追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
「チャンネル登録!! よろしくお願いしまーす!!」
コメント:ええ……登録者コジキって
コメント:どうしちまったんだおじさん
コメント:壊れちまった?
俺は、星猫姉妹がいなくても、5万人を目指すことを決めた。
それも今日だけでだ。
大会には絶対に出場してみせる、俺を必要としてくれた、あの2人のためにも。
だから、俺は1人で配信を続けることにした。
しかしながら、今の俺1人の力などたかが知れている。
登録者は思う様に伸びず。
結果、朝から、夜のこの時間まで配信し続けていた俺は、半ば自暴自棄になっていた。
しかし、成すべき事は成した。
「チャンネル登録ゥ!! よろしくお願いしまーすッ!!」
コメント:なんか、幻滅だわ、ちょっと気に入ってたのに
コメント:結局中良さそうにしてたのも売名目的だったのかよ、登録解除します
コメント:叫び声必死で草
俺には登録者5万人を目指す策があった。
この状況からでも逆転できる策。
しかし、俺1人では絶対にそれは成しえない。
俺の仲間達。
PERUと、ヘラヘラクレスがいなければ。
だから俺は、一歩踏み出す覚悟をした。
2人に、俺の本当の気持ちを打ち明け、協力を仰いだのだ。
ずっと避けていた関係に、正面から向き合った。
2人とも電話は繋がり、不在着信ではあったものの……メッセージはちゃんと残すことができた。
あとは待つだけだ。
彼らが俺の声に応じてくれれば、俺の考えている策は必ず成功する。
「チャンネル登録ゥゥ!! よろしくお願いしまーすッッ!!」
コメント:星猫姉妹に二度と近づくな、クズ
コメント:配信やめろ
コメント:4ね
しかし、2人が来なければ、待ち受けているものは破滅だ。
だがやるしかなかった、この状況を巻き返すには。
時間は残り少ない。
……2人は、来てくれるだろうか。
正直確証はない、あいつらはもう、俺とは住む世界が違う。
もう、俺の言葉は気にも止められていないかもしれない。
無視されるかもしれない。
その時はもう、仕方がないと割り切ろう、だが、あいつらならきっと。
電話をして、もう10時間以上も経っていて、音沙汰もない。
……それなのに、俺の胸には、根拠のない、2人への信頼があった。
そして気がつく。
そうか、きっとこれが俺の。
人生における、宝なのだろうと。
エントリーの締め切りは、今日の23時59分。
現在、時計の針はきっかり19時30分。
タイムリミットまで───残り4時間と、29分を切っていた。
ーーー
薄暗い部屋。
床にはビニールや酒の缶が散らばっている。
その中で、たった一つ、光があった。
モニターの発光する光。
俺は立ち上がりながら、その画面を見続ける。
『チャンネル登録ゥ!!よろしくお願いしまぁぁすッ!!』
突然の連絡、奴の状況を理解するために配信を覗いてみたが。
全く、一体何をやっているのだ、こいつは。
なんなんだこれは、カッコ悪いにも程がある。
「ケイ郎よぉ……登録者稼ぐにしてもなんか、もっとあっただろ、やり方」
画面にはコメントビューワ。
そのほとんどが「登録者コジキはないわ」「4ね」「消えろ」「売名野郎」
どれも手痛い誹謗中傷だった。
当然の結果だ。
あまり配信という文化を深く理解していない俺でも分かる。
この行為は、愚策であると。
だが……なぜだろう。
自然と、涙が溢れてきた。
その涙を拭うこともなく、俺は画面を見続ける。
ああ……お前は、いつまでも真っ直ぐなんだな。
プロゲーマーを辞めてから、俺は俺なりに頑張ったつもりだった。
プロゲーミングチーム「Argonauts」の誇る、世界最強のポイントマンと呼ばれていたのは遥か昔。
大学生活も就職も上手くいかず、今では酒とパチンコに溺れる毎日。
親はそんな俺を見放した。
当たり前だ、こんな半端者のニート、見放さない理由がない。
俺は昔から何をするにも中途半端だった。
小学生から野球少年で、プロを目指して頑張っていたが、無理が祟り高校2年の夏、肩を故障し辞めた。
その後、勉強を頑張り始めたが、後一歩で学年トップ10という所で飽きた。
そういうものは俺の中でも上出来な方で、ほかにも色々、小さな事で挫けたことがたくさんある。
ギターをやってみようとして3日でやめたり。
ベルマークを集めようとして、途中で面倒になって全部捨ててしまったり。
RPGをラスボス手前まで進めたのにも関わらず積んでそのまま放置し、ソフトを売ってしまったり。
俺はそういうことばかりしてきた。
しかし、プロゲーマーとしてはどうだろうか。
俺は世界一に輝けたことがあった。
ここまでは誇っていいだろう。
しかし、その後が不味かった。
年齢による衰え、技量不足でケイ郎の足を引っ張る日々。
同時に、チームの没落。
そういえば、PERUは今、どうしているのか。
あいつは引き際を弁えていた、いいタイミングでチームを脱退したと思う、さすが司令塔だ。
今じゃ嫁と子供と3人暮らしでもしているのだろうか、あいつなら仕事もそつなくこなすだろうし、きっと成功しているのだろう。
だが、俺はどうだ、引き際を弁えるでもなく、ケイ郎に追いつこうとするでもなく。
ただただ中途半端に過ごす毎日。
その結果、中途半端にチームを辞め、こうして失敗した。
こんな姿、あの二人に合わせる顔が無い。
しかし……そんなどうしようもない俺を、たった一人、見放さない人物が居た。
「……お兄ちゃん」
俺の横から真剣な眼差しを向けてくる人間がいた。
妹の
今年高2になる、歳の離れた妹。
上は白い半袖のルームウェア、下はダーク・グレーのショートパンツに身を包んでいる。
セミロングの銀髪。
直立不動で、青い瞳はじっと俺を睨んでいる。
身長が190センチある俺よりも30センチも低く。
肩幅も俺の半分。
だというのに、彼女の瞳には俺に抵抗を許さない、妙な迫力があった。
「……ケイ郎さんは、お兄ちゃんを待ってるよ」
「鈴音が助けろよ」
「……ううん、私が行ってもダメ、お兄ちゃんが行かないと……私じゃ、”星猫 らいと”じゃ、あの人の助けにはなれない」
彼女は俺にそう訴える。
彼女は小さい頃から、ケイ郎のファンだった。
きっかけはいつだっただろうか、たしか鈴音が9歳の頃だった。
俺が地方大会の後、ケイ郎を実家に連れてきたときだ。
いつもと同じ様に家に帰ると鈴音は『いっしょにゲームしよう、おにいちゃん』とねだってきた。
俺は基本的に自分のことが優先で、鈴音には日頃から冷たく接していた。
正直うっとおしいと思っていた、自分の夢の邪魔をするなと。
しかし、心の中で、罪悪感を感じていたことも事実だった。
そんな鈴音を不憫に思ったのか、俺の真意を察したのかはわからない。
ケイ郎は鈴音の遊び相手を買って出てくれた。
『鈴音ちゃんのお兄ちゃんは忙しいし、疲れてるみたいだから、代わりに俺が遊んであげるよ』
その日から、鈴音は家にケイ郎を呼んで欲しいと俺にせがむようになった。
元々鈴音は内向的な性格だった、友達もあまりいなかったし、考えてみればいつも1人で遊んでいた。
きっと、そんな鈴音から見て、ケイ郎は神の様に見えていたんだと思う。
いつしか、彼女は動画サイトに張り付いて、ケイ郎が出た大会のプレイ動画ばかり見ていた。
……鈴音はいつしかケイ郎に憧れ、プロゲーマーを志す様になった。
しかし、鈴音にはそこまでの才能がなかった。
どうやらFPSというジャンルにおいて女性は、元々空間認識能力という点で男性にどうしても劣ってしまうらしく、女性のFPSプロゲーマーは母数が圧倒的に少ない。
人間には、生まれた時から定められた運命がある。
彼女もその運命からは、逃れられなかったのだ。
しかし、彼女は諦めなかった、別の道を選んで、ゲームと真剣に関わることにしたそうだ。
それこそが───Vtuberという道。
みんなに、ゲームを真剣にやる事の面白さを伝えることにしたと、彼女は言っていた。
そう、鈴音はVRise所属の有名人気Vtuber”星猫 らいと”、その中の人……所謂、魂なのだ。
こんな、どうしようもない俺と違って、できた妹だ。
運命に夢を否定されようと、こうして腐らず、真っ直ぐな目で俺を見つめている。
「……お兄ちゃんは、もう一度ケイ郎さんと向き合うべき」
「……鈴音……その言葉、俺に何回言ったか覚えてるか?」
「……覚えてない、覚えてないほど言った、だって、私はそうするべきだと思うから」
半年前から、ケイ郎の動向がおかしい事を俺は知っていた。
鈴音が何度も、あいつのことを聞いてもいないのに報告してきたからだ。
ケイ郎がチームを抜けたこと、「Argonauts」の様子がおかしい事、ケイ郎が配信を始めた事。
そして、先日、ケイ郎を配信上でスナイプし、偶然を装いマッチングした事。
鈴音は俺にずっと前から、ケイ郎が追い詰められているから助けて欲しいと言っていた。
しかし、いつまで経っても動かない俺を見て、ついに先日自分から動いたのだ。
俺はあいつの窮地を、見て見ぬ振りをしていたんだ。
ああ、最悪だよ。
いつから俺は、こんな最悪な人間になっちまったんだろうな。
自嘲しながら俺は言う。
「そんな……今の俺如きに、あいつを助けられるわけがないだろ」
「……聞いたでしょ、あの留守電」
内容を思い出す、ケイ郎は言っていた。
『引退を切り出してくれたあの時、笑って送ってやれずすまない』
そしてこうも言っていた。
『あの時、お前が俺に言った、お前ならもう一度世界一になれるという言葉、違うんだ、そうじゃない、お前らは、俺の願いを誤解しているんだ』
ケイ郎の本当の願い。
それは、極々単純なことだった。
『俺はお前らと、もう一度、本気でゲームがしたかったんだ……あの時に戻れないことは分かってる、だけど……それをお前らに、伝えておきたくて』
馬鹿野郎が。
そういう事はもっと早く言ってくれよ。
そうすりゃPERUも。
ーーー
きっと、ヘラヘラクレスも。
どこまでも。
どこまでもどこまでも。
どこまでもお前の遊びに付き合ってやったはずだ。
なぜならそれが、俺達3人なのだから。
配信を見ながら再生している、留守電に残された音声データ。
ケイ郎の言葉で、ずっと目をそらし続けていた気持ちに気がつく。
『2人に頼みがある、俺の配信を手伝って欲しい、理由は話すと長くなるから今は聞くな……とりあえず、今から言うことをメモしてくれ』
ケイ郎が言ったことを、指示通り書き記す。
『それはゲームのタイトルと、俺のフレンドIDだ、準備ができたらすぐに申請してきてくれ、VCはゲームに備え付けられた物を使う……参加できた後、どう手伝ってほしいかは俺が伝えようと思う……それと、最後に』
一呼吸置いて、ケイ郎は言った。
『できるだけ早く来てくれよ! 遅かったら、承知しねえからな!』
そこで、音声は途切れた。
はは、全く、調子のいい野郎だ。
若奈は俺に笑いかける。
「瀬砂くん、ケイ郎くんが助けを呼んでる」
「……全く、困った奴なんだよな、あいつ昔から、こっちの都合も知らねえで、無茶振りばかりしてきやがって……付いていけるのは、俺とクレスくらいしか居ないんだ」
「うん、知ってる」
彼女は泣いていた。
笑いながら。
俺も気持ちがわかった。
抑えてきた感情が、堰を切ったように溢れてきた。
「お前にも迷惑かけたよな、あの時、せっかくの誕生日デートだったのに、あいつらのせいで俺の立てた予定はぐちゃぐちゃだった」
「でも、楽しかったよ」
「ああ、そうだ……楽しかったんだ」
「ごめんね」
「いい……若奈は悪くない、誰も悪くないんだ結局、俺がチームを辞めたのは、俺が決めた事なんだから」
ああ、そうだ、俺が決めたことだ。
それなのに、未練ばかり感じて、戻りたくて。
そのせいでずっと自分を、周りを苦しめていた。
……やっと、前に、進めるだろうか。
「俺、もう一度やり直せるかな」
「うん、絶対できるよ」
意思は固まった。
ーーー
「……それで、行くの? 行かないの? お兄ちゃん」
「俺は……多分、あいつが思っているほどの人間じゃない」
「……うん、そうだね」
「はは、おい、肯定すんのかよ」
「……それはそう、何度励ましても、ずっとうじうじしてる、デカい図体のくせに」
「デカい図体は関係ないだろ」
「……困っている友達も見て見ぬフリをする、最悪のばか兄貴、お兄ちゃんじゃなくてケイ郎さんの妹だったらどんなに良かったんだろうって、いつも思ってる」
「うぐ……ば、馬鹿兄貴!? お前な……」
「でも、そんなお兄ちゃんにしか、ケイ郎さんは助けられない」
ああ、そうだな。
やっと、覚悟ができた。
ケイ郎は俺と向き合おうとしたんだ。
逃げることなく。
タイミングだ。
これまで俺は、いくつものタイミングを逃してきた。
チャンスを逃したと言い換えてもいい。
それを言い訳にして、ずっと俺はいろんなものから逃げていた。
でも、そんな鈍感な俺でも分かる。
ここで何もしなかったら、俺はきっと、一生後悔する。
「……俺、行ってくる」
「……うん」
ケイ郎、お前のために、一肌脱いでやるよ。
鈴音を見る。
彼女は珍しく、嬉しそうに笑っていた。