追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話 作:山かけうどん
「良いかいあぽろクン……2週間後に行われる『超絶ストリーマーカップ夏の陣』では、君達4人に結果を残して貰わなければ困るんだ、マジで取り組んでくれよ」
俺は彼に向かって、笑顔でそう言った。
『超絶ストリーマーカップ』とは、レジェスク公式が主催する大会である。
『春の陣』『夏の陣』『秋の陣』『冬の陣』と、年4回行われるのだが、大会の名前から分かるように、ただの大会ではない……大会参加者の1人1人に至るまでが、有名人や著名人なのである。
開催回数は2桁を超えており、初期はネットを主に活動場所とする有名Youtuber、Vtuberなどのインフルエンサーが主な参加者だったが、現在では歌手、アイドル、芸人……果ては漫画家に至るまで、様々な人間が一堂に解し、ゲームに真剣に取り組み、一番を決める……そういう大会になっている。ストリーマーカップという大会名、もうそろそろ変えたほうがいいんじゃないか?と俺は思う。
大きい賞金などが出るわけではなく、真剣とはいえあくまでエンジョイ大会、レジェスクというゲームの知名度向上や、参加者達の交流に重きが置かれており『全員が楽しむ』ことが前提条件だ。
そして、以上のことから、チーム間で大きな実力差が出ないよう、ある程度の戦力の担保として各チーム、プロゲーマーや実力者を1人招待して良いことになっているのだ、招待する人脈がないのなら、大会運営に申請すれば適当なプロや実力者を当てがってもらえるような仕組みもある。
うちに依頼が来たのは実力者の派遣、人員を確保するのに協力してもらえないかというものだった、俺はそれを快諾し、目をかけている4人を大会に参加させることにした。
「えー、でもさ井赤さん、エンジョイ大会なんでしょ?、ボク達が本気でやる必要なくない?」
だがもちろん、楽しむ、などという目的のために貴重な時間を削り、4人をエンジョイ大会に助っ人として送り込むわけでは無い。ちゃんと狙いがあるのだ。
「ここで活躍すれば、チームと君達選手の注目度が一気に跳ね上がる、それらは今後のイベントへのオファーや、グッズの利益、メディアの出演に繋がる」
エンジョイ大会というのが大前提ではあるが、参加者達が真剣にゲームに取り組み大会に臨む姿は普段ゲームに触らない層にも反響を呼び、毎回のように熱い応援が飛び交っている。『esports観戦』という文化を日本に定着させつつあるその大会の注目度は、回を重ねるほどに上昇していた。そしてその大会で活躍した選手は、今後の界隈での立ち位置が変わるくらいの名声を手に入れていた。
今、うちのチームには仕事があまりこない状況だ。この危機を脱するため、この大会を利用しない手はなかろう。
「ふーん、そういうことかあ……でも、そう一筋縄にいくかなあ……ボクら以外にもプロの人達、いるんでしょう?」
「君たちの右に出る者などいないよ」
「そうは言っても、ボクたちはレジェスクのプロじゃないしなあ」
「『趣味で』やってはいるんだろ? 4人のランクはいくつなんだ?」
「全員、最高ランクのオーバーテイカーだよ」
「なら問題ない……必ず結果を残してきなさい、君たちには、勝利以外の選択肢はないのだからね」
レジェスクのプロではなくとも、彼ら4人は並のプロゲーマーとは格が違う。4人が上位に上がってくるのはまず間違い無いと言って良いだろう。
───色々と、仕込みもしてあるしな。
「まあ、頑張ってみるよ」
「ああ、みんなにもよろしく言っておいてね」
「はーい」
あぽろはにこ、とまるで少女のような笑顔で同意を示す。そして踵を返し、その肩まで伸びた黒髪をなびかせ事務所から出て行った……はあ、彼は相変わらず女々しい容姿をしていてうんざりするな、その低身長も相まって、本当に女のようだ、男なら男らしい格好をしろってもんだまったく。
ーーー
俺の大声により、Hektoは冷静さを取り戻したようだった。自分が怒っている時に自分より怒っている人を見ると冷静になれるというアレが働いたのだろう、やはり、化け物が自分に向かってくるのなら、こちらも化け物にならなければ、この世界は生きていけない。
「取り乱してすいませんでした、先生」
「いいんだHekto、気にしてない」
さて、落ち着いたところで本題に入る。
「で、なんで今、電話をかけてきたんだ?」
「───配信、見させてもらいましたよ」
「あ、そ、そうか」
「若い女性2人に良いようにされてましたね」
「そ、そうだな」
うん……なあ、神様、俺なんか悪いことしたかな?
