追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話   作:山かけうどん

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15話:色褪せぬ、記憶

 その夜、俺は今月行われる『超絶ストリーマーカップ夏の陣』、その一大イベントに向けての打ち合わせを終え、仕事関係者達と親睦を兼ねた飲み会へと赴いていた。

 会場は打ち合わせのあったゲームメーカーの近くの居酒屋。

 雰囲気はよくある居酒屋といった感じで、複数の4人席を貸し切り行われた。

 そこにはゲームメーカーの広報社員、プロゲーミングチームのオーナー、芸能事務所のマネージャー、中にはVtuber事務所の最王手であるVriseの社員の姿もあった。

 ネット配信業界の裏を支える様々な人種が集まるこの場は、苦心の多い俺にとってよいストレス発散の場であった。

 ネット配信業界は普及はしたもののまだ新しく成熟しきっていない業界だ。

 関わっている人間達も未だその未来については予測不可能であり、生き残るために必死に今も足掻いている。

 そんな中、黎明期からプロチームのオーナーを続けてきた俺の扱いはと言うと。

 

「あのー井赤さん、どうすればArgonautsみたいにスター選手を量産できるんですか」

「待つことかな、ひたすら待ってチャンスを伺う、俺も一度落ち目を経験してる人間だ、不調な時も耐え忍ぶ心こそが、成功を産むんだ」

「選手の育成に何か特別な事はなさってるんですか?」

「いや、俺は大した事はしていないよ、みんな勝手に頑張ってるだけさ、はは、俺はゲームはよくわからないからね」

「どうして長年生き残れたんですか?」

「運だよ運、あとは関わった人達のおかげかな」

 

 言うまでもなく、英雄扱いされていた。

 いいぞ、もっと俺を褒め、讃え、崇め奉れ。

 

「井赤さん、大物なのに謙虚で腰が低くて俺みたいな新参者にもアドバイスしてくれて……マジ感激ッス」

 

 周りにヨイショされ気分の良くなった俺は、彼らにサービスする事にした。

 店の入口に現れた見慣れた黒髪天パ頭の少年を見つけ、声をかける

 

「おお……きたきた、REX君、こっちだ」

 

 横の座布団をぽんぽんと叩き、座るよう促す。

 

「タダ飯が食えると聞いて」

「夜遅くに呼びつけてすまなかったな」

 

 それを見てどよめく周囲。

 

「れ、REXってまさか」

「あの『神の申し子』の!?」

「どんな人なんだ? 生憎俺はそっちの話題に明るくなくてね」

「えっと、『Assault5:Revolt』部門への競技選手転向から僅か半年でアジアリーグの数々の強豪相手にクラッチ……つまり不利な状況から逆転する事を何度も行い観戦者を沸かせた、今、日本で最も強いとされているFPSプレイヤーです」

 

 俺はやれやれと場を収めながら、先程俺に質問をしてきた新興プロチームのオーナーの男に言った。

 

「スター選手をチームから産みたいなら、選手を見る目を養うことも大切だ、その目で直接見て、よく学ぶんだな」

「あ……ありがとうございます!」

 

 その時、REXはというと。

 

「焼き鳥うめー」

 

 興味なしかよ。

 

「店員、彼にソフトドリンクを」

 

 その後も飲み会は大いに盛り上がり、俺も気持ちよく帰路に着く。

 ……その予定だったのだが。

 

「あの……なんかネット、大騒ぎになってません?」

「あれ……俺のとこの配信者もなんか呟いてる」

「『伝説の3人……もとい3馬鹿復活』……なんだこの記事」

 

 異様な空気に包まれる会場で、REXは自分のスマートフォンを見てつぶやく。

 

「おっ……これ、結構胸熱だ」

 

 横から覗き込むと、そこにはケイ郎の配信画面。

 さらに音声をよく聞いてみると。

 

「ケイ郎と……ヘラヘラクラスにPERU?」

 

