宇宙歴783年 テルヌーゼン 士官学校
士官学校に赴任して三ヶ月経った。ヤン経由でジャン・ロベール・ラップという戦略研究科の少年と知り合ったり、同じ戦略研究科のマルコム・ワイドボーンと知り合ったりと色々あった。
そんな平穏な日常を壊す男が襲来してくるとは思っていなかった。
今日の講義を全て終えたので隣の音楽学校に向かう。何時も通りのジェシカの演奏を聞くためだ。週に一回か二週に一回聞きに行っているので音楽学校の警備員とは顔見知りで手続きが楽になった。ジェシカが警備員に伝えてくれているので諸々の入校手続きをしなくて良くなったのは助かった。
そんなことを考えながら士官学校の校門へと歩いていると一人の男が此方に向かって歩いてきている。夕方なので陽射しのせいで顔が見にくい。5m位の距離になり、その人が誰か分かった。
があまり会いたくない人物だったので顔を顰めて声をかけた。
「部外者は立ち入り禁止だぞ。何をしている?」
その声に男は肩を竦めながら返事をした。
「勿論、閣下が将官になられたことのお祝いですよ。お互いに尉官からの仲ではないですか。あまり邪険にせんでくださいよ。」
そんなことを言ってきたので更に辛辣に返すことにした。
「お前のせいでろくな目にばかりあっているからな。辛辣にもなる。軍務でもプライベートでもだ。嫌な事が多すぎる。」
その男は笑いながら質問してきた。
「話を戻しましょう。閣下は此れからどちらに?まだ就業中かと思ったのですが?」
「今日の講義は終わったから私用で早上がりさせてもらったんだ。約束の時間もあるから歩きながら聞こう。場所は近くの音楽学校だ。」
「分かりました。お供しますよ。」
横に並び歩き始めた。
「それで何の用なんですか?音楽学校になんて?」
「ピアノを聞くために行くんだ。」
立ち止まり、一瞬呆けた顔をして笑い出した。
「閣下がそんな高尚な趣味があるとは知りませんでした。分かりました。付き合いましょう。」
そう言って歩き出した。やっぱりあまり会いたくない男だと思った。
音楽学校に入っていつもの教室にノックをして入った。
「いらっしゃい、不良教官さん。あら、お客様?どなたか紹介してくださる?」
ジェシカがそう言ってきたので顔を顰めながら隣にいる男を紹介した。
「こいつはローゼンリッターのシェーンコップ大尉だ。」
紹介されたシェーンコップは恭しく一礼して挨拶をした。
「ワルター・フォン・シェーンコップ大尉です。お見知りおきを。」
ジェシカは目をパチクリしながら聞いてきた。
「ローゼンリッターってあの薔薇の騎士連隊の?貴方、知り合いだったの?」
そんなことを聞いてきたので正直な気持ちを答えた。
「非常に不本意ながらな。関わらずに人生を終えれるならそうしたかったよ。」
そう答えると隣のシェーンコップは笑いながら出会いをジェシカに説明した。
「閣下の初任官の地に私達が偶然居ましてね。そこの不正を政治家、軍部、官僚、民間人問わず残らず検挙したのが彼なんですよ。そこで指揮下に入って取り押さえたのが我々ローゼンリッターなんですよ。」
そんな事を話していると30分ほどの時間が経っているのに部屋の時計で気付いた。
「ジェシカ、そろそろ頼むよ。私達は座って大人しく聞いているから。」
そう言って椅子を少しピアノから離れた位置に並べて座った。ジェシカが1曲目を弾き終えて2曲目に入った所で隣の男に声をかけた。
「それで、何の用で来たんだ?」
「あっ、やはり分かっていましたか?」
「当然だ。お前がメールや通信で済ますような内容で態々ここに来るはずないからな。となれば他聞を憚る内容何だろう。ここなら盗聴も監視もない。」
チラリとシェーンコップに視線を向ける。ニヤリと笑い話し始めた。
「実は今は我々は惑星カッファーに居るのですがどうやらそこでサイオキシン麻薬が流行っているようでして。」
内容に一瞬目を見開き、厳しい視線を向けた。
「事実なのだな?それで俺に何をして欲しいと?」
「流石は話が早くて助かります。実は証拠もそこそこありまして、カッファーを預かる司令官も信頼できる方なので問題ないのですが今一強制捜査に踏み切れないようで。」
「そこで私に尻の蹴飛ばしを頼みに来たのか?」
「左様です、閣下。」
つい頭を掻いてしまった。
「司令官は誰だ?それ次第で言う人は変えた方が良いだろうな。」
チラリと視線をやると直ぐに答えた。
「リンチ大佐です。」
「リンチ?アーサー・リンチか?」
「ええ、ご存じだったのですか?」
コクりと頷き話し始めた。
「私が大尉になった時の上官だ。その時は少佐だったな。そこそこお世話になった。軍事も軍政も器用にこなす使える人だ。恐らく惑星全体が騒動で揺れるから尻込みしてるのだろうな。帰ったら話を通しておこう。抜かるなよ、ローゼンリッター。」
「ありがとうございます。ご期待にはお応えしましょう。ローゼンリッターの名誉にかけて。」
気障な仕草だがコイツがすると様になる。やっぱり嫌いだと思った。
「ちょっとお二人さん。私が演奏してるのに楽しくおしゃべりですか?ホント失礼よね。」
ジェシカが注意をしてきたので2人揃って頭を下げて謝り、それから1時間程は集中してジェシカの奏でる旋律を楽しんだ。
演奏を聞き終えてシェーンコップと2人で帰ることになった。駅までジェシカを送ってから私の官舎に来るそうだ。
「ジェシカ、気をつけて帰れよ。今日は家まで送れなくて悪いな。用事が出来てしまってね。」
「気にしないで。貴方が何も言わずに友人を連れてきた時に何となくだけど察しがついたわ。じゃあ、またね。」
そう言って軽く手を振り駅に向かって行った。行こうかとシェーンコップに目線をやると急に少しお嬢さんと話してくるのでここに居てくださいといって、ジェシカの方に小走りで向かって行った。
一言、二言話して帰ってきた。
「すみません、お待たせしました。では、行きましょうか。」
そう言って歩き出した。やはりこの男はあまり関わりたくない男と再認識した。