心の底からそう思った。
Hektoはプロゲーマー時代の元チームメイトであり、同時にコーチをしていた少年である。
仮にもコーチをしていた当時はチームみんなから尊敬されていたし、最年長ということもあり俺はチームの中では威厳を出すよう努力していた。
年上がしっかりしている様子を見せなければ、後輩達が不安になると思ったからだ。それに仮にも俺はプロゲーマーの中では大物扱いされていたし……他のプロスポーツ選手の大物の人達みたいに、テレビで見るイチローとか、松井とかみたいに、堂々と振舞わなければいけないのかなと思っていたのだ。
狙い通り、彼らは俺の事を慕ってくれていたし、模範としてくれていた。
だからこそ……教え子に先程の配信での醜態を見られたという事実が、重くのしかかる。
俺はバカだ、こいつらがあの配信を見る可能性を全然考えてなかった……昔は先輩、コーチだとかいった肩書にかこつけて、後輩たちに少しクサい台詞とかを吐いたこともあったのだ、今までの態度も発言も、明日からチーム内でネタにされるのだろうか、俺の見えないところで。
胃が……。
しかし妙だな……いままで俺への不信感を心の内に隠していて、もう連絡もしたくないんじゃなかったのか?
実際Hektoは半年間俺への連絡を一切してこなかった、あれだけ俺のことを慕ってくれていたのにもかかわらずだ。それは井赤の言葉が真実だったことを裏付けているように見えたのだが。
───Hektoと最初に出会ったのは、エクスタのプレイ中のことだった。エクスタにはランクシステムというものがあり、到達したランクこそがプレイヤーの強さの指標となっていた。
下からルーキー、ベテラン、エリート、プロ、マスター、そして最高ランクのレジェンド。
ランクを上げる方法はたった一つで、ランクマッチで勝つことである。
ランクマッチは実力が同程度の人とマッチングし、対戦を行うゲームモードである。
まあ、当たり前と言っちゃ当たり前なんだが、ランクが上がっていくにつれ、強くなっていくにつれ人口はどんどん減少していくのだ。
一番上のレジェンド帯ともなれば、全世界プレイヤー人口の上位0.01パーセントである。
そんな感じなのでレジェンド帯のプレイヤーたちは、オンラインでランダムにマッチングするとはいえそのほとんどが見知ったプレイヤーになる。
Hektoとは、そのレジェンド帯のランクマッチで出会った。
ある日のこと、サーチ&デストロイというルールのランクマッチをソロで普通にプレイしていると、敵にあまり見かけたことがない名前のプレイヤーがいた。しかもそいつは、猛者のひしめくレジェンド帯でも相当の手練れだった。いったい今までどこに隠れていたんだ……そう思わせるほどに。
そしてなんか、途中から俺しか狙って来なかった、何度もキルされてさすがに俺も頭にきたのでボコボコにわからせた。
その後も何度かマッチングする度俺を集中して狙ってきたので、その度にわからせた。そしたら大人しくなった。
そいつこそが、後に俺の教え子となるHektoであった、後から聞くと当時小学生だったらしい、マジかよ天才じゃん。
数年後、Hektoはアマチュアとして色々な大会で結果を残すようになった、井赤は彼に目をつけチームに勧誘した。
チームメイトとして活動することが決まった時、俺は正直怖かった。あれだけボコボコにした相手だ、俺はもうおっさんになっていて、彼は高校生、何を言われるか、されるか分かったもんじゃない、オヤジ狩りされるかも知れない。
そして、初顔合わせの日になった。
彼の容姿は175センチ前後の背丈をもつ、活発な雰囲気を感じさせる茶髪のイケメンくんだった。
多分大学に入ったら、年上に食われるタイプである。
『大会でもしケイ郎さんの足を引っ張るようなことがあったら、俺はビルからダイブします』
『へ?』
そして彼は爽やかな笑顔で俺にそう言ってきた。冗談かと思った、こんな面白い奴だったのか、とその時は軽い気持ちで流した。
『大会運営、並びに関係者各位!!俺の死を!!ケイ郎さんの1キルにしてくださああああアアアアァァイ!!』
彼は狂っていた、あの言葉は本気だったのだ。メキシコで行われたエクスタの世界選手権で2回戦敗退が決まった後、彼はビルの屋上からマジで飛び降りようとしていた。
