追放アラサー元FPSプロゲーマーの俺に、Vtuber達からやたらコラボの誘いが来るようになるまでの話   作:山かけうどん

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9話:悪夢

 ───悪夢を見た、過去の話だ。

 

 俺はそもそも、小さい頃からずっと1人だった。両親は共働きで、あまり家に帰ってこなかった。人付き合いは苦手ではなかったが可もなく不可もなく、当たり障りのない言葉と空気を読む能力で面倒ごとを回避してきた。運動神経はあまり良くなかった。勉強は少しできたが、学年全体では上の下といった感じで特別、威張れるほどでもなかった。

 

 でも、そんな俺にも誰にも負けない特技があった……それがゲームだった……という、まあ、ゲーマーにとっちゃテンプレみたいな話だ。

 

 あんまり面白味のない過去であることは自覚してる、ので、淡々と話そうと思う。

 

 俺は幼少期から親がせめても、と買い与えてくれた家庭用ゲーム機でいろんなジャンルのゲームをやった。RPG、アクション、アドベンチャー、シューティング、対戦格闘、シュミレーションetc ……2000年代初頭、当時はまだオンラインゲーム萌芽期であり、インターネットが完全には普及していない時代だったのでオフラインの一人プレイゲームがギリギリ主流だった。一本のソフトを擦り切れるほど遊んだのをよく覚えている。ゲームのことなら誰にも負けない自信があった。

 

 そして中学時代、父親の買ってきたパソコンを借りてゲームを遊び始めた。最初はオンラインMMORPGにハマっていたが、次第に時間の拘束が少ないアクションゲームへと移った。

 

 そして高校生となった時───俺の運命が変わり始めた。

 

 稼いだバイト代で、念願のゲーミングPCを購入したのだ……世は2000年代後半に差し掛かり、オンラインゲーム普及期。俺はとりあえずグラのいいゲームがやりたくて、適当に調べてパソコンにダウンロードしたゲームこそが「Exterminate」だった。

 

 俺はFPSと出会った。エクスタにハマった俺は廃人となった、当時は1時間睡眠が当たり前の日常を過ごしていた。大学は進学したが、そこで一人暮らしを開始し廃人化に拍車がかかったため、一年の一学期しかろくに登校しなかった、当たり前だが留年し、後に中退する事となる。

 

 色々な犠牲と努力の末、エクスタのランク戦において俺はランクポイント日本一の座に到達した。そして、すべてが始まったのだ。

 

『キミ、プロゲーマーって知ってるかい?』

 

 当時所属していたエクスタのクランのオフ会に出席した俺は、謎の男、井赤 孫一と出会った。

 

『キミに入って欲しいのは日本でもまだ片手で数えるほどしかない、FPSのプロゲーミングチームだ、名を「Argonauts」と言う』

 

 俺は彼の話に興味を持ち、聞くだけ聞いてみるか、と彼の指定した喫茶店へ向かった。

 

 そこには俺以外に2人の人物が招かれていた。話を聞けば、彼らの正体は俺の知っている人物だった。

 

『……あなたたち2人が、あのランカーのヘラヘラクレスとPERU?』

『……ふーん、お前がケイ郎か、ランクマで撃ち合ったときはもっと性格が悪そうな顔を想像していたんだが……意外と普通だな』

『なんか、初めて会った気がしないな……画面の中じゃよく殺りあった仲だし、それもそうか』

 

 彼らと話してすぐに気がついた───俺たちは、似たもの同士だと。

 外見とか、性格とか、そういう浅いところが似通ってるんじゃなくて……もっと深い所、感情を生み出す元となる、根源的な価値観と言って良いのか、そういうものが彼らとは似ていたんだ。

 

『キミたちには、世界一を目指してもらう』

『ここにいる3人でってことか?』

『……へえ、世界一ってのにはあんまり興味ないが、こいつらとチームを組んでゲームすんのは楽しそうだな、俺はノった』

『少し能天気すぎないか?人生がかかってるんだぜ?』

 

 そして俺は彼の言葉に強く惹かれ、導かれるまま、周りの反対を押し切り……eSportsの世界に乗り込んだのだ、2人の仲間と共に。

 

