追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話   作:山かけうどん

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12話:蘇る三馬鹿①

 ボールからはショットの瞬間まで目を離さず、体がブレない様、軸を安定させ、重心は少し前へ。

 腕からは力を抜き、一度予想着弾地点を一瞥。

 緑一面の芝にぽつんと立つフラッグを確認。

 風の強さと向きは……問題無いようだ。

 俺はクラブを大きく振りかぶり……遠心力とともに、振り抜く。

 空を切る音。

 パシュンッ……という気持ちの良い音とともに、ボールは大きく弧を描く様に飛んでいく。

 やがて、何度かバウンドしたのち、小さい穴、真っ暗なホールの近くへと静止した。

 

「いやはや……嬉木(うれき)君、見事なものだ」

 

 拍手をしながら、男は話しかけてきた。

 

「ありがとうございます、部長」

「仕事もゴルフも、他の若い連中とは大違いだなあ、なんていうか……日頃から、君からは野心みたいなものを感じるよ」

「いえ……今回のはたまたま良い当たりだっただけですし、他の仲間達も目には見えずとも努力をしていますよ」

「褒め言葉を素直に受け取るのも部下の務めだぞ、嬉木君」

「はぁ……」

 

 俺、嬉木 瀬砂は苦笑いしながら、心の中で悪態をつく。

 そうやって部下を無下にするから、役員以外は今日も俺しか来てないんだぞ、と。

 今日は日曜日である、多くの人にとっては待ちわびた曜日、休日であろうその日。

 普通なら気分も少しくらい上向くだろう。

 しかし、俺のテンションは、日曜日の休日というにはいささか沈み過ぎていた。

 

「それにしても、君の人生は順風満帆だな、ええ?」

「……そうですかね」

「そうとも……あーなんだ、しばらくは道を外れた期間もあったみたいだが」

「……はは……まあ、お恥ずかしいことに」

 

 愛想笑いをして話を合わせる。

 道を外れた期間。

 十中八九、あの時期の事を言っているだろう。

 俺は昔、プロゲーマーだったことがある。

 ただのプロゲーマーでは無い、とあるタイトルでは世界一を経験し、最強だった時代もあるプロゲーマーだ。

 嬉木 瀬砂(うれき せすな)、30歳。

 俺には昔、本名の他に、もう一つ名前があった。

 その名とは……PERU。

 プロゲーミングチーム「Argonauts」最強の、狙撃手兼司令塔という肩書を背負っていた男の名だ。

 最も、もう二度と使うこともないのだが。

 

「そんな君が今じゃ部内トップの成績を保持する敏腕営業マン、さらに美人な嫁を持ち、来月子供が……5歳になるんだっけか?」

「4歳ですよ、部長」

「ああそうだった……ともかく、君は1人の社会人として、大成したわけだ」

 

 お陰でこうして毎週日曜日は接待ゴルフに付き合わされているわけなんですがね。

 しかし、これも仕方のないことではある、俺は一家の大黒柱として、2人の家族を養っていかねばならないのだから。

 昇進し、生活を少しでも楽にする為なら、いくらでも俺の時間なんてくれてやるし、媚び諂ってやる、俺のプライドはとうの昔に、何処かへと捨ててきたのだから。

 しかし、時折違和感を覚える時がある。

 

「しかしだな瀬沙君、私がこの話題を出したのは他でもない、君に喝を入れる為なのだよ、こういう、上手くいっている時ほど気を抜かず物事に取り組まねば、ふとした所で何かに足を掬われ……」

 

 本当に、これでよかったのだろうか。

 俺は間違っていない。

 大人として責任を果たす為、一人前の社会人になる為、正しい選択をしてきた筈だ。

 だが、なぜだろうか、この心の渇きは。

 

「で、あるからして……」

 

 ずっと渇いている、砂漠でオアシスを求め、さまよう様に。

 今の俺は幸せな筈だ。

 ずっと付き合っていた幼馴染みと五年前に結婚し、四年前に娘が生まれ、子供は健康にすくすくと育っている。

 一時は険悪だった彼女の実家との仲も良好で、この前のお義父さんの誕生日には高級フレンチレストランへ行き、笑顔の絶えない時間を過ごした。

 しかし何故だろう、この満たされない気持ちは。

 

「今後も精進しろよ、瀬砂君」

 

 分からない。

 日が沈みかけ、ゴルフ場から退散した俺達は帰路についた。

 途中で飲みに誘われたが、家で妻と子供が待っていると断った、付き合い悪いなと少し絡まれたが、次誘われた時は絶対に行くと言ったら渋々納得してくれた。

 正直言って面倒くさいが、これも付き合いなので仕方ない。

 部長を車で送り届け、奥さんに挨拶した後、自宅を目指す。

 無事に自宅に着いたのは、腕の時計が19時を回った時だった。

 

