追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
16話:スクリム開始
スクリム1日目。
抽選でランドマークを決めた、俺たちのチームはマップ北東の端、物資もそこそこ落ちている【レイヴン・シティ】という街に降下することとなった。
バトロワゲーであるレジェスクにおいて、ゲームのスタートの際、ドロップシップからの降下地点は非常に重要な要素の一つだ。
レジェスクのマップは複数あるが、どれも全体マップは島のようになっており、時間によって縮小する円がゲーム開始からしばらく経つとマップ上に現れ、だんだんと縮小するその円の中……安地の中に入らなければ、ダメージを受け、やがては脱落する仕組みとなっている。
故に、安地の中に入るための移動をしなければならない時がある。
その際、移動ルートの選択に際し、敵チームの通り道となりにくいマップ端の街に降りる権利を得ることが出来たのは非常に大きかった。
初動は安定してファームすることができるだろう。
そして、このゲームで移動という行為は大前提において、大きく隙を晒すという行為だ。
そもそもFPSにおいて、移動するという事は、相手の射線を受けてしまう可能性を高めるということである。
中には数センチの移動が致命傷となるゲームもあるのだ、街から街への移動の道中なんて、それこそ敵にどうぞ撃ってくださいと言っているようなものだ。
マップ端のもう一つの利点として、この大きく隙を晒す移動という行為を普通より安全に行える、安置端ムーブができるという点がある。
ざっくり言ってしまえば、バトロワFPSは自チーム以外全てのプレイヤーが敵という都合上、敵がどこから表れるか分からないため、普通であれば360°常に警戒しなければいけない。
しかし安地の端……安地とダメージゾーンのギリギリを移動することにより、警戒すべき場所を縛ることができ、不意打ちを受けるリスクが少なくなると同時に、移動しやすくすることができるのだ。
つまり、普通より有利に試合を運ぶことができるのだ。
「でかした!らいちゃん!!」
「ん、こんなもん」
ああ、本当に運が良かった。
俺達チームは今大会参加チームの中でも、パワーバランスにおいて「他チームとは一段落ちるがギリ戦えなくもない」くらいの立ち位置にある。
観戦者達からの評価も大体そんなもんだろう。
故に、真正面から撃ち合っても勝機が薄い事は明白。
上位を狙うならマップの端、どこかの街をランドマークにするという条件はマストだなと考えていたので、これは渡りに船である。
しかし、喜んでばかりも居られない。
大きな懸念点があったのだ。
toppo、
俺も無知ではいけないと、大会参加者について色々と調べたのだ。
チーム『大三元』
現レジェスクプロで、日本屈指の実力派若手である「toppo」を中心に、現在ストリーマーとして活動中だが、元FPSプロであり、経験豊富な「牌ドラ」、VRise所属の男性Vtuberで、どんなゲームをやらせても抜群のプレイスキルを持っているとされる「魔渡 シレン」が脇を固める安定したチームだ。
『大三元』が俺たちの移動ルートに絡んでくる可能性は非常に高く、これから大会までの期間、幾度となく戦闘することになるだろう。
所謂目の上のたんこぶ。
多分、真正面から戦っていては勝てない。
俺たちはスクリム開始5分前に、『大三元』を仮想敵として一度話し合うことにした。
「『大三元』で一番注意すべき相手は誰だと思う? 2人とも」
「ん〜、やっぱりリーダーのtoppoさん一択ですかね、彼に暴れられると厄介です」
「……ケイ郎さんなら、勝てるんじゃ?」
「嫌……多分、俺が正面からtoppoさんと打ち合っても勝率は3割を切る」
「じゃあ、どうすれば……」
「ん……他の2人を先にキルして、数的有利を作り出す?」
「あぁ、それ有りじゃないですか? 魔渡さんはいざとなったら強いけどちょっとトロール気味だし、牌ドラさんはまあ……言わずもがなじゃないですか」
「確かに……ちょっと手強いくらいで、私たちなら押し切れるかも」
……あれ、俺の予想だともっと暗い雰囲気になるかと思ってたけど、案外2人とも自信たっぷりだ。
「いいぞ2人とも、優勝候補相手に一歩も引いてないな」
何気なく、チームを鼓舞しようとかけたその言葉になにか引っかかるように、星猫姉が疑問の声を上げた。
「ん?……優勝候補?」
「え……だってそうだろ、toppoと牌ドラがそれなりに実力のある人と組んだら、普通に大会でも屈指の実力じゃないか?」
「え?……toppoさんは分かりますけど、なんでそこで牌ドラさんの名前が出てくるんです? だってあの人、あんまりレジェスクやってないし、彼はどちらかと言うと上手いプレイを期待されているというより、ストリーマーとして配信の面白さを担保するタレントって印象が……」
俺は驚愕していた。
やっぱりそうなのか!?
牌ドラが……タレント扱いされる時代か!!
牌ドラって、本当に俺の知ってるあの牌ドラだよな?
