追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話   作:山かけうどん

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11話:二人

「お、おつかれさまですぅ……」

「おつ……ふぁぁ」

「大丈夫か2人とも、かなり疲れてる様子だが」

 

 そして、配信開始から丸1日が経った。

 現在は一旦配信を止め、休憩中だ。

 というのも、2人の様子がかなりぎこちなくなってきたからである。

 

「お前ら、一旦寝た方がいいんじゃ無いか」

「いえ、私はまだいけます……」

「……ごめん、わたし、もうみゅり……」

 

 ガタン、という音が聞こえた後、星猫妹の反応が途絶える。

 

「ちょ、らいちゃん?らいちゃ〜ん!?」

 

 星猫姉が何度も呼びかけるが反応がない。

 

「寝ちゃった……」

「まじか、配信どうすんだ?」

「……無理やり起こすのも、気が引けますよね」

「……そうだな、寝かしとくか」

 

 星猫姉に俺は同意する、きっと星猫妹は限界だったのだろう。

 この休憩も、主に星猫妹の呂律が回らなくなってきたのがきっかけで挟んだものだし。

 

「じゃあ、2人で配信するか?」

「……うーん、どうでしょう」

 

 考える星猫妹。その声色は沈んでいた。

 

「……英作さんの登録者、思ったより、かなり伸び悩んでますよね」

「そうか? 例の企画はおしなべて好評だったし、好調に見えるが」

 

 現在の俺のチャンネル登録者数は約2万5千人、目標まであと半分といった所。

 配信開始前が約4千人だった事を考えれば、飛躍的に伸びている。

 

 それもこれも、あの例の企画の成功が大きかった。

 『パシフィック・ケイ』、炎上するかに思われたそれは、皆に誤解なく受け入れられたのだ。

 

 俺の視点からしか配信しないことにより、これはドッキリですよという構造がわかりやすかったというのはあるだろうが、一番の理由は企画にゲストとして来てくれたVRiseのライバーたちの対応力のおかげだろう。

 

 配信の雰囲気作り、言葉の選び方、リアクションの仕方。

 

 その全てが配信に不慣れな俺をフォローしていたし、視聴者を盛り上げていた。

 

 これも星猫姉のキャスティングの賜物なのだろうか。

 

 そこまで考えられているのだとしたら、この星猫 ひかりという少女には、尊敬の念を抱かざるをえない。

 

 ……胃を何度も傷めさせられたのは、この際不問としておこう。

 

 視聴者から「星猫姉妹の被害者」「元気出せよ」「おじさん強く生きて」と同情され、登録者が微増したのは、怪我の功名だったしな。

 

 しかし星猫姉はこの結果に、どうも納得していない様だ。

 

「……正直、想定を大幅に下回ってます、これ以上みんなに迷惑をかけないために、中止も視野ですね」

「そんなにダメなのか?」

「私、正直今日で5万人まで行く事を想定していました」

「は?ご、ごまん……」

「耐久配信って、視聴者が一番多いのは始まる時と終わる時なんですよ」

 

 星猫姉曰く、大勢に来てもらうための長時間配信は、始まりが命なのだそうだ。

 序盤で視聴者を引き込み、中盤で何度か盛り上がりを作り話題を呼び、その話題を聞きつけた視聴者を最終盤で一気に呼び込む。それが黄金パターン。

 

「今回もそのつもりでした、だけど、準備期間があまりにも短過ぎた、だから今回、この24時間にそれら全てを盛り込む事にしていたんです、ライバーのみんなにも忙しい中、無理を言って来てもらったりして」

「……そうだったのか」

「残り一日は予備日のつもりでした……48時間ずっと勢いを維持する配信なんて、こんな少ない準備時間で、しかも一からなんて、到底できっこありません……協力してくれるライバーも、無限に居るわけじゃないですし、だから賭けていたんです、今日に」

 

 彼女の話す声には焦りと不安の色がみてとれた。

 この配信が始まった時、俺は半信半疑だった、この少女は真剣に5万人到達を目指しているのだろうかと。

 しかし現実は彼女こそが、最も真剣に配信に向き合い目標を成し遂げようとしていたのだ。

 

 配信中は、あんなにおちゃらけていたのに。

 

 ……しかし妙だ。

 

「……なんでだ」

「……え?」

「なんでここまで、俺を大会に出す為に本気になるんだ、お前にはこうやって必死になる理由がないだろ」

 