 それは俺のよく知る3人の声だった。

 何か不思議な懐かしさを一瞬感じたが、気のせいだろう。

 時代遅れの出涸らしに動く感情などない。

 しかし、一気に場がケイ郎達の話題で持ちきりになり、俺は面白くない感情になった。

 どうせこれは一過性のものだ、流れ星のように一瞬で消え去るだろう。

 3人のうち2人は俺を見捨て、残る1人は俺が追放し見限った、そんな連中だ。

 大したこともできないはずだ。

 

「ケッ……くだらん、登録者稼ぎに躍起になっているとは、とことん墜ちたな、おまえら」

 

 小声で悪態をついていると、1人の女性がふらふらと歩きながらこちらへ近づいてきた。

 

「か、感動ですよおおおおおお」

 

 バン、と俺の目の前にある机を叩く彼女。

 なんだこいつ。

 

「失礼、あなたはどちら様で?」

「あ、Vriseのしがない一社員ですう」

 

 ひどく酔っ払っているのか、呂律があやしい彼女は、聞いてもいないのに語り出す。

 

「あのねぇ、オフレコで頼みますけど、この星猫ひかりって子……」

 

ーーー

 

『ひかりちゃん、頑張ろうね』

 

 スマホに届いたそんな親友のメッセージを、私は呆然とした気持ちで受け取った。

 

ーーー

 

 8/16

 00:00

 チャンネル名……ケイ郎

 登録者数……60610人

 

ーーー

 

『すごいね、ケイ郎さん、らいちゃんの言った通りだった』

 

 親友からのそんなメッセージに、私は口角をあげる。

 

『私も、ケイ郎さんみたいに、みんなの記憶にずっと残りたいな』

 

 ……初めて、彼女から直接、本心を見せてくれた気がする。

 

『なれるよ、絶対』

 

 チーム申請完了というPCの画面を眺め私は微笑む。

 

 ありがとう、ケイ郎さん。

 

ーーー

 

「おい、この後どうするよ」

「え?いや、俺明日仕事あるし……」

「俺寝たいし……」

「逃げんの?」

「いや、俺は逃げたくないんだけどほら、プレイ環境が酷くて」

「というわけで皆さんさいなら……」

「あ、おやすみ……逃げんの?」

「うっるせえなケイ郎!今度やる時はいいPC揃えとくからそれまで待ってろ」

「俺は明日いいマウス買いに行ってくるから、気軽に誘えよ」

 

 深夜2時。

 彼らはそう言い残しゲームから落ちていった。

 ……次があっていいのか。

 ……また、俺と遊んでくれるのか。

 未だ尚急激な勢いで伸び続ける登録者。

 俺達の声は届いた。

 胸に湧き上がるのは言葉にはできない熱いものだった。

 これ以上の喜びの感情を、俺は知らなかった。

 

ーーー

 

 一週間後、俺は星猫姉妹と配信の準備を進めていた。

 

「にしても、このチーム名誰が考えたんだ?」

「はいはい〜私です、星猫姉です」

「『ケイ光らいと』……名前をつなげただけ」

「ちょっと、安直ですかね」

「いや、いいんじゃないか、俺たちに合ってる」

「うん、短い間でも、眩く光ってみせようよ」

「……そうですね!」

 

 時計を見れば、頃合いの時間だった。

 

「よし、2人とも、大会運営から送られてきたアクセスキーは確認したか?」

「はい、ばっちりです!」

「大会前、一週間の間開催されるスクリムだ、ランドマーク争い、敵チームの分析、チーム連携の強化……やる事は山積みだ」

「おお、英作さんがプロゲーマーっぽい事言ってる」

「おい」

「……何はともあれ、掛け声」

 

 星猫妹が音頭をとる。

 

「『チーム・ケイ光らいと』頑張るぞー……」

 

「「えい、えい、おー!」」

 

 ……少し恥ずかしい。

 

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