『ここがお前たちの練習場だ、うちの親が持て余している物置部屋だが、ネットもあるし冷暖房も完備してある、モニターとPCも人数分揃えた、あまり不自由はしないだろう』

『タワマンの部屋とか……初めて来たわ、こんなとこ練習で使っていいのか?』

『てか、今までエクスタのプレイ中はずっと1人で部屋に篭ってやってたわけだから、顔突き合わせてやるのって、なんか不思議な感じだよな』

『これがスケジュールだ、日曜日は休日、それ以外の日は練習だ』

『16時に練習場に集合、軽食の後、18時まで個人練習、それから19時までスクリムに向けての事前研究』

『休憩の後、20時から22時までスクリム、その後小休憩を挟み反省会を24時まで行う、その後は反省会で見つけた課題を改善する為の練習を納得できるまで行う、最長で朝4時まで居残り可……って』

『これ毎日やんのか』

『なんか……思ってたよりヤバいな……』

『このくらい当たり前だろ……キミたちは、“プロ”ゲーマーになるんだからな』

 

 最高の環境を手に入れた俺たちは、それを利用し、血反吐を吐くほど練習した。比喩ではなく、実際に血反吐を吐いた。

 ストレスで胃に穴が開きそうになったし、何度もやめようと思った。

 何度あいつらと喧嘩したかもわからない、殴り合いに発展することも多々あった。

 だけど……俺の人生後にも先にも、あれほど充実した時間はなかったと思う。

 

『プロなら給料も出るよな?』

『……それはスポンサーがつけばの話だ、実績を残さなければスポンサーはつかない、スポンサーがついて初めてプロチームとして認められると言ってもいいね』

『じゃあ、俺たちのチームってまだ厳密にはプロとは認められてないチームなのか?って事はアマ? お前、騙したな井赤!!』

『……人聞きの悪いことを言うなよ、興味があるかとは聞いたが、プロゲーマーにしてやるとは一言も言ってないよ、あとはキミ達の頑張り次第だ、こうして練習場所と、夕食の食費を恵んでいるだろう? 俺がオーナー兼スポンサーのようなものだよ、普通にアマからチームを始めるよりよっぽどいい条件じゃないかい?』

『まあ……確かにな……』

 

 彼らは俺の、初めての「親友」と呼べる人間たちだった。

 

『おいクレス、さっきの一戦、敵とエンカウントしてからエイム合わせてたろ、俺とケイ郎の立ち位置を把握して報告ちゃんと聞いてたらあそこに居るって予測できたんじゃねえのか、そんくらい頭回せ馬鹿』

『撃ち勝ったんだからいいだろうがPERU、逆にお前は予測に頭使いすぎて目の前の事が疎かなんじゃねえか?初弾当てたのはいいが、あれヘッド外れてただろ、ちゃんとエイム練習しとけ雑魚が、狙撃手の名が聞いて呆れるな』

『うるせえ、目にゴミが入ってちょっと手元が狂ったんだわ、てかケイ郎も味方のカバーに意識割きすぎて自分が起点になって攻めるタイミングで一瞬判断遅れてるよな、このリプレイ見る限り』

『確かにそうだな、もたもたしてないでちゃんとしろよ』

『手のかかるグズ2人のせいで踏ん切りがつかなかったんだよ、察しろ』

 

 ヘラヘラクレス……暮夫は俺より1つ上の歳で、ガタイのいい大男だった。活発で豪快な男で、今風に言うならば陽キャだったので、俺と価値観や考え方がまるで違った、ゲームも一生懸命打ち込んでいた野球の部活動が怪我で出来なくなり、その消化不良感を晴らすために始め、それをきっかけにハマったらしい。

 

 俺は当時、変なプライドから生粋のゲーマーではないのに才能を発揮する彼に対して対抗心を燃やしていた為、衝突することも少なくなかった。FPS以外では格ゲーが好きらしく、○拳をよくプレイしていた。ゲーム以外は筋トレが趣味だった。歳の離れた妹がいたので、長男気質が強く、チームのまとめ役としての側面もあった。だが、彼は白兵戦での駆け引きとフィジカルがずば抜けて秀でていた為、最終的にはポイントマンとして活躍していた。

 

 PERU……瀬砂は中肉中背で同級生、基本物静かでネガティブ思考だったが、いざという時は俺たちの中で一番熱くなる男だった。学生時代は不登校だったらしいが、学力は高く、名門大学に通っていた。努力が嫌いですぐに楽な方に行こうとする、いけ好かない野郎だった。

