銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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出兵式典

宇宙歴785年 テルヌーゼン 士官学校

 

6月のある日、1日休暇の私はアレックスと飲みに行く約束をしたので夕方に士官学校を訪れていた。たった2ヶ月前まで毎日のように来ていたのに2ヶ月来ないだけで懐かしさが胸にあった。

門の前ではヤンとラップ、ジェシカの3人がビラを配っている。ヤンは『戦史研究科廃止反対』の文字が書かれた旗を持ち、所在無さげに突っ立っている。どうやら熱心に活動しているのはジェシカで、その熱意に付き合って真面目に取り組んでいるのがラップのようだ。

ヤンはここまで大事になるとはって困惑しているのだろう。

遠巻きにコーヒーを飲みながら抗議運動を見物する。私を見つけて、一観衆に徹しようとする私に不満なのだろう。ジェシカが眉を顰めて手招きをしている。

「貴方、後輩がこうやって頑張っているのに遠巻きから見てるだけなんてどうなのよ!」

怒っているジェシカを見てからヤンに目を向ける。ジェシカもヤンに目を向けたので一言伝える。

「あれで精一杯頑張ってるって。」

つい笑ってしまったが思っていることが伝わったのだろう。額に手を当てて唸っている。

「それにだ、戦史研究科は廃止になるが放校になるわけではなく、別の科に移動できるんだ。そこまで酷いことをされてるわけではないだろう?一番下の科からの移動だ。最低限の配慮はされているよ。」

「軍の候補生として軍から給与を貰っている以上は決定に従わないといけない。部署異動と一緒だ。それが嫌なら辞めるか抗議をすればいい。どういう結果になるかは見当はつくが。」

ムスーッとしているジェシカに苦笑してしまった。

「心の中では応援しているよ。」

そう告げて肩を叩いて校内に入っていく。

 

 

宇宙歴785年 ハイネセン 統合作戦本部前

 

11月になり、遂に出兵になった。シドニー・シトレ大将を総司令官にビュコック中将、グリーンヒル中将の2人が従う形で総勢4万5000隻の艦隊で出撃する事になった。

対する帝国もミュッケンベルガー元帥を総司令官にクラーゼン上級大将、グライフス中将が従い、総勢4万4000隻の艦隊のようだ。

現在は国防委員会副委員長に先日就任したヨブ・トリューニヒトが戦意を煽る煽動演説をしている。シトレ大将を始め、各艦隊司令官は白けた眼で見ている。隣に座っているグリーンヒル中将が話しかけてきた。

「君はあのトリューニヒトという男をどう見るかね?」

「どうというと?」

「主戦論を煽り、国民に耳触りの良いことを言って人気取りに勤しむ、あの卑劣漢をどう評価するのかと聞いている。」

あまりの酷評と嫌悪感満載な言葉に苦笑しながら答える。

「民主主義を取っている同盟に於いて議員になるなら多数を取らないといけません。その点では的確に同盟市民が望んでいる事を訴えて票に繋げているところに関しては評価します。好きではありませんが。」

顔を険しくしている。私がトリューニヒトを褒めたことに反感を覚えたのかもしれない。

「問題は彼が他人に責任、労苦を押し付けているのではないかといったところです。彼の親族等の周りで前線に出ている人はいるのか。恐らくいないでしょう。そういった点で私は彼を支持することはありませんし、関り合いになりたいとも思いませんね。」

グリーンヒル中将が深く頷いている。

 

一通りの式典が終わり、各々の乗艦に向かうことになる。途中にグリーンヒル中将のご息女がいたので声を掛けにいく。

「フレデリカさん、ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです。」

「ありがとうございます。クーロ少将もご無事のお戻りをお祈りしています。」

「感謝します。ところでお母さんはどうしたのかな?来ていらっしゃらないのかい?」

「体調が思わしくなくて。」

「そうか、お大事にと伝えてくれるかな?」

コクリと頷いてくれたので頭を一撫でした。

「帰ってきたらモン・サン・ミッシェルのケーキを持ってお見舞いに伺うよ。約束だ。」

そう伝えてからその場を離れた。

「待ってますからね!!」

そんな声が後ろから聞こえたので右手を上げて応えた。

少し行くとジェシカがいた。心配そうな顔をしているのが一目で分かった。

「見送りに来てくれたのか?感謝するよ。」

「武勲なんていいから無事に帰ってきてね。約束よ。」

そういってきたので額に1つキスをした。

「約束するよ。必ず帰ってくると。」

涙ぐんでいるのが分かったが何も言わなかった。シャトルに乗り大気圏外に待機している乗艦に移動した。艦橋に入ると全員が敬礼したので答礼を返す。

参謀長のチュン・ウー・チェン中佐が近くに来て報告をしてくれる。

「乗員、皆揃いました。何時でも発進可能です。」

「分かりました。命令あるまでスタンバイでお願いします。」

ハッと敬礼して指示を伝えにいった。年下の上官に不平、不満を表に出さず、忠実に任務をこなしてくれるチュン参謀長に感謝しかない。席に着き、時が来るのを待つ。

オペレーターが声を上げた。

「総旗艦ヘクトルより命令、全艦発進せよ!です。」

チュン参謀長が閣下と声を掛けてきたので頷き命令を出した。

「全艦発進。予定宙域へ移動する。」

多くの会戦を戦うことになる私の艦隊司令官としての最初の一戦がここから始まった。

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