追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話   作:山かけうどん

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2話:井赤 孫一の策略

 ───ああ、これで「Argonauts」は完全に俺のものだ。お前らと出会った時から、俺はこの未来を待ち望んでいた。

 

 半年と1ヶ月前、俺、井赤 孫一は、ケイ郎こと成雄(せいゆう) 英作(えいさく)をチームから追い出した日、そう思いほくそ笑んだ。全く、我ながら惚れ惚れするほどの手腕だ。

 

 プロゲーミングチーム「Argonauts」には4人の創設メンバーがいた。俺、英作、暮男(くれお)瀬砂(せすな)という4人の男だ。

 

 俺以外の3人は選手で、英作がケイ郎、暮男がヘラヘラクレス、瀬砂がPERUという名でプロゲーマーとして活動していた。

 

 俺は何をやっていたかというと、オーナーをしていた。活動資金を作るためのネットショップ運営やグッズ販売、彼らのプロとしての活動に関する事務処理、イベント参加等の仕事依頼の窓口、その他諸々の雑務をしていたのだ。

 

 何でそんなことしていたかって?思ったのさ、こいつらは使えるって。

 

 俺は大企業の社長の孫だ、だが、親たちは俺に会社を継がせる気が無いらしく、無能な兄貴に継がせる気だ、ふざけるな。

 

 そんな親を見返してやるため、何か実績を作ろうと、当時大学生、20歳になったばかりの俺はその手段を探していた。できればより大きいものがいい、兄が家を継ぐ前までには何とかしなければ。

 

 そんな時、当時まだ未開のビジネスだったe-sportsに出会った。なるほどプロゲーマー 、ゲームで金を稼ぐなんて夢があっていいじゃあないか。民衆は馬鹿で、馬鹿どもは夢とか理想とか、或いは幻想だとか、そういうものを自ずと求めるものだ。利用しない手はないだろう。

 

 思い立った俺は、当時最人気e-sportsゲームタイトルだった「Exterminate」というゲームで、トップランカーだった3人にプロにならないかともちかけた。それが「Argonauts」の始まりだ。

 

 3人は期待通り金のなる木へと瞬く間に成長してくれた。水を得た魚のように、寝る間も惜しんで1日のほとんどをゲームに費やし、血を吐くまで練習し、世界大会優勝まで漕ぎ着けてくれた。当時は震えたさ、やはり俺は有能だったのだ、駒を選び抜く目があると確信した。

 

 彼らが1回、もう1回、また1回と勝つたびに、日本のe-sports観戦コミュニティも拡大していった。

 

 おかげでイベント参加のオファーや雑誌の取材、講演の依頼が沢山きたし、グッズも売れ、その勢いは止まることを知らなかった。

 

 もはや日本のプロゲーミングチームは「Argonauts」一強とまで言われ、一種のブランド力を身につけたのだ。

 

 そしてちょうどこの時だ、俺が3人に見切りをつけたのは。

 

 FPSというゲームジャンルにおいて、プロゲーマーとして最も理想的な年齢は10代と言われている。

 

 おそらく今が、彼らの全盛期だろうと俺は思っていた。後は廃れていくだろうと。だから次の段階へ移行した。俺は後進の育成に力を注いだのだ。

 

 今考えても悪くない判断だったと思う。だが、なかなか彼らを超える駒は現れなかった。せっかくチームに入れてやったのにロクな結果を残さず、だらだらとチームに居着く馬鹿どもしかいなかった。俺はこの世代の奴らを「無能世代」と名付けている。

 

 時間が経つにつれ、俺の危惧していた通り、伝説は過去のものへとなっていった。3人は20代後半になり衰えた。知名度は下降し、人々から忘れ去られていき、チームは没落していった。

 

 チームの没落と共に、日本で盛り上がりつつあったFPSのe-sports観戦コミュニティも、だんだんと落ち目になっていった。結局のところ、日本では「Argonauts」一強で、それ以外の日本チームは世界では大した結果を残せずじまいだった、「Argonauts」だけが、世界と渡り合えていたからこそ起こった熱狂だったのだ。

 

 そして遂に、3人のうちの2人、ヘラヘラクレスとPERUが脱退した。俺は焦りを感じていた。

 

 だがそんな時、俺に風が向いてきた。若い世代の台頭だ。彼らは小学生の時3人に憧れていた者達だった。そしてその実力も、世界のトップに引けを取らなかった。

 

 安泰だ、と思った。これからも「Argonauts」は躍進することができる。

 

「生き残ったぞオオオオオオオ!!」

 

 新世代である彼らが結果を残すたび、俺は近所の河辺で歓喜に打ち震え叫んだ。だが、まだ足りない、まだ足りないのだ。

 

 この10年間で、プロゲーマーの有りようも変化していた。大会で結果を残し賞金を得るよりも、メディアやイベントへの露出をし、タレントビジネスとしての側面を強く押し出したほうが、経済的に成功できる確率が大きいのはもはや自明の理であった。

 

 実績ならば、履いて捨てるほど過去チームに在籍していた駒たちが作ってくれた、ならばその遺産にすがり、甘い汁をしゃぶり尽くしていこうではないか。ならば、もう世界最強だのもっと上手くなりたいだのというくその役にも立たない夢には何の価値もない。

