銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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ヤンの才能の片鱗

宇宙歴784年 テルヌーゼン 士官学校

 

新年度が始まり初年生が入校して2ヶ月が経った今日から二年生のシミュレーションの大会が行われる。

注目カードは二年生首席のマルコム・ワイドボーンだろう。対戦相手がヤン・ウェンリーなのが面白い。

二階の観客席から見る予定で部屋に入ったらシトレ校長がいた。隣にはキャゼルヌ大尉もいる。仕方ないと諦め、声をかけた。

「校長も観戦ですか?」

「あぁ、毎年観戦させてもらっている。校長室のモニターでなのだが今日はワイドボーンの試合だから生で観ようと思ってね。お邪魔しているよ。」

「いえ、構いませんがキャゼルヌ大尉もですか?」

「付き合えと云われてね。」

「ご苦労様ですね。」

お互いに苦笑を浮かべている。そんな私達を見ながらのシトレ校長は話しかけてくる。

「ワイドボーン候補生の相手は誰かね?ヤン?ウェンリー?何処の学科かね?」

「戦史研究科のヤン・ウェンリーです。中々に戦史の造詣が深いので面白い戦いになるかもしれませんよ。」

「ほう、君の期待の候補生かね?」

「期待はしています。しかし、個人指導はどの候補生に対してもしていませんよ。」

「そうなのかね?理由はあるのかね?」

「先ずは得意、不得意、癖や傾向等のデータを見ています。そこから指導を入れていくのが私のスタイルですので。」

「二年しかいないのにそこまでするのかね?時間なんて幾らあっても足りないだろう?」

「データ全てを検証なんてしませんよ。相手の用兵の癖や傾向が分かればいいんです。パラパラと見るだけですからね。データは多いほうがいい。」

「君を嫌っていたホーランド候補生にも教えたのかね?」

「当然です。私は好き嫌いで区別はしませんよ。それを有効に使うか、使わないかは当人の問題です。そこまでは関知しませんがね。」

肩を竦めてシトレ校長とキャゼルヌ大尉に伝えた。

両名が顔を見合わせて笑った。

「始まりました。」

モニターに視線をやり、二人に伝えた。

 

 

宇宙歴784年 テルヌーゼン

 

キャゼルヌ視点

 

ワイドボーンが前に出ていくのに対してヤンは躱して後方に出ていく。ワイドボーンの後ろを突くと思ったが更に後方の補給基地を攻めるようだ。

「ヤン・ウェンリーの勝ちですね。」

モニターを厳しい目でクーロ准将は見ている。まだ互いに戦力に大きな差がないのに早々に告げる彼を疑いの目で見てしまった。それに気付いたのか苦笑を浮かべて訳を話してくれた。

「私とホーランド候補生の演習ですよ。あの再現になります。ワイドボーン候補生は補給が出来ない。ヤン候補生は出来る。其処を突くと思いますよ。」

「彼も見ていたのか?」

「恐らく。実際にではなく、データ保管庫にあったデータだと思います。」

「中々に勉強熱心な候補生のようだね。」

シトレ校長がクーロ准将に話しかけた。それに苦笑して答えた。

「只の暇潰しでしょうね。彼がそんなものを態々見るとは思えないので。」

クーロ准将の返しに大笑いしている。私も笑ってしまった。

そこでワイドボーンの艦隊が撤退を始めた。ヤンの艦隊が反転攻勢に出ようとしたところで演習は終わった。

 

 

宇宙歴784年 テルヌーゼン

 

「まともに戦っていれば俺の方が勝っていたんだ!奴は逃げ回っていただけじゃないか。」

ワイドボーンがウェンリーに向かって吠えている。それに対してヤンは頭を掻いて苦笑している。

周りもワイドボーンの味方のようで卑怯者とか言っている。流石に問題だと思い、下に降りることにした。

「少し下に行ってきます。」

そうシトレ校長とキャゼルヌ大尉に告げて、部屋を出て下に降りた。

シミュレーション室に入ると私の顔を見て、発言が止まった。

「さっきのワイドボーン候補生とヤン候補生の経過は見ていた。ヤン候補生の見事な作戦勝ちだな。おめでとう。」

そういって右手をに差し出した。ヤンは私の顔を見てから、おずおずと握った。

周りから逃げ回っていただけだと声が出た。

「君達は何か勘違いをしている。此れは1対1の艦隊戦だ。結果から見ればヤンはワイドボーンの艦隊を追い返したという事になる。あのまま戦闘を続ければ燃料切れで大敗していただろう。撤退は良い判断だった。」

ワイドボーンは手を強く握り締めている。肩も震えているから屈辱を噛み締めているのだろう。

「ワイドボーン、君は悔しがっているがあのまま戦えば全滅していただろう。そうなれば 150万人が死んだという事になる。」

私の言葉に皆がハッとしている。

「それを防いだのだ。私は高く評価する。あそこで無理攻めをしなかった君をな。」

そう言ってワイドボーンに笑いかけた。

「君達は士官になる。部下を持つということだ。部下を無駄死にさせることのないようにするのが仕事になる。無駄死にしたいなら自分だけでやってくれ。それが分からないなら軍人になるのは止めた方がいいと私は思っている。」

「君達に求めるのは勝つことだがそれが厳しいなら難しいなら退くことも勇気を持って選択できる軍人になってほしい。どうか無駄に人を殺さないようにしてくれ。」

私の言葉に場が静まり返っている。重く暗い言葉に何もいえないのだろう。だが其れで良い。自分の生死について真剣に考える機会になってくれたのなら。そう思いながら部屋を出た。

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