いや、知ってたけど、調べたから。
調べたけど、どうにも現実味がなかった。
小中学生に圧倒的に支持される大人気ストリーマー、牌ドラ。
そのリアクション芸、キレ芸、台パン芸、キチゲ解放には一定の評価があると、ストリーマーWikiには書いてあった。
ちなみに主にプレイしているゲームは◯リオカートらしい。
「そうか……そうだったな、すまん、俺の古い情報なんて役に立たないよな……古い人間だしな……」
「……ケイ郎さん、元気だして」
うなだれる俺を慰める星猫妹。
若者に気を遣わせて本当に申し訳ない。
「とりあえず……今日はスクリム1日目だ、まずは相手の出方を伺おう、練習だし肩の力を抜いて……時間は沢山ある、作戦は、相手の正確な実力を見てから立てればいいさ」
そんな気の抜けた感じで、俺たちのチームは初陣を迎えたのだった。
ーーー
「へぇ……噂には聞いてたけどな、本当に出るんだな、アイツ」
俺の呟きに、toppo君が反応した。
「牌ドラさん……ケイ郎さんと知り合いでしたっけ」
toppo、現役のプロゲーマーであり、日本屈指の実力を持つ21歳。
そして俺達、チーム『大三元』のリーダーである。
「いや知り合いってほどでは……大会でニアミスして、こっちが一方的に覚えてるだけだ」
にしても意外である、ずっと『アチラ側』で活躍していたケイ郎が、突然この大会に顔を出してくることになるとは。
あの3人もこの前突然揃っていたし、なんだか大きな意味があるように感じるな。
「……ケイ郎との関係は話せば長くなる……ずっと昔の話だが」
「ムムム昔の話ィ!?またですかァ!? おっさん隙アラバ昔語りするなァ……やっぱ歳を重ねるとそうなってくるんすかねー」
「そうか、しばくぞシレン」
VRise所属Vtuber、魔渡 シレン、今回の大会の俺のチームメンバー、魔王という威厳あるガワとは相反する、Vtuber界きってのお調子者は、今日もその調子を崩さないようだ。
「誰も嫌とは言ってないですよォ、牌ドラおじさんの昔話、おもろいんで」
「そうか、後でスパチャやるぞシレン」
「センキュ〜〜↑」
toppo君は続けて、興味深々と言った様子で俺に質問してきた。
「もうすぐ試合ですけど、ちょっとでもいいから、その時の話聞きたいですよ」
「あの時……まぁ、俺も若かったからな、触れずらいとこには触れないがいいか?」
「それって、素行不良が原因でチームから除名されたってヤツ!?」
「シレン、いきなり傷口に手を突っ込んでくるか?普通?」
「いいじゃないッスか、自分でネタにしてたでしょアンタ」
「それもそうか……で、続きだ、シレンが言った、俺が除名されたチームも関わってくるんだがな……」
俺は事の経緯を話した。
時は2011年。
【Exterminate】全盛期、そしてそれと同時に、世界制覇を果たしたケイ郎、ヘラヘラクラス、PERU率いる【Argonauts】が競技シーンを席巻した時代。
日本国内では、【Argonauts】に幾度となく敗北し、格の違いを見せられたチームばかりが溢れ、その王座を奪わんとする気概のあるチームは滅びかけていた。
敷かれる一強状態。
その一強状態に革命を起こすべく結成されたチームがあった。
名を【Iroas Killings】。
チームの目的は【Argonauts】を倒す事。
老若男女関係なし、素行不良は問わない、プロアマ問わずどんな人間でも入団可能。
試合に出場できるのは、戦績の良い上位5人のみという完全実力主義。
【Argonauts】を公式大会で倒せば、給与を払うという成果報酬型の契約だった。
「結局のところまあ、倒せはしなかったんだが───良いとこまで行ったんだよな」
「へぇ───なんだか、別の世界の話みたいですね」
「まぁな、E-sports自体、今ほどきっちりビジネス化してなかったし、無法地帯的な側面もあったんだよ」
「なんつーか……なんだか、語り口がいつもの牌ドラさんじゃねぇっすね、真面目すぎるというか、いつもならもう少しアホっぽい感じで話すじゃないっスか」
「あ? シレン、おめー後で覚えとけな!?」
まあ、しかし、アイツとランドマークが隣というのは因縁めいたものを感じる、久しぶりに現れたアイツに、思うところがないと言うのは無理がある。
全盛期のアイツに一矢報いようと、こちらも死ぬほど足掻いていた過去がある。
後一歩届かず敗れ、絶望し、諦めたプロゲーマーとしての自分。
早々にストリーマーに転向し、今の地位がある。
俺はこの選択を後悔したことはない。
だがしかし、たまには良いのかもしれない。
この大会、いつも通り賑やかしに徹しようと思っていたが、気が変わった。
「おい、2人とも、今回の大会本気出して良いか、ケイ郎とは全国大会決勝で殺りあった以来なんだ」
正直、ブランクはある。
あいつの足元にも及ばないかもしれない。
だが、試さずにはいられない。
そんな俺の熱が伝わったようで、toppo君とシレンは、いつになくやる気に満ちた声で返答してきた。
「若輩者ですが、オーダーは任せてくださいよ」
「へいへい牌ドラさん、ちゃっちゃと勝とうぜ」
こうしてチーム『大三元』は始動した。
初めてきちんと俺の過去に触れた視聴者が多いのだろう、騒然とするコメント欄。
俺のメイン視聴者は小中学生だ。
いつもなら煽り合いや鳩、連投の飛び交う民度の悪いコメント欄。
良い機会だ、ネットでキチゲ解放おじさんとして失墜した俺の名誉も、まとめて取り返してやる。
「おい、視聴者のキッズ共、今日からお前ら、二度と俺を馬鹿に出来なくなるぜ」