追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
時は遡り配信前、俺たちはお互い軽い自己紹介をした。そこで2人から聞かされた情報を簡単にまとめるとこうだ。
星猫ひかりはVRise所属で、星猫らいとの姉という設定を持つ、ゲームが得意な猫耳黒髪Vtuberである。魂は現役高校生らしく、星猫らいととはお互い住んでいる場所が離れていて、リアルイベントで顔を合わせるくらいであまり会ったことはないが、同級生であり親友で仲は良好。
そんな彼女の性格は視聴者曰く、一言で言うと「やべー女」らしい。
「ケイ郎さんって、なんか呼びづらいですね」
「え?」
星猫ひかりとの初の会話はそれであった。俺が敬語で挨拶すると、「なんか落ち着かないのでタメ語でいいです」との事だったのでそうすることにした。
「なんか、いい呼び方ありますか?」
「好きに呼んでくれ」
「好きにかぁ……考えておきます、それと、らいちゃんがお世話になってます!」
……なんだ、嫌な予感がしてたが、礼儀正しい普通の子じゃあないか。
通話に入ってきた直後、唐突に赤ちゃん言葉を話し始めたので何事かと思ったが、これなら普通にやっていける気がする。
……普通にやっていけるよな?
それはそれとして、呼び方に関しては俺も聞きたいところだった、なんせ2人とも星猫なので、どう呼び分ければいいのやら。
「気軽にひかりで!」
「……同じく、らいとで」
「いや、距離感」
……視聴者目線、いきなり現れたおじさんが、推しのVtuberをファーストネームで呼び捨てにしていたらどう思うだろうか。反発もすごかろう。俺は考えた。
「星猫
……うん、これなら、視聴者の反発も最小限に止まるだろうな。
俺がそう思っていると、星猫姉妹から抗議の声が上がった。
「ひかりで!」
「……らいとで」
「だからハードル高いって!!」
「ひかり!」
「……らいと!」
強情だな!こいつら!
「ああ!わかったわかった!星猫姉、星猫妹!さん付けはとった!これでいいだろ!」
「全然わかってないじゃないですか!!ひかりです!!」
「……らいと!!」
結局、俺は数分間の攻防の末、2人を星猫姉と星猫妹と呼び分けることになった。この呼び方にする理由を懇切丁寧にしたら、渋々納得してくれた……やべえ、めっちゃ疲れた。
俺はもう、緊張とかそれどころではなく、配信が始まる前からダウンしていた。
やがて時間になり、俺たちは配信をスタートさせる。
「どうもこんばんは〜、VRise所属ライバー、星猫 ひかりです!」
「……VRise所属ライバーの、星猫らいとです」
「……ケイ郎です」
コメント:待ってた
コメント:こんばんは
コメント:おじさんもっと声出せ!!
うーん、挨拶はこれでいいのだろうか、てか、2人とも裏ではあんな感じなのに、配信が始まるとやっぱり、住む世界が違う人たちなんだと実感する。
「今日は3人でコラボです……らいちゃんは言うまでもなくお馴染みですけど、ケイ郎さんのことについては知ってますか?」
コメント:前から知ってる
コメント:昨日知った
コメント:らいちゃんの雑談で知って、昨日初めて話してるとこ聞いた
うん、そりゃあ俺の枠に来ているあなたたちは知ってるでしょうね。ああ、向こうのコメント欄の反応が気になって仕方ない、どういう受け止め方をされているのだろうか。それにしても、俺の枠にくる人も昨日から一気に増えたな、3百人以上って。今やチャンネル登録者も1千人に届こうとしている、人気Vtuberの力ってすげえな。
そう感心すると同時に、同時に少し悲しくなった。
俺が過疎配信をしていた時から見てくれていたあの人は、今日も見てくれているのだろうか。
コメントしてくれているのだろうか。
コメントを拾おうとしてももう、このコメントが流れる速さじゃ、流れに押しつぶされてしまうだろうなと思う。
……なんだか、いなくなってしまったみたいで寂しいな。
まだ、謝れていないのに。
俺が感傷に浸っていると、星猫姉が話を振ってきた。
「へぇ〜!意外とみんな知ってますよ、ケイ郎さん!」
「そうなのか?」
ほう、それは意外だな。まあ、考えてみれば星猫姉妹はゲームが上手いことを売りにしているライバーだし、それ関連の話題に詳しかったり興味のある人が見ているのだろう、だとしたら、昔の俺を知ってる人もいるか。さっきのコメントから察するに、星猫妹も度々雑談で話題に出していたみたいだしな。
……だとしたら、何であんなに俺の配信は過疎っていたんだろうか? よくわからずサムネを自動設定にしてたり、タイトルに「エクスタやります」とだけしか書いてなかったり、SNSをろくに使っていなかったから?
考えを巡らせていると、星猫姉が口を開く。
「じゃあ、知らない人に説明します!!ケイ郎さんはFPS界隈では重鎮の中の重鎮で、伝説のプロゲーマーと言われているお方なんです!!」
……なんか、すごい仰々しいことになっていやがる。
「『格ゲー界隈で言う、○メハラとか、○きどみたいな感じ?』……同じくらいすごいです!!」
「いや、それは絶っっったいない、さすがに盛りすぎ」
俺は必死に否定する。いや、マジでそれはない。俺が仮に伝説だとしたら、あの人たちは神話だ。日本ではプロゲーマーと聞いて、真っ先にあの人たちの顔を思い浮かべる人間が大勢いるだろう。もはや概念と化していると言っても過言ではないのだ。それに比べれば俺なんて赤子のようなものである。
しかも、あの人たちまだ現役だし、普通に今でもトッププロだろ。片や俺はもうとっくの昔に全盛期が過ぎ、ドロップアウトしたただのアラサー無職のおじさんだ、比べるのもおこがましいわ。
「まぁ、そんな感じで、今日は3人でレジェスクをやっていきます!」
こうして始まったコラボ配信は、終始、星猫姉妹のペースであった。
「ケイ郎さん、緊張してる?」
「お、おう、まあ、大丈夫だ」
「……さっき言ったように、もしもの時は私を意識してください」
「お、おう」
「え! なになに? どういう関係!?」
「そういう関係」
「いや、言葉足らなねぇよ星猫妹、まじで誤解を生むからやめてくれ。実は────」
そして現在、1時間が経つ頃には、俺は限界を通り越していた。
「そうだ! 呼び名なんですけど、英作さんでどうです?」
「いやそれ本名な、 確かにググれば出てくるけどさ……」
「ググる? ってなんですか?」
「え? 知らないの? まじ? これがジェネレーションギャップ?」
「ぐるぐるって事ですか?」
「……ぐるぐる〜」
「いやてか、星猫妹、視点移動速!!感度高すぎだろ!!」
「……振り向き2センチ」
「英作さん!!女の子に対して感度高いとかいうのはエッチだと思います!!」
「いや、まじで言葉狩りやめろ!!あと英作さんって呼ぶな!!」
コメント:セクハラじじい
コメント:まじで草
コメント:これが伝説のプロゲーマーさんですか……
この世界は狂っている。
配信が終わった時、俺は精神的ダメージにより立つことができなくなっていた。
胃が……。
「英作さん! また明日やりましょうね!!」
……ええ? また明日ぁ?
リアルに寿命が縮む感覚を味わいながら、俺は絶望したのだった。
ーーー
「Argonauts」所属プロゲーマー、Hekto。ケイ郎のチームメイトであり、教え子であった彼は戦慄していた。眼前のモニターに映し出されているのは、とある配信だった。
『ねえ見て! 英作さんが走ってる!!』
『おい!! なんで走ってるだけで笑うんだ星猫姉!!』
……ケイ郎先生。
────約半年間、音信不通だった、我が敬愛する師、到達点、自らが最も憧れる人物。
もう二度と関わる事ができないと思っていた彼がゲーム配信をしているとさっき聞いた時、居ても立っても居られず、俺はすぐに仲間から送られてきたURLを開いた。
彼の声を聞いた時は、うれしさからつい涙ぐんでしまうほどだった。
『ちょ、俺が拾おうとしたアイテム拾うな!!』
『欲しかったら、猫のモノマネしてくださいよ!!』
『やだよ!!』
だが────なんだこれは、若い女性2人にいいように扱われているではないか!!
コメントではセクハラじじいとまで言われる始末である。
なんという事だ────そんな、ケイ郎先生……俺たちに何も言わずチームから出て行った、あなたが目指した新天地は、これだというのですか。
Hektoは決心した、ケイ郎先生を、問い詰めなければいけないと。たとえそれが、彼の意思に背くとしても。
彼の手に握られたスマートフォンは、既に呼び出し音を鳴らしていたのだった。