宇宙歴783年 テルヌーゼン 士官学校
士官学校を卒業してから6年がたった。少尉任官から大佐まで昇進した。自分でも見事なものだと思う。いつ死んでもおかしくない戦争を何度も潜り抜けてきた。帰ってくる度に昇進する運に恵まれたと思っている。
そんな自分に士官学校で教官を任じられた。任官前に着任の挨拶に来たのだが特段何もなく無事に終わり懐かしの青春の学び舎を見て回っている。校長や教官から訓示を頂き、懐かしい教官に挨拶をした。些事が終わり外を回っていると微かな音が聞こえた。ピアノの音だろう。近くのハイネセン音楽学校からだろう。
「中々の演奏だな。今少し側で聴きたいな」
独り言を漏らしてしまった。苦笑しながら音が聞こえる方に歩き出した。
音楽室の中にあるピアノの前に女性が座っている。彼女が弾いているようだ。目を瞑り静かに聞いている。
10分ほどで終わった。もう少し聴きたいと思ったが仕方ないか。自分に気付いたのだろう。女性が顔を向け、立ち上がり此方に歩いてきた。
「こんなところで何をしているの?士官候補生?それとも教官かしら?」
「1月後から教鞭を取ることになったユーリ・クーロ大佐です。貴女の名前は教えていただけるのかな?」
笑いながら話しかけると答えてくれた。
「ジェシカ・エドワーズです。よろしく、新任教官さん。」
中々の美人だと感想を抱いた。
「見事な演奏だった。リストの愛の夢だろう。」
「知っているの?軍人がこの曲を?」
驚いているのが表情に出ている。
「軍人だからは関係ないだろう。軍人でも音楽を興じる感性のあるものもいる。」
私の返しに彼女が苦笑をした。
「ごめんなさい、確かにそうね。失礼な事を言いました。」
「謝罪を受けよう。また機会があれば聴かせてもらえないだろうか?それとも嫌かな?」
「構いませんよ。機会があれば。」
「よかった。ではよろしく頼むよ。ちょくちょく顔を出させてもらうから不審者扱いはしないでくれよ。」
自分を卑下する言い方が壺に入ったのか笑っている。
「安心していいわよ。中々のルックスだから生徒達がざわめくだけよ。」
「そうか。なら安心だ。では入学式が終わった後に聴かせてもらうのは駄目かな?」
「分かったわ。代わりに昼食は貴方がご馳走してね。」
「いいだろう。好きな店を予約しておくといい。」
「いいの?高いお店を予約するわよ。」
笑いながら聞いてきた。
「年の割に昇進しているからそこそこの高給取りだし、恋人も候補もいないからね。有り余っている。本当に好きな店を予約していいよ。」
「というか、こういう時は男性がエスコートしてくれるのでは?」
ジーッと此方を見ているジェシカ・エドワーズに苦笑を漏らした。
「こういったことは苦手でね。いざというときは女性に任せようと決めているのだよ。」
そう答えて踵を返した。此れが長い間の人生を共に歩むことになるジェシカ・エドワーズとのファースト・コンタクトであった。