追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
1話:所属選手の契約終了に関するご報告
いつも
本日をもちまして、以下の所属選手との契約を終了した事をご報告いたします。
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「ケイ郎」選手
Argonauts Gaming Teamは2009年6月に始動した日本国内屈指の歴史あるチームです。
「ケイ郎」選手はチーム創設メンバーの1人で、これまで国内のみならず、ドイツやアメリカ大会といった海外大会への出場、そして歴史的FPSタイトル「Exterminate」におきましては、日本のFPSというジャンルにおけるプロゲーマーとして、歴史上初となる世界王者に輝くなど、古くから日本の競技シーンを牽引し、活躍してくれました。
これからの活躍をお祈りすると共に、これまでの活動に対し厚く感謝申し上げます。
ーーー
その日はなんてことない普通の日だった。
太陽がよく照りつける、快晴の日。
最も、普段からあまり外に出ない俺にとってはあまり関係のないことだが。
チームから突然の契約解消を言い渡された。
悪い言い方をすれば、追放されたのだ。
俺はFPSのプロチームに所属していたプロゲーマーだった。
FPSというゲームジャンルにおいて、プロゲーマーとして最も理想的な年齢は10代と言われている。
FPSにおいて大切な、反射能力は20代を過ぎれば衰えていくからだ。
俺は、今年30歳を迎えた、所謂アラサーだった。
年齢による衰えが原因だったのなら理解できる、だって、ゲームが強いことだけが取り柄だった男から強さをとりあげれば存在価値などないのだから。
だが、半分コーチをしながら現役で活動を細々続け、最大限の努力はしていたはずだ。少なくともマイナスになっていたとは思えない。結果は華々しくはないものの、出していたばず。
それにチームの中でも最年長として模範となるべく、問題となるような行動もしていなかったはずだ。
以上のことから、少なくとも俺からしてみれば、今回の契約解消は不当に追い出されたと感じざるを得なかった。
……悔しい。
居場所、信頼、それから夢。
……長年積み上げてきたものが、こうも簡単に崩されるなんて。
俺が信頼していたチームのオーナー、
「方針が変わった、時代は変わったんだ。これからうち所属のプロゲーマーたちはネットを中心にタレント・アイドル路線で売り出していく。残念だけど、そこにケイ郎クンは必要ないんだ、分かるよね?」
プロゲーマーの主な収入は大会の優勝賞金のみだ。選手としての強さが稼ぎに直結し、安定しない。イベント参加のギャラなどもあるが、それもチーム設立当初は微々たるものだった。
だから俺の所属するプロゲーミングチーム「Argonauts」は単なるプロチーム運営だけでなく、グッズ販売やPCゲーミング用品販売のネットショップ営業を兼業しており、その利益の一部を選手に給与として渡している。
俺を含めた何人かの創設メンバーで作った仕組みだが、その仕組みに何らかの不都合が生じ、路線変更に至ったのだろうか。
だが、今はネットショップだけに収入を頼り切っているわけでは無い。スポンサー企業もつき運営は磐石なはずだ、路線変更と運営の継続には何の因果関係もないように見える。
思い当たる理由としては、金儲けに走った、ということだろうか。
資金繰りにはチーム創設当初苦労した経験があるし、お金は沢山稼いだ方がいいという考えも理解できなくはない。それにそういう路線で行くならば、俺のようなアラサーおじさんはいない方がいいだろう、だけど、プロゲーマーってそういうものだっただろうか。
契約終了の通告を受けた時、俺は戸惑い、正常な判断ができないままそれを承諾してしまった。今となってはそのことを抗議したい気持ちもあるのだが、書類にサインをしたのは半年前、今更後の祭りである。
そういえば、今はもう脱退してしまった俺のチームメイトの1人、ヘラヘラクレスが言っていた気がする。
「今は大人しいが、あのオーナーはどうもきな臭い、ちゃんと目を光らせておけよ」
ああ、思い出したときには時すでに遅しだったってわけだ。
俺は愚かだった、他のチームが不祥事を起こし、ニュースになったいつかの日。うちのチームでももしもの事があった時のために、経営側の立場を強化しておきたいとか適当に理由をつけ、正当な理由があればチーム側から契約を「一方的に解除できる」という文言を後から契約書につけ加えたのは井赤で、俺はその時反対しなかった。