 そうだ、理由がない。

 星猫妹には一応、俺のファンだからという動機があったが、星猫姉には何も動機がないのだ。

 せいぜい思い当たるとすれば、友達の助けがしたいとかそういうくらいのものだろう。

 それなのに、彼女は本気で配信を成功させるために取り組んで、あまつさえ他のライバーに無茶を言ってまでこの配信を企画した。

 

 それは今後のライバー間の人間関係にも大きく関わってくるだろう、いくら仲の良い友達のためといっても、著しく自分の印象を下げてまで断行するなんて普通じゃない。

 

 それに、今回の大会に固執しなくてもいいじゃあないか。

 ストリーマーカップは春夏秋冬の年4回開催だ。

 今回を逃したとしても、また次があるはずなんだ。

 そんな俺の疑問に応える様に、星猫姉は口を開いた。

 

「……今回で、最後なんですよ」

「……どういう事だ?」

「……ケイ郎さんには、話しておくべきですね」

 

 彼女は話す、俺の出場に真剣になる理由、今回の大会に固執する理由。

 話に耳を傾け、1つ1つの言葉を咀嚼し、理解し、そして言葉を失う。

 

「わたし、星猫 ひかりは、今月いっぱいでVRiseを卒業するんです、つまりそれはらいちゃん……私の妹であり、親友である、星猫 らいととの別れを意味しています」

 

 引退理由は、受験勉強に専念する為という至極真っ当な理由だ。

 高校2年の夏、時期的にも頷ける。

 

「親からは一流大学に進学して、大企業に就職できる様頑張りなさいと言われていまして」

「……それで、最後に思い出を作る為に、大会に参加したかったのか」

「……らいちゃんには引退すること、まだ内緒ですよ」

「まだ、打ち明けていないのか?もう引退までの期間も残り少ないだろ」

 

 現在、8月14日。

 大会本戦は8月28日に行われる予定となっている。

 彼女の引退まで、残り17日。

 

「……実はリスナーさんにも発表していなくて、知っているのは事務所のスタッフさんと、らいちゃん以外の仲の良いライバーさんだけです」

 

 なるほど、だからこんなゲリラにも近い配信にあんなに協力者がいたのか。

 卒業前の最後のお願いと言われれば、余程のことがない限り快く引き受ける人は大勢いるだろう。

 ……それすらも計算に入れて、彼女はこの配信を計画していたのだろうか。

 だとしたら、それはなんだか少し、悲しいことだ。

 彼女は、自分に降りかかった悲しい出来事さえも、打算的に利用することで人を協力させた。

 つまり、彼女は他人を心から信用していないのだろう、この歳の少女が、だ。

 

「……なんで打ち明けないんだ」

「……なんだか、怖いんです、らいちゃんと離れ離れになる事とか、私がVtuberを辞める事を、受け入れる様な気がして」

 

 微かに彼女の声が震えている。

 

「それに、湿っぽいのは嫌なんですよ、明るく楽しく、みんな笑顔で……それが、私の配信のモットーですから、最後まで貫きたいんです」

 

 一昨日から、どんな時でも自信満々で、明るかった彼女。

 自分を神だと自称して、場を和ませていた彼女。

 配信の時は俺の胃を破壊してきたりもしたが、頼もしく、まるで別の世界の住人に見えた。

 

 全く、俺は何を見ていたんだ。

 配信者だって血の通った人間だ、悩んだり、間違ったり、泣いたりするんだ。

 彼女はどうしようもなく、1人の等身大の少女だった。

 

「……やっぱり配信は中止にしましょう、これ以上は無駄な足掻きです」

「おい、ここまできて止めるのか?」

「ここまで来てしまったからこそ止めるんです、これ以上は、あなたに迷惑はかけられない」

「迷惑なんて……」

 

 食い下がる俺にわざとかぶせる様に、彼女は吐き捨てた。

 

「ありがとうございました……私が卒業した後、らいちゃんを頼みます」

 

 彼女は通話グループから抜けた。

 

 SNSを確認すると、彼女は自身のアカウントで諸事情により配信中止との投稿をし、謝罪していた。

 

 残念がる視聴者やドタキャンしてしまった数名のライバー。

 その全てに返信を行い、責任の所在は自分にあるのだと主張し、謝罪していた。

 

「……星猫姉は、ちょっと背追い込みすぎる節があるな」

 

「そう思わないか、星猫妹」と問いかけるが、反応はない。ま、当然寝てるか。

 

「俺も、踏み出す時なのかもな」

 

 俺は1人、とある決意をし、通話を抜けた。

 

 ……ただの1人を除いて、全員が抜けた通話グループに静けさが走った。

 そんな静けさの中、消え入る様な声が響いたことを。

 誰も知る由はなかった。

 