「おかえり、瀬砂くん」

「ただいま、若奈(わかな)

 

 ドアを開けると、いつものように迎えてくれた妻。

 黄色い髪を後ろで束ね、白いTシャツの上からネイビーの無地のエプロンをかけている。

 その表情は微笑んでおり、ずっと帰りを待ち望んでいたという感じだった。

 今年で30歳を迎えるが、その容姿は大学時代から変わらない若々しさである。

 その後から、とてとてと小さい影が歩いてきた。

 

「おかえりなさい、おとうさん」

英奈(えな)も、ただいま」

 

 しゃがんで娘の頭を撫でる。

 控えめな笑顔で嬉しそうに笑う我が子を見て、俺も思わず笑みが溢れた。

 

「瀬砂くん、お風呂湧いてるから、先に入っちゃって、暑かったし汗かいてるでしょ」

「ああ、そうするよ……さすがに、夏の日差しは身体にこたえる」

「もう……元引きこもりで、体も細くて体力ないんだから、無理して接待ゴルフなんて行かなくてもいいのに」

「昇進のためには仕方のないことさ」

 

 俺は立ち上がり、靴を脱いで部屋の中に入る。

 

「……やっぱり、私達の為、なんだね」

 

 ……廊下を歩く俺の背中から、そんな声が聞こえた様な気がした。

 俺の今の自宅は、極々一般的な2LDKのマンションである。

 少し広く感じることもあるが、娘が大きくなる事を考えると十分な広さだ。

 色々な部屋に繋がる廊下を抜けるとリビングが広がる。

 リビングには大くの光と風を部屋に運び込む、ベランダへと続く窓があり、そこを開けベランダへと出る。

 隅に設置してある物置へゴルフ道具を片付けると、俺は洗面所へと向かった。

 俺は風呂へ入る為、身につけていたゴルフウェアを上から順に脱いでいく。

 その間も、ずっと考えていた。

 満たされない心について。

 そう、絵に描いたような家族団欒を、俺は成しているんだ。

 もう、いいじゃないか。

 あの2人と共に居れるだけで、満足だろ。

 自分に言い聞かせていると、ズボンのポケットに携帯を入れっぱなしにしていたことに気がつく。

 

「あぶね、間違って洗濯したら大惨事だな……」

 

 ポケットから携帯を出し、そんな独り言を呟いた。

 いくら耐水とはいえ、洗濯してしまったらどうなるかわからん。

 それと同時にふと思い出す、そう言えば今日は朝から全然スマホを見ていない。

 午前6時から起き車の運転、ゴルフ場では道具の準備や上司のご機嫌とりで忙しく、帰りもまた運転。

 まともに見る暇がなかったのだ。

 

「ちょっと、メールとロインと不在着信の確認だけしておくか」

 

 メールとロインは……来ていない。

 日曜日だし、ほぼ来る事はないのだが、たまに取引先や同僚から来ていたりして、その対応をしないといけないこともある、しかもそれが急を用したりする時もあるので何かと厄介で、その度に俺は休日に仕事かとため息をつく。

 しかし、今日は来ていないとわかったので胸を撫で下ろした。

 

 次に不在着信を確認する。

 

 普通は電話がきたら音とバイブレーションで分かるだろうと思うだろうが、これがなかなか今日みたいな日は気が付きづらい。

 

 というのも、まず俺は普段から携帯の音を消音にしている、なぜかというと、日常で音を出してはいけない場面というのが多いからだ。

 例えば会議中とか、オフィスで過ごす時とか、取引先と商談をしている時とか、接待中だってそうだ。

 色々な場面で、音を出すというのは、不快に思われることが多い、だから俺は、いちいち確認するのも面倒くさい為、携帯のサウンドをゼロにしているのだ。

 

 そしてバイブレーションについてなのだが、これは確かに普通の時は気がつく。

 多少今使っている機種は振動が弱い気がするが、それでも気がつくだろう。

 しかし今日は、屋外でゴルフというのがいけなかった。

 外で運動をするということは、普段よりも感じるものが多い。

 気温、景色、音、風。

 それに加えて、運動し、発汗し、疲れる。

 そうすると色々な感覚が鈍る。

 そこに今の俺のスマホ元来の弱い振動もあいまって、非常に電話に気がつき辛いのだ。

 

 というわけで、一応着信履歴を確認した。

 そして不在着信の一覧を目にした時、俺は目を疑った。

 そこに、懐かしい名前があったからだ。

 着信は今日の午前1時、俺が寝ていた時間。

 朝出て行く時には、特に注意して見ていなかったので気がつかなかった。

 

「ケイ郎ッ……!? なんで……」

 

