追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
6話:狂信者
19歳。
大学生(休学中)プロゲーマー。
プロとしての活動名はHekto。
……そしてケイ郎先生の教え子。
それが、俺という人間のすべて。
小学生の時から、先生の背中しか見てこなかった。
憧れだからだ、彼のようになりたいと本気で思っている。
しかし、彼は俺達を置いて、何処かへ行ってしまった。
……ケイ郎先生が、チームからいなくなって半年が経つ。
俺達ケイ郎先生の元チームメイトは、エクスタのプロを引退し、別のゲームのプロとして今も活躍している。
だが……俺達は荒れる一方だった。
「Argonauts」練習部屋。強力なネット回線にハイエンドPC完備……そして部屋に存在する。机や椅子、ヘッドホン、マウスパッドに至るまで、全ての物が俺達のチームのスポンサー企業が生産しているゲーミング用品であり、その企業のロゴが入っている。
未来感のあるサイバーチックな統一感のあるデザインで、使用時やたらと光るものが多いことから、部屋の中は常に非日常感がすごく落ち着かないという事が選手の間で度々話題に上がるが、俺はもう慣れてしまったのでどうという事は無い。
そんな場所にいる俺たち、4人の間には、異様な雰囲気が漂っていた。
俺たちのチームは毎日20時〜22時にかけて、他チームとプロアマ混合のスクリム(練習試合)を行なっている。
そしてその後、反省会を行うというのが基本の流れとなっている。
現在は反省会、チームで改善点を出し合う時間であった。
「おいREX……さっき落としたラウンド、A地点にエントリーする時、俺の合図を待たずいきなり突っ込んでったよな……タイミングは俺が指示を出すと打ち合わせしたはずだろ」
「悪かったよ、でもHekto……最初に相手に撃ち負けたのはキミだろ」
「……それはお前のカバーに回ったからだろうが! お前が独断で先行しなければ俺も死ななかった」
「……勝つにはあのタイミングしかなかった、意図を口で説明する時間が惜しかったんだ、すまない、そこまで言うなら、役割変わるかい? キミがオフェンスで、俺がサポーターに回ってもいいよ」
「……それは」
「……キミ、俺の指示に着いてこれないじゃん、だからこういう編成にしてるんだろ」
「……じゃあ、作戦を無視するなよ」
「……俺は誰かと意見が対立した時、俺より上の人間にしか従わないよ、より正確な判断ができる人の意思に従うべきだと、俺は思ってるからね」
「……なあ、わかってんのか?遊びでやってるんじゃねえんだぞ、お前が従ってくれないと練習にならないんだ、独断で動くなよ、俺たちはプロだろうが!!」
ゲーミングハウスの練習部屋は、元々がそこまで大きい部屋ではない。
それに輪をかけて、キーボードやモニターなどを置くための長い木製の机が壁沿いに置かれており、行動範囲を狭くしている。足元には、PCの本体や配線が整然と並んでいるため、あまり大雑把な行動もできなかった。
そんな窮屈な場所に似つかわしくないほどの大きさで吐き出された俺の怒号に、REXは静かに反応した。
「……でもさ、自分の成長を停滞させてまで、味方に遠慮して、配慮して、付き合って、気を配ってって……それ、果たしてプロって言えるの? 俺たちは、仲良しグループじゃ無いんだよ、Hekto」
「だからって、連携を乱していい理由には……」
「俺たちは遊びでゲームをやっている訳じゃない、俺たちは勝つためにここにいる、勝つために必要なこと、何か知ってる?」
「は?そんなの決まってるだろ、チーム一丸となって……」
「違うよHekto、もっと根本的なことさ」
「根本的なこと?」
「敵を全員キルして、先に10ラウンドをとること……チームの連携だの、1人1人の成長だのはその手段に過ぎないんだHekto、だから俺は最終的に、1人で全員キルして、その上で10ラウンド先取できるようになりたいんだ」
「は?」
「そして、みんなにもそうなって欲しいんだ、1人だけで試合を完結できるプレイヤーが4人いれば、勝率も4倍だし、最強だと思うんだけどなあ」
「……お前、それ本気で言ってるのか?」
いくらなんでも超理論すぎる。
「本気も本気、超本気だ