 

「ケイ郎……嫌、成雄 英作クンといえばいいかな? 急な報告で本当に申し訳ないんだけどさ、君には今期いっぱい……明日で引退してもらうね、君との契約は打ち切りだ、思い当たる理由、いーっぱいあるだろう?正当な理由があれば契約はこちらから一方的に打ち切れるって、この前契約書に追加させてもらったよね?」

 

 俺は創設メンバーであり、チームの中で後輩の支持を集め、俺以上に発言権を持ちつつあったケイ郎を適当な理由をつけて追放した。

 

 路線変更を反対されるだろうと思ったし、奴らが一致団結して俺に歯向かってくるようなことがあれば脅威だ。それに、もう以前の栄光も風化し、半分コーチをしながら現役でプロを続け、頑張ってはいるものの、言っちゃ悪いが才能はもう枯れていて、抜け殻、クズだ。いなくなったところで俺にデメリットはない。

 

 むしろ、このまま何処かで静かにのたれ死んでくれと切に思う。奴の人生はゲームだけのお気楽人生だ、きっと雇ってくれる会社もないだろう、あったとしてもブラック中のブラック、ロクなところではない。

 

 ま、そうやって人生を曲げさせたのは俺だが、そのことに対して特に謝罪する気もない、むしろ感謝してほしいな、俺のおかげで望んでいた世界一とやらに一度でも輝くことができたのだから。

 

 「ケイ郎」を手筈通りに脱退させた俺は、チームメンバーに適当な理由をつけて納得させた。

 

「ケイ郎君は、この業界に嫌気がさしたらしくてね、新天地で頑張ると言って、張り切って出ていったよ」

「そんな……それなら一言ぐらいあっても」

「ケイ郎君も思い悩んでいてね、決心が揺らがないよう、君たちに言葉を残すこともしなかったんだ、だからその決心に水を差さないよう、君たちも彼に連絡しないほうがいい、彼のことを慕うのなら尚のことだ」

「……そうですね、皆にもそう伝えます」

「……慰めるわけじゃないけれど、ケイ郎君も君のような忠実な教え子を持って鼻が高いと思うよ、Hekto君」

「……ありがとうございます、それでは失礼します」

 

 全ては完璧に動いていた。思惑通り俺は、チームの大会への参加回数や、練習時間など無駄なものを減らし、空いた時間にネット番組への出演、新作ゲームのPR案件などの金を集められる仕事を入れ、若いプロゲーマーたちを売り出し始めた。

 

 そして今に至る。計算違いのことが起きていた。

 

「クソッ!! 何で仕事が全然回ってこないんだ!!」

 

 イベントやメディアに対して力を入れていたはずなのに、結果、以前より仕事が回ってこなくなった。一体なぜなのか、うちのメンバーが演者として出たネット番組や配信を見返せば、答えは明白だった。うちのメンバーは置物になっていたのだ。頭を抱えた。

 

 俺はメンバー全員をチームのシェアハウスにあるミーティングルームへ呼び出した、県外など遠い場所に住んでいるメンバーはリモートで参加させた。

 

 俺は彼らの番組をモニターにフルスクリーンで流しながら、怒鳴った。

 

「お前ら喋れええええ!!面白いこと言えや!!」

 

 その声に、1人のメンバーが口を挟んだ。チームのお荷物、「無能世代」のリーダー格の人物だった。

 

「お言葉ですが、俺たちはプロゲーマーですよ? そんなこと求められても……」

「うるせえ無能が、ろくな結果も残さねえで何がプロだ!!」

 

ーーー

 

「あーあ、ちょっと怒鳴っただけですーぐやめていくとはね」

 

 数日後、俺は書類を処理していた。

 

 今月に入って三人目の中途解約。

 

 ケイ郎を追放してから、毎月のように人がやめていく。気がつけばケイ郎を追放する以前の半分にまでメンバーの数が落ち込んでいた。

 

 ま、抜けてったのは全員無能世代の奴らだからいいけどね。

 

「はあ、まあいいさ、あの4人がいれば後は雑兵、いくらでもやめていけばいい」

 

 4人……新世代の俺の愛しい駒たちだ。俺は壁にかけている写真をうっとりと眺めた。

 

 昨年行われた日韓大会の優勝写真、そこにはケイ郎と共に写った4人の少年たちがいた、元ケイ郎のチームメンバーだ。その誰もが、実力、カリスマ、メディア映えする容姿、そのいずれかを有している。

 

 Hekto君、レピオス君、REX君、あぽろ君。

 

 特に、Hekto君とREX君はいい。何しろ、あのケイ郎の教え子で、彼に強い憧れを持っている。彼らが真実を知らぬまま人生を投げ打ち、俺の駒となっていくのは強い愉悦を感じざるを得ない。

 

 今頃、ケイ郎はどうしているだろうか、もう死んでいたりしてなあ。

 

 写真の額に光が反射し、俺の表情が見える。そこに写っている俺の口は完全に歪み切っていた……いかんな、俺としたことが。

 

 仕事を進めねば、俺は気を取り直し、書類の処理を終え、仕事依頼メールのチェックを進めたのだった。

 

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