信頼していたからだ、最初期から俺を支え続けてくれた彼が裏切るはずがないと。
俺は追放されたが、人生はまだまだ続いていく、俯いている暇なんてないだろう。
俺は前を向いて生きていかなければならない。生活するためにお金を稼がなければならないし、働かなければならない。できればプロゲーマーとして復帰もしたい。
そんな俺に対して、世間は厳しかった。
まず、プロとしての復帰の道が絶たれた。複数のプロチームに交渉してみたが、全て断られた。年齢とかゲームの腕とか、そういう理由もあるが、もっと別の理由が大きかった。
と言うのも、俺が競技シーンで戦っていた「Exterminate」……通称エクスタというゲームは10年以上前に発売されたタイトルで、当時は爆発的な人気を誇っていたが、今や完全に過去のゲームとなり人口は年々縮小している、所謂オワコン。
海外では未だ根強い人気で大会も盛んに行われているが、日本での人気は今や地の底、それに日本はe-sportsに関していまだ発展途上なこともあり、国内で結成されているほとんどのプロチームがここ3~5年のうちにできた新しいものばかりだ。
衰退期に入ったゲームのプロチームを今更作ろうなんて考える酔狂な輩はいなかったらしい。いや、いたかもしれないが全員消えた。
結果、エクスタのチームは日本において3つしかなく、そしてそのどれもが様々な理由から存続の危機に直面していた。俺のいた「Argonauts」も、俺がいなくなった後即座にエクスタ部門を取り潰した。
俺と一緒にエクスタをプレイしていたチームメイトであり教え子でもある選手は別の部門に飛ばされたようだ、みんな10代で色々なゲームを触ってたみたいだし、複数のタイトルで結果を出していたから、特に心配はないだろう。
エクスタのプロとして、国内での復帰の線は完全に無くなったと言っていい。海外のチームに所属するという案もあったが、英語でのやりとりが不可能な俺は早々に選択肢から外してしまった。
別のゲームに転向し、1からプロゲーマーを目指すという道もある。だが、果たして今からやって他の人に追いつくことができるのだろうか。
俺が最近まで現役を続けられていたのは、年齢の衰えを経験でカバーしていたからだ。別のゲームを始めても絶対に経験では追いつけない。ということは自らのセンスに頼るしかない。
果たしてアラサーの俺が今が全盛期の若者達に太刀打ちできるのか、と考えた時、答えは口に出すまでもなかった。
プロとして復帰が無理ならば、生きていくために職を見つけるしかない。
だが俺の人生経験はゲームしかなく、職歴など一切ない。こんな人間を雇う企業がどこにあるのだろうか。
俺はとりあえず、と軽く考えて応募した企業に筆記試験で落ち、それなりにちゃんと用意して望んだ企業に面接で落とされ、本気で人生をかけて挑んだ企業に書類で落とされた。
俺は精神的にまいってしまった。就職活動などクソゲーだ。取り返しのつかない要素が多すぎるし、強くてニューゲームもできないのだから。
幸い貯金はプロゲーマー全盛期時代に稼いだものがまだある、1年くらいなら持ち堪えられるだろう、クソゲーにものんびりと立ち向かえば、いずれ活路を見出すことができるだろう。
そう考えた俺はメンタルの回復を優先し、就職活動から目を背けた。
そして、半年がすぎた。
半年間、何も変わらなかった。俺のメンタルは一向に回復しないし、就職先も一向に決まらない。
改善する兆しは見えなかった。何本か新しいゲームを無駄にやり込んだりしていたが、それでも何も感じなかった。むしろ今まで好きだったゲームに憎しみさえ湧き始めた。
そのことを自覚した時、俺の中で何かが切れた。
自分は憎んでも、好きな物は憎んじゃだめだろ。
限界だった。
なるほど、これが人生詰んだってやつか、死のう。自然とそう思った。
そんな時だ、俺はVtuberとかストリーマーとか言われている、ゲーム配信で収入を得ている人達のことを思い出した。
何がきっかけだったかはわからない、ネットのニュースでスパチャがどうとか、テレビで子供のなりたい職業があーだこーだとか言っている時だったと思う。
俺は思った。これなら俺にもできるじゃんと。
そこからの行動は早かった。配信サイトのアカウントを作り、チャンネルを開設し機材を揃え、配信用ソフトの設定を勉強し、俺はストリーマーとしての第1歩を踏み出した。
そして現在、俺がストリーマーとしてエクスタのゲーム配信を開始してから1ヶ月が経とうとしていた。
ーーー
「それじゃあ、今日もぼんやりやってく 」
コメント:よう
コメント:頑張って
コメント:おじさん夜ごはん何食べた?