 

 意外とモテる男で、ゲームに理解のある可愛い幼馴染みがいて、その娘と付き合っていた。彼女のいなかった俺とクレスは電話で惚気ているPERUの姿を見る度に、どうやって彼をぶっ殺そうかと議論していた。役割は狙撃手兼司令塔であり、当時、日本で彼の右に出るIGLは居なかった。

 

 そんな化け物2人に囲まれながら、俺は何していたかと言うと、中衛でガンナーとして適当に援護射撃とかをうおおおおおって感じにやってた、日本一という肩書だけは一応2人より上だったけど、まあ2人より長くやってただけだし、これと言って特化した才能とかもなかったのでしょうがないねって感じだった。

 

 俺たちは何度も衝突した、でも、俺はその時、初めて本当の意味で、人と分かり合う事ができたと思った。

 

 人間、人と接するときにはつい壁を作ってしまうものだ。俺はずっと、真の意味で心が許せる人はいなかったのだ、家族も含めて。

 

 それでも、彼らになら……思ったありのままの言葉を、ぶつけてもいいと思えた。最初は井赤から言われるまま目指していた世界一という目標も、次第に本気で目指してみようかと思うようになった。

 

 この3人で、行けるところまで行ってみたい。それだけの単純な願いを、俺たちは追いかけた。

 

 そんな俺たちは、チーム結成から僅か一年で世界一へと至った。

 

 FPSというゲームジャンルで、日本人において前人未到の世界制覇を成し遂げたのだ。すごいよなまじで、俺も頑張ったけど、ほぼ二人が無双してたからあんまり実感がなかった。

 

 それから俺たちは、様々な大会に参加し、実績を修めていったんだ。俺の人生で、一番面白かった時期である。

 

 だけどまあ、夢の時間は長くはつづかない訳で。

 

 全盛期を終え、衰えていった俺らを、現実が飲み込んでいった。

 

『なあケイ郎、俺、結婚する事になったんだ』

『まじかよPERU、幼馴染みちゃんとだよな?』

『ああ……俺ももう25だし、いつまでも待たせるのも悪いだろ』

『まあ、確かにな……てか、おめでとう』

『ああ、ありがとう……それでさ、俺、プロゲーマー、止める事にしたんだ』

『は? なんで───』

『相手の両親に挨拶に行った時殴られてな……プロゲーマーなんて、仕事として認められない、だってさ』

 

 当時は今以上に、プロゲーマーに対しての理解がない時代だった。まあ、仕方ない、生きてればこういうこともあるだろう。

 

『大会での成績も落ちてるし、いつ首を切られるか分かったもんじゃない、ここらが俺の潮時かなって思ってな、次の就職先も決まってる』

『そうか……そうか、がんばれよ』

『ああ……だから、さよならだ、英作』

 

 PERUは憑き物の取れたような晴れやかな笑顔で、『Argonauts』から去っていった。

 

 ───その一年後。

 

『ケイ郎、俺、大学通い直そうと思うんだ』

『……そうか』

『PERUのことでさ、未来の事とか考えちまったんだ、今のままでいいのかなって』

『……ああ』

 

 まあたしかに、プロゲーマーほど、5年後どうなっているのか分からない職業はない。ゲームには流行り廃りがあるし、5年後にはなくなっているゲームもあるだろう、選手としても、いつまで通用するか分からない。

 

『もう、俺も歳なんだろうな、怖気づいた』

『……』

『さよならだ、英作、今までありがとうな』

『なあ……』

『どうした?』

『いや……なんでもない』

 

 いかないでくれ。

 

 そう言おうとして、言葉が喉につかえた。

 

 これまでどんな暴言も罵声も、気兼ねなく言えたのに。この時は、その一言だけがどうしても口から出なかった。

 

 あの時、後一歩踏み込んでいれば、運命は変わったのだろうか。

 

 ……考えるのはよそう、後の祭りだ。

 

 ヘラヘラクレスは憑き物の取れたような晴れやかな笑顔で、『Argonauts』から去っていった。

 

 そして2人は……厄介な事に呪いを残していった、二度と消えることのない不死の呪いだ。

 

 2人とも、最後に同じ言葉を言って、俺の前から消えた。

 