 ケイ郎。

 プロゲーマー時代の旧友。

 あいつを一言で表すならば、常に前を走り続ける人間だった。

 何度頑張っても、あいつには追いつくことができなかった。

 俺は、俺たちは必死で、あいつの横に並び立つことができる様、努力した。

 結果、俺はそれをなし得ることができなかった。

 あいつに置いていかれた。

 そして俺は、色々なことが重なって諦めたんだ、共に走る事を。

 

 そんなあいつが、今、どうして俺なんかに連絡をしてきたのだろう。

 間違い電話かとも思ったのだが、それはおそらく違うのだろう。

 なぜなら、留守電音声がきちんと数分録音されていたからだ。

 ここ五年、ずっと連絡をとっていなかったのに。

 

「にしても、こんな時間に連絡してくるか普通……」

 

 まあ、あいつらしいといえばあいつらしい。

 昔からそういう男だった。

 目の前のことしか見えていないのかと思ったら、急に周りの心配をし始めたり。

 かと思えば、こちらの都合など考えず急に無茶を言い出し始めたり。

 今も、あまり変わってなさそうで少し、安心した。

 それにしてもどうしようか。

 

「とりあえず、風呂に浸かってから考えるか」

 

 残る衣服を脱ぎ、浴室へ。

 体を洗った後、湯船につかる。

 温まったお湯が、体の疲れを芯からほぐしていく。

 普段は夏ということもありシャワーの日が多かったので、この癒しは格別だった。

 少し落ち着いたところで、先ほどの留守電について考えた。

 聞くべきか、聞かざるべきか。

 正直、気が進まないというのはある。

 俺はあの場から逃げ出した身。

 何を言われるか、わからない、それが怖かった。

 

「どうしたの? さっきからぼーっとして」

「ん? あ、ああ、なんでもない」

 

 気がつけば家族達と食卓を囲んでいた。

 さっきからずっと、ケイ郎のことで頭がいっぱいだった。

 できるだけ、あの頃のことは思い出さない様にしていた反動だろうか。

 考えれば考えるほど、あの頃の思い出が次から次へと出てきた。

 初めて彼らと会った喫茶店。

 激しい口論に発展した、大会後の反省会。

 あいつら2人が俺と若菜のデートに付いてきた時なんて最悪だった。

 だけど、あいつらは根暗でコミュ障な俺を、最後まで見捨てなかった。

 ずっと周りから疎外され引きこもっていた俺が、外に出るきっかけを作ってくれたのが若菜だとしたら。

 ケイ郎とヘラヘラクレスは俺に居場所をくれた。

 ……一応、井赤も。

 ああ、あの頃は、確かに満たされていた。

 しかし、あの頃とは、何もかもが変わってしまった。

 ……今更、俺にどうしろと。

 何を伝えたかったんだよ、ケイ郎、お前は。

 

「やっぱり、昨日の夜の……ケイ郎君の事だよね」

 

 俺の思考を見透かす様に、若菜が呟いた。

 

「なんで……知ってるんだ?」

「私、電話が来てることに気がついて目を覚ましちゃって……名前が、画面に表示されてたから」

「なるほど、それで……」

「ごめんなさい、勝手に見ちゃって」

 

 どうしてすぐ横で寝ている俺を起こさなかったのか、というのは、聞くまでもなかった。

 俺がプロゲーマーを辞める1つのきっかけになったのは、彼女の親に色々と言われたからであるし。

 若奈も俺経由で、あの2人とは仲が良かったし。

 俺のあの2人に対する思いも若菜は知っている。

 きっと色々、思うところがあったのだろう。

 結婚してからはお互い不自然なほど、あの頃について語らなかったし、触れづらい思い出だ。

 彼女の行動を責める気にはならなかった。

 

「それでね、ケイ郎君のことなんだけど……プロゲーマー、辞めたって知ってた?」

「は?」

「それも半年前」

「なんで、教えてくれなかったんだ」

 

 知らなかった、つい1〜2年前までは、きちんと彼の情報を追っていたのだが。

 仕事や子育てが多忙を極め、いつしか脳のリソースを自分の趣味趣向に費やすことができなくなっていくにつれ、いつしか情報を追う事すらしなくなっていた。

 

「理由は?」

「分からない、それに、チームのページのどこにも名前が載ってないんだよね」

「は? ……コーチとかマネージャーとか、そういう欄にもいないのか?」

「うん」

 

 流石に不可解だった。

 落ちてきたとはいえ、ケイ郎の実力はまだ通用していた筈。

 それに選手としては使えなくなっても、その経験を生かしコーチやマネージャーとして、チームを裏から支えることだってできた筈だ。

 

 「Argonauts」創立からチームを支えてきた彼が、急にチームに全く絡まなくなるなんてことあるのだろうか。

 

「それじゃあ、今は何をやっているんだ?」

「それがね……実は」

 

 若菜はスマホで動画投稿サイトを開き、俺に見せてきた。

 画面を注視する。

 そしてそこに写っているライブ配信を見て……思わず、絶句してしまった。

 

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