……配信を開始してから10分経過、同時視聴者数は1人、来たコメントが上の3つだ、しかも全部同じユーザーから。
ああ、皆までいうな、今更口に出すまでもなく過疎配信ってやつだ。俺は読み違えていた。配信をしてプレイが上手ければ、みんなが集まってきてあっという間に人気者になれると。
現実は違った。まず認知されていないし俺より上手い奴もたくさんいるので、認知されたとしても見向きもされない。ありていに言えば、ストリーマーという市場は熟し切っていたのだ。これでは収益を上げるという目的には何年経っても届かないだろう。
でもいいのだ、俺はこの1ヶ月で配信というものの楽しさに気がつき始めた。配信が収入に繋がる前にもし就職先が見つかったとしても、今後も続けていきたいと思っている。それくらいの気分転換にはなっていた。
「夜は食べたぞ、コンビニ飯だけどな」
コメント:いつもそれじゃん、早死にすんぞ
「ビールを野菜ジュースで割って飲んでるからそこは許して欲しい」
コメント:それあう?
「レッドアイっていう歴としたカクテルだぞ」
コメント:へー、知らなかった
こうして、たった1人と雑談ができるのは、過疎配信だけだ。
もちろんコメントしてくれる人の顔も名前も知らないが、何だか不思議な温かみの感じるこういう何気ない雑談が俺は好きだった。会話を途切れない程度に弾ませながら、俺は敵を容赦無くキルしていく。
コメント:おじさんいいぞ
「まあ、おじさんこれでも元プロだしな」
称賛の言葉を受け、少し調子に乗った瞬間、それを咎められ相手にキルされた。
コメント:今の顔出しは甘えすぎ
「まじかよ、くそ」
プロだったときは、絶対にやらなかったミスだ。だけど……今の俺はこれでいいんだ。
コメント:ゲーム楽しんでるねおじさん
「そう見えるか? ならよかった、ゲームは楽しんでやらなくちゃな」
その後も他愛のない雑談と、緩いプレイを垂れ流し、配信を切る時間となった。
「じゃあ、今日はこんなところで終わるか」
コメント:お疲れ
「おう、じゃあ切るぞ、おやすみ」
そう言って配信停止ボタンを押した。その時、押したと同じタイミングで一つのコメントが流れた。
コメント:おじさんゲームうまいしトーク楽しいし、伸びて欲しいな、流行りのゲームとかやってみたら?
……なるほど、考えたこともなかったな。
今まではうまいプレイを見せるためという理由でエクスタをずっとしてきたが、今となってはもう、このゲームにこだわる必要もないだろう。
彼?か彼女?かわからないが、次の配信ではリクエストに応えるとするか。俺は明日にぬるい希望を持ちながら、床についたのだった。