『俺は諦めたけど、お前は絶対諦めるなよ……もう一度、世界一になる目標を』

 

 ───お前らは、何か勘違いしてる。

 

 俺がもう一度世界一になりたいと言ったのは、そう言うことじゃないんだ……ちがうんだよ、俺はお前らともう一度、昔のように全力でゲームがしたかっただけなんだ。

 

 俺はそんな心を押し殺し、静かに笑って彼らを見送った。

 

 そしてまあ、月日は経ち。

 

 チーム脱退後、彼らは俺に負い目を感じているのか、あまり連絡して来なくなった。

 

 俺も彼らとどう接していいか分からずいるうちに、いろいろあって疎遠になった。

 

 俺がプロゲーマーを続ける理由はなくなった、だから彼らの後を追って、何度もチームを抜けようと考えたことはあったさ。

 

 でも、その度に頭の奥にある呪いの言葉が俺を引き留めたんだ、ついには最後の時まで決心する事ができなかった。

 

 そして、彼らと繋がりがなくなって五年の月日が経ち、俺はついに、最後に残っていたプロゲーマーという肩書さえも失った。

 

 俺は大人になりきれず、2人に完全に置いていかれた。

 

 以上が、俺の面白味のない過去にまつわる話だ

 

 まじで、疲れた日にこんな夢見るとか、俺は運が悪すぎる。

 

ーーー

 

 次の日、俺は約束通り、また星猫姉妹とコラボ配信をした。

 

 ……まあ、お察しの通り、今日も振り回された、ちなみに、Hektoからも「配信見て、勉強させてもらいます!」とメッセージが来てた。一体何を勉強するつもりなのだろうか、彼のことを考えると、みぞおちのあたりがきりきりとした。

 

 ……そろそろ胃薬をガチで服用すべきなのだろうか、配信が終了しそんなことをボーッと考えていると、まだグループ通話にいた星猫姉妹からとあるお願いをされた。

 

「大会?」

「……うん、大会」

「私たち姉妹と、もう1人のプロゲーマーの人で出場する予定だったんだけど、プロの人が出れなくなっちゃって」

「それで俺に代役を?」

 

 大会名は『超絶ストリーマーカップ夏の陣』、レジェスクの大会はあまり詳しくないのだが、エンジョイが大前提らしく、気軽に出ても許されるような大会らしい。

 

「ああ……そういう事なら引き受けるぞ、でも、本当に俺でいいのか?」

「いいんだよね、らいちゃん?」

「うん……私、ケイ郎さんと、一度でいいから、肩を並べて大会に出たい」

「───って事で、よろしくお願いします!!」

 

 ……大会か、なんだか久しぶりだな。

 

 プロゲーマーでなくなって半年、ゲームを真剣に遊ぶ機会がなかったことに気がつく。片手間というわけではないが、ゲーム配信などは自分が楽しむことをメインとしてやっていた。確かにそれが続くのもいいのだが……なんだか少し物足りない気もしていた。今回の大会は、いい刺激になるかもな……そう思いながら、大会特設サイトの要項を眺めていると、一つの文言が目に止まった。

 

 ーーーーーー

[ 参加条件

[ ・動画投稿サイト、各種SNSのいずれかにおいて、フォロワー数または登録者数が5万人以上の方

 ーーーーー

 

 あれ……俺、今チャンネル登録者数何人だったっけ。急いで確認した。

 

 ーーーーー

[ チャンネル登録者数:4563人

 ーーーーー

 

 えっと……あ、うん、十分の一も満たしてねえや、ダメだこりゃ。

 

「ごめん、登録者足りないから俺、大会参加できないわ」

「あ……本当だ」

「諦めちゃダメです!!大丈夫です英作さん!!エントリーの期日までに登録者が増えて、条件を満たせば参加できます!!」

 

 確かに、星猫姉妹とコラボし始め、たった2日で4千人登録者が増えている、この調子で増えてくれれば行けなくもない……?

 

「……私たちとコラボしてれば、自然に目標達成するかも」

「希望が見えてきたな、ところで、期日は?」

「2日後です!!」

 

 ほう、なるほど、2日後、2日後ね。

 

「いや無理じゃねえか」

 

 次回、ケイ郎大会参加できず!!デュエルスタンバイ!!……いや、まじでどうすんの?

 

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