

 ただの怪物ならともかく、魔性の女という属性まで加わってくるともはや敵なしだろう。エースとクリスの周りを取り巻く環境的なことも含めれば、あの気難しいエースを骨抜きにできているのは必然なのかもしれないが、もしかするとクリスは結構な人たらしの才能があるのかもしれない。

 うまくクリスを誘導できればガープが来た時の最終兵器になるのでは……?と考え始めたところで、クリスがナイフを置いた。

 どうやら仕分けが終わったらしい。額の汗を拭いながら、解体され、各部位ごとに切り分けられた牛肉を指さして説明を始めた。

 

「これ、今日獲ってきた分です。こっちが皆さんの取り分で、こっちが私の取り分。エースはワニがあるからいらねェとのことなので、エースのことは考えずに食べていいです」

「そうかい、ありがとよ。……ああ、そうだ。今日はもう泊まっていきな。パンジャーニの奴が肉削ぎ(ハチ)分蜂(ぶんぽう)を見たらしい。あいつら引っ越しの最中でも襲ってきやがるからね。鉢合わせしたら、お前なんかすぐに骨になっちまうよ」

「食べるとこ少ないので大丈夫だと思いますけど……そうします」

「そうしときな。なにかあったら怖いからね。──マグラ!!カーテンつけな、今日はクリスが泊まっていくよ!!ドグラ!!お前ェは野菜も持ってきな、倉庫にまだ少しは残ってただろう!!残りの奴らは風呂の準備とトイレ掃除、とにかく掃除だ!!チリひとつ残すんじゃないよ!!!」

「「「おォ!!」」」

 

 腕を組み、「なんで私が泊まるときはこんなに気合が入ってるんだ?」と首を傾げるクリスの頭を乱暴に撫で、ダダンも飯の準備に取り掛かる。

 

 ダダンは、クリスが苦手だ。それは紛れもない事実だ。でも、苦手なだけで、嫌いじゃない。むしろ人間性的には好きな部類だといえる。

 ガープから聞いたクリスの生い立ち──故郷を滅ぼされ、両親は死に、この世で最も欲され最も忌避される能力を身に宿した悲劇の少女。呪いにも似たその力も、両親が生き延びられるようにと渡したのだとすれば、なおのこと救われない話だ。だというのに、クリスは「自分はなんて不幸なんだ」と腐ることなく、自分にできることを一つずつこなしながら成長していっている。その姿に好感を持たない人間はそういないだろう。

 なにより、クリスはダダンを慕ってくれている。マキノが母ならダダンは祖母だといつか言っていた。そんな歳じゃねェよ!!とツッコミながら全力で抱擁したくらいには嬉しい言葉だったし、その日からなんとなく頭を撫でるようになった。

 

「クリス!エースの奴を呼んできな。今日は特別だ、あいつにも食わせてやるよ」

「はーい……ふふっ」

 

 野牛の肉を適当にぶつ切りにして鍋に放り込みながら、手持ち無沙汰になって黒曜石のワニ──オブシーくんを磨き始めたクリスに指示を飛ばす。

 その背中に、なにかを思い出したかのように笑いながらクリスは声をかけた。

 

「ねえ、ダダンさん。別に私が泊まるから、なんて口実がなくてもエースの布団干してあげてるんだしさ、もう素直に可愛がってあげたら?」

「ああ、そう──なっ、なにィ!?なんであれがエースのだって……じゃねェ!ちょ、おい!待ちなクソガキ!!ありゃ臭いから干してやってただけ──」

「じゃ、エース呼んでくるねー」

「聞けコラクソガキィ!!」

「まーまーお頭っ!肉!肉が焦げちまいますよ!!」

 

 するすると床を磨く部下の隙間を通り抜けていなくなったクリスの笑い声に、やはりあの子は苦手だと苦々しい表情を浮かべる。

 鬼の子だなんだと言いながらも10年も一緒に生活をしていれば、預かっているだけでも関係者として処刑されかねない生意気なクソガキとて情の一つだって湧いてくる。世界を変えた男の十字架をこの先も背負い続ける人生と知っているなら尚更だ。

 耳が焼けているのではないかと思うほどの熱に苛立ちを覚えながら、次からは絶対に目敏いガキ(クリス)のいない日に布団を干そうと、ガープの前では大人しくする誓いと同じくらい、固く誓うのであった。

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