これが、Hektoという男なのだと知った。
『おい!! やめろ!! 俺の1キルにしたら俺が殺したみたいになるじゃねえか!!』
『止めないでくださいケイ郎さん!!俺のような才能のない敗者には、価値がないんです!!』
泣き喚く彼は屋上の端に居て、後ろに重心を移動すればすぐにでも落下しそうだった、俺は必死に戻るよう引き止めた。ちなみに屋上は風がバカ強かった。
『うわああっ!!』
『馬鹿野郎っ!!』
必然の如く風に煽られ、彼はバランスを崩した。死の寸前、やはり恐怖が上回ったようでこちらへ手を伸ばしてきて、俺は危機一髪、彼が完全に足を踏み外す前にその手を掴み引き上げる───あまり関係ない話でしかも不謹慎なのだが、俺は日頃から筋トレをしていたので、その成果が出て嬉しい、俺すげえなどとと一瞬思ったりなどした、ごめんクズで。
話を戻すが……確かに、彼とチームを組むうちに、彼にはゲームの才能はないということに気がついた。でも、彼には別の才能がある、もっとすごい才能だ……本人は、気がついていないみたいだが。
とりあえず場を収めなければ、そう思った俺は彼を説得した。
『Hekto、ゲームは負けたって死なない、強くなってまた来年ここに帰ってくればいいだろ』
『無理ですよ!!俺はこれ以上強くなれないんですから!!これ以上どうしろと!!』
叫ぶHektoに俺は言った。
『御託はいい、1人では限界だというのなら、俺がお前を強くしてやる』
『え……』
『……前から思っていたんだよ、お前は俺のようになれると』
『ケイ郎さん……本気ですか』
『ああ───お前は、世界一になれる』
『俺が───世界一に!?』
『そうだ、だから飛び降りるのをやめ、俺の指導を受けろ』
『……ありがとうございます、ケイ郎さん、これからはケイ郎先生……いや、ケイ郎神って呼んで、いいですか?』
『か、神はやめてくれ、せめて先生で』
こうして俺は彼のコーチとなったのだ。
だが、この時世界一になれるとか、強くしてやるとか、言った言葉はほとんどでたらめでその場凌ぎの言葉だった、俺がコーチになってやると言った理由の殆どは帰りの飛行機の時間が迫っていたからで、駄々をこねるHektoを即座に納得させたかっただけである、要は焦っていたのだ。
以前から断り続けていた事を引き受ければ、言う事を聞いてもらえると思った、後から訂正すれば良いや、そう思っていた。
『憧れのケイ郎さんにここまで言われるなんて……俺はもう二度と、世界一のプロゲーマーになる夢を諦めません!!』
訂正しようとしても言葉が出なかった。きらきらした彼の憧れの眼差しを受け、罪悪感で言い出せなかった。
あれ……これやばいんじゃね? 気がついたときには全てが遅かったのだ。結局、言い出せないまま本当にコーチをすることになり、ずるずると時が過ぎた。
……俺への不信感と聞いて、真っ先にそれが思い浮かんだ。彼は気がついていたのか、と。
そりゃ、騙されたんだからチームから追放したくもなるよな、そう思っていた。
それが、なんでこんなことで連絡してきたのだろうか、しかも久しぶりに話したが、彼は以前と全く変わっていないようだった。
そして次の言葉で、俺の違和感は確定的になった。
「あれが、俺たちを捨ててまで貴方が求めた新天地なんですか!!……あなたの意に反する事ですが、一言言わねばと思い」
俺たちを捨ててまで?新天地?意に反する?
……どういうことだ?全て身に覚えがない。
俺はHektoに尋ねた。
「……井赤さんは、ケイ郎先生は新天地で頑張ることになった、突然出て行ったのは決意が揺らがないようにするからで、俺たちはその意思を汲んで連絡するなと言ってきましたよ」
「え?」
「え?」
「……新天地? 俺はそんな事一言も言ってないぞ、井赤は俺をチームから外したんだ、チームメイトは全員俺に対する不信感を持っていて、路線変更についても賛成だったと」
「え?」
「え?」
……何か、盛大な勘違いしているのかもしれない。嫌な予感がした俺達はお互いに、自身の持っている情報をすり合わせはじめた。結果、とあることが分かった。
「……俺たちは、井赤に騙されている」
どう考えても、そう結論付けるしかなかった。