「……ばか」

 

ーーー

 

 こんな筈じゃなかった。

 私は、あまりにも長くここに居すぎたのだ

 

「Vtuberなんて誰でもできそう、媚びる様な声出して、視聴者をヨイショして、それで適当にゲームして、スパチャを遠回しに催促したら、ちょろいオタクが金投げて」

 

 気に食わない。

 それがすべての始まりで。

 

「なんか、真剣に生きるの、しんどいな」

 

 Vtuberなんて誰でもできる。

 そんな見下した感情のもと、私はVRiseのオーディションを受け、見事合格した。

 当然だと思った。

 わたしは生まれてから、あまり失敗してこなかった。

 失敗は許されなかったから。

 

「学年主席は当然のことだ」

 

 頑張るのが当然。

 

「私たちの言う事を聞いていれば、幸せになれる」

 

 人に従うのが当然。

 そう言われて育ってきたから、反動で私は、少し捻くれてしまった。

 

「今回デビューにあたり、姉妹という設定でユニットを組むことになった星猫 らいとさんです」

「……ども」

 

 マネージャーから紹介された、初めてできた仕事仲間……と言えばいいのか。

 挨拶が小さいし、なんかずっとぼーっとしているし。

 正直、最初はこの子とやっていけるのか不安だった。

 

「なんでらいとさんはVtuber始めたの? 」

「……ゲームを真剣にやる楽しさを、みんなに知ってもらう為」

 

 ……意味がわからなかった。

 それだけじゃない、他のVRiseのライバーも、スタッフも、みんな意味がわからなかった。

 

 私の想像していた様な、金の亡者で、リスナーを小馬鹿にしている様なライバーは殆どいなかった。

 

 僅かな例外は、数ヶ月や半年でアンチとか、理想と現実のギャップで活動がキツくなって辞めていった。

 

 詰まる所、この事務所には自分の好きを視聴者に伝えるだとか、純粋に配信が好きな人が集まっていたのだ。

 

 私は自分が恥ずかしかった。なんだか場違いな気がして。

 でも、そんなことはないと思いたくて。

 ていうか、そもそも世間的に見たら、みんなの方が場違いで少数派なんじゃないのとか思ってしまって。

 

 つい、言ってしまった。

 

「ねえ、らいとさん、ゲームに真剣になるのって無駄じゃないかな」

 

 人の好きを否定した。最低の行為だ。でも、らいちゃんはその時平然と応えた。

 

「……それ言ったら、人生も無駄、みんな、死ぬのが短いか長いかだけ」

「……だけど」

「……だったら、過程が大事、やりたいと思ったことに素直に生きるべき」

「……でも」

「私の尊敬してる人が言ってた、無駄を積み上げている時が、一番楽しいって」

 

 初めて出会う価値観だった。

 彼女はその時、多分声の感じからして、画面の前で笑っていた気がする。

 

「……羨ましい」

 

 心の底から出た本音だった。

 私はあまり他人に本音を話したことがなかった。

 信じられないから、拒絶されるのが怖いから。

 だけど、この時、私は自分でも驚くほどに、すらすらと本音が出てきた。

 

「……私、みんなと違って、好きなものとかなくてさ」

「……」

「……生きてても、楽しいこととかなくて、景色も全部灰色で、ずっと今ここにいる自分と、俯瞰して自分を見ている自分がいてさ」

「……うん」

「……現実味がないって言うのかな、いつも他人事の様に、自分や周りを見てたんだ……なんて」

「……意味わからん」

「……意味わからんよねそうだよね」

 

 まあ、そりゃわかんないよ。私だって、同じこと人に突然言われたら、こいつ頭大丈夫かってなるしね……なんて思いつつも、ちょっとへこんだ。

 

 その時、私の感情の動きを少し読み取ったのだろう彼女は、なんだか気遣う様子で。

 

「……でもさ、好きなものがないことで気に病む事はないよ、これから見つければいいんだし」

 

 彼女なりの励ましの言葉なのだろうそれは、私の心を溶かした。

 ここにいてもいいよ、と肯定された気がしたのだ。

 

「……そうだ、ひかりさん、私、思いついた」

「どうしたの?」

「……私、ゲームを真剣にやる楽しさを、ひかりさんに一番に伝える事にするよ、それで、好きになってもらう」

「……なにそれ、なんで私にそんなこと」

「実は私、人に何かを伝えるの、苦手だから……練習相手になって欲しいんだ」

「……そう」

「あと、敬語もやめよう、私のことはらいちゃんって呼んでよ、ひかりちゃん」

「……距離感」

「らいちゃんって呼んで」

 