だからHekto……君の生温い仲間ごっこに、付き合っている暇はない、僕は早く、1人でも試合に勝てるように成らないといけないから……その為に、成長していない時間を作りたく無い」
「お、お前は……」
「ちなみにHekto、最近分かったんだけどさ……俺、今の君とプレイしても、もう成長しないみたいだ」
くそ、なんなんだこいつ。
頭のネジが飛んでいるどころの騒ぎじゃ無い……もっと何か、人としての大切な何かが欠落しているんだこいつは。
しかし……何も言い返せない。
どんな言葉も論理も、彼の前では塵と化す。
彼が俺よりも圧倒的な力と才能を持っているからだ。
プロゲーマー、REX……俺の師、ケイ郎先生のもう一人の教え子であり「最高傑作」と目される男である。
銀髪の天然パーマに、印象に残らない顔だち。その瞳は常にどこか遠くを見据えており、表情は無表情で、何も考えていないと言われれば納得できるし、その逆だと言われても納得できるような、そんなふわふわとした印象だ。
しかし、そんな掴みどころのない彼の次に放った一言は、相手に突き刺さるような鋭い言葉だった。
「……さっきも言ったけど、僕は成長してない時間を作りたく無いんだ、君とプレイしても成長できないからさ、かわりに誰か強そうな人呼んできてよ、俺はその人と練習するからさ」
「……お前!!」
思わず、俺はREXの胸ぐらを掴んだ。
REXはその無表情を変えることなく淡々と言った。
「……別に、キミのことを弱いと言ったわけじゃない、キミは強いさ、努力を人よりするし、真面目で悪いところはすぐに改善するし、何よりいいヤツだ、でもね、君は俺よりプレイにおいて優れているところがもうない、よって俺の成長の糧にはならない、だから、君はいらない」
「……」
「でも、人間として、俺にとって君は親友だ……だから、険悪にはなりたくない、厳しいこと言ってすまないな、Hekto」
「……都合が良過ぎだろ、そんなの」
俺はREXの真意を理解し手を離す……こいつのこういう所が、昔から嫌いだった。
言われなくても分かっているさ……俺が無才で、お前が天才だってことくらい。劣等感すら、今は感じない。
REXは俺を慮ってくれはしないが、認めてはくれている、今の言葉だって悪気はなく、ワードのチョイスこそ最悪だが、俺を思って出た一言だということは昔からの付き合いで分かっていた。
いっそ見下されていた方が良かったんだ……だからこそ、惨めになる、夢を諦めきれない自分が。
───幼少期の頃だった、何となくネットを見ていて開いたゲームのプレイ映像が、俺をこの世界に駆り立てた。
『お──ッと!最終局面!お互いの読み合いッ!見えた──!あと一発!あと一発ッ!』
───何気なく触っていたゲームに、こんな世界があるのかと震え上がった。
『ああッ───!!やりました!やりましたッ!この男たちがやってくれたッ───「Argonauts」!世界選手権制覇!日本FPS界史上初の快挙、その瞬間ですッ!!』
───俺も、こんな風に笑えたら……どんなに気持ちがいいだろうか。
『カメラへ向けて満面の笑みだッ───PERU、ヘラヘラクレス、そしてケイ郎!!今世界一は───この3人の若者たちの手の中に存在しているッ!!』
俺に才能がないってことくらい、俺が一番分かっている。
でも───諦められないんだ、あの日見た光景が。
「……頭、冷やしてくる」
……見つめてくるチームメイト達、俺は無言で部屋を後にし、近所の公園へと向かった。
ブランコに座り、夜風に当たっていると、頭に登っていた血が引いていくのを感じる……そんな時、ふと、突然いなくなってしまった敬愛する師の顔が浮かんだ。
───ケイ郎先生は、こんな時、なんて言うのだろうか。
もう会えない人のことを考えても仕方がないと理性では分かっているはずなのに、考えずにはいられなかった。
そんな時だった。
チームメイトのあぽろから、ケイ郎先生がゲーム配信をしていると、スマホにメッセージが来た。メッセージには、共に配信へのリンクが添えられていた。
俺はその意味を理解した瞬間、URLを開いていたのだった。
ーーー
星猫姉妹とのコラボ配信が終わり、ぐったりと机に突っ伏していると、スマートフォンが音を鳴らし、振動しているのに気がつく。
「誰だよ、こんな夜中に電話なんかかけてくる奴は……」
俺はゆっくりと顔を上げスマートフォンを確認し……その名前の通知を見て驚いた。
「Hekto!? なんで今、お前が……」
彼は俺の元プロゲーマー時代のチームメイトだったのだ。
俺は井赤に告げられたことを思い出す。
『チームの路線変更には、大部分のメンバーが賛成していてね、キミのチームメイトのみんなも含まれるんだ……』
その時は衝撃だった、あいつらが賛成などする筈が無いと思っていたからだ。だが、聞いてみればそれは自然な理由だった。
『彼らはたまに僕に相談しに来るんだ……ケイ郎さんを何とかしてくれ、俺たちの時間を奪わないでくれって……可哀想とは思わないかい? 彼らのような才能を持つ新世代の若者が、旧世代のオワコンゲーであるエクスタに若い時間を吸われているんだ、もっと流行りのゲームを専門にすればさらに花開くこともできるのに……他でもない、君に、彼らは付き合わされているんだよ?』
俺は、彼らが俺とプレイしたいと言ってくれることに、何の疑問も抱いていなかった。
彼らの不信感に気がつけないなんて……チームメイトとしても、コーチとしても、失格だ。そう思い自分を責めた。
俺があっさりと追放を受け入れたのはそういう理由も関係していた、そして、昔のメンバーたちと連絡を取っていなかったのも、それが原因だった。
それが……なんで、今になって電話をかけてくるのだろうか、疑問に思いながら、俺は電話を取った。
「もしもし?Hektoか?」
「……ケイ郎先生は、女に振り回されたりなどしない」
「は?」
ん?なんて言った?こいつ。
「……ケイ郎先生は、常に余裕を持った大人でなければならない」
「もしもし?」
どう考えても様子がおかしい、俺の声が届いていない!!
「……ケイ郎先生は紳士でありィ、セクハラじじいなどではない!!」
「もしもし!?おい!Hekto!?」
……こうなったらもう、叫ぶしかねえ!!
「ケイ郎先生はァァ!!ネコの物真似なんてしないィ!!」
「落ち着けええええええ!!Hektoォォォォォォ!!」
「ケイ郎センセええええエエエエイィ!!あれがあなたの求めた新天地イイイイィィ!?」
……後から思えば、俺たち二人はこの時、いろいろなことが重なって壊れていたのだと思う。
ーーー
「……ケイ郎クンが、Vtuberとコラボ? へぇ、別に興味ないけど」
……のたれ死んでなかったか、クソが。
夜もとうとう深くなろうという時間、「Argonauts」事務所、ゲーミングハウスの近隣に設けられたその場所で、井赤 孫一は向けられたスマートフォンに一瞥もせずに、パソコンでメールのチェックをしていた。
「そっか……ケイ郎さんが新天地で頑張る姿、井赤さんにも見せたかったんだけどなあ」
あぽろはどこか残念そうに俯いた。彼の端正な顔は、どこか影を帯びていた。
その表情は彼の肩まで伸びた綺麗な黒髪、そして滅多に日光に当たらない故に焼けていない色白の肌も相まって、見る人によっては物憂げな美少女だと勘違いしてしまう者もいるであろう。
あぽろの言葉を意に介さない井赤だったが、言葉を聞いたその瞬間、マウスを動かす手を止める。
「(待てよ……あいつ、変なこと言ってないだろうな)」
別に何をしてもらっても構わないが……稼ぎ頭の4人に、ケイ郎の真実がバレるとヤバイ。
もしものことがある、今後は4人の情報統制もしっかりしなければ……とりあえず、今打てる手を打っておこう。
井赤は話し出す。
「あぽろクン、ケイ郎クンの最後の意思を忘れたのかい?」
「ああ……ボクは連絡しないし、関わるつもりもないよ」
「それでいい、彼の意思を絶対尊重するように、みんなに伝えるんだよ?」
「はいはい、りょうか〜い」
あぽろは手をひらひらと振った。
よし、これで問題ないだろう。
なんせ、4人らはケイ郎さんの為だと言えばその忠誠ゆえ、絶対に彼の願いを守るのだから。
特に、Hektoは真面目で優等生なので、裏切る心配は皆無である。
フフ……全く、扱いやすい駒だ。
「それよりも……あぽろクン、今度行われる、レジェスクのエンジョイ大会についての話なんだが、聞いてくれるかな?───」
ああ、間違いない、俺はこの4人の才能を手放さない限り、依然として、この「Argonauts」の王であり続ける。
井赤 孫一は嗤った。