 何度か押し引きがあったあと、私が根負けした。

 

「……はあ、わかったよ……らいちゃん、これでいい?」

「うん……ふふ」

「……何笑ってるの?」

「……私、お姉ちゃん欲しかったから」

「……姉妹といってもあくまで設定だし、私達同い年だけどね」

「なんだか、不思議だね、こういうの」

 

 どう考えても、こんな普通じゃない関係はおかしかった。

 血のつながりも歳の差もない、それどころか実際に会ったことすらない私の妹。

 それでも時が経つにつれ、大事にしたいと思えるようになっていた。

 こんな私にも、大事に思えるものができた。

 

 ……最初に言ったけど、こんな筈じゃなかったんだ。

 

 あまりにも長くここに居すぎた。

 

 そのせいで、好きができてしまった。

 

 わたしはVRiseという箱が好きだ、所属しているライバーが好きだ、妹も大好きだ。

 

 ゲームを真剣にやる楽しさも……今なら、理解できる。

 だからこそ。

 

「最後に、出たかったな、ストリーマーカップ」

 

 思い出を作りたかった。

 彼女と。

 

 ……メンバーが足りないと諦めていた大会参加。

 

 彼が、私の目の前に突然現れた時は、運命だと思った。

 足りなかった最後の1人のメンバーを埋められると。

 

 しかもその人物が、以前から聞き及んでいた、らいちゃんの尊敬している人物であるケイ郎さんなら、これ以上の適任はいなかった。

 

 彼女の価値観の根底をなしているものが、彼とのコミュニケーションを通して理解できるかもしれないからだ。

 

 私を救ってくれた、彼女の。

 

 ……これなら、悔いのない最後が迎えられるはずだ。

 

 自分だけの、宝物が手に入る。

 

 それさえあれば、好きなものを手放した後も、ずっと大事にして行ける、そう思っていた。

 

「だけどまあ、いまさら願っても、遅すぎるか」

 

 ベッドのシーツをくしゃり、と掴みながら、私は灰色の天井をぼーっと眺める。

 

 そして、そっと目を閉じ……疲れた身体には抗えず、そのまま意識を手放したのだった。

 

ーーー

 

 俺はスマホの画面をなぞる。

 残された猶予は24時間、まだ希望はあるはずだ。

 

 この数日間で、こんなことになるなんて想像だにしなかった。

 きっとあの日、星猫 らいとと出会わなければ。

 きっとあの日、星猫 ひかりと出会わなければ。

 

 俺は一生、あのまま堕ちていくだけだったのかもしれない。

 俺は、2人に数字だけでなく、たくさんの物を貰った。

 勇気、自信、笑顔。

 胃痛とかも貰ったけどそれはそれとして。

 彼女らには感謝してもしきれない。

 

 ……きっと、彼女たちを取り巻く環境は、これから大きく変わるのだろう。

 これまで通りいかなかったり、多くの悲しい事も乗り越えなくてはいけないのだろう。

 それは辛い事だ。

 

 俺も、本来ならば大人として、助言の一つや二つ言えればいいのだろうが。

 それにしても、俺は逃げ過ぎている。

 挫折、後悔、妥協。

 それらが折り重なり形を成したのが今の俺だ。

 まったく、歪過ぎて言葉も出ない。

 

 ……だが、それなら正せばいい。

 

 俺は俺の歪みと1つずつ向き合い、それを正す。

 そして道を示すのだ。

 その姿を以て、彼女らへの助言としよう。

 

 ……このままでは、2人の別れに待ち受けるのは後悔だ。

 

 後悔だらけの最後が最悪なのは、他でもない、俺が一番分かっている。

 

 親友との別れ、突然のチームからの追放、どれもやるせない気持ちでいっぱいになった。

 

 超絶ストリーマーカップエントリーまでの登録者ボーダー、5万人まで残り2万と5千人。

 

「伝説のプロゲーマーなら、この程度の盤面、覆せねえとお話にならねえよな」

 

 俺は自分を鼓舞する為、柄にもない事を言いつつ、不適に笑った。

 2人の少女の思い出を守る為に。

 2人の仲間への後悔と、俺は向き合うことに決めた。

 

 手に握られたスマホ、画面に写されているのは連絡先一覧。

 最後に電話を掛けたのはおよそ5年前、懐かしさを覚える名前、親友であり戦友の、2人の名前。

 

 その番号へと、俺の指先は伸